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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十章【想定外のデート、想定外の展開】
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「あ、調度いいところに!」

軽快な足音とそんな元気な声がして、私と一護くんは同時にそちらを向いた。


「おい一護、お前弁当忘れてった…ぞ?…――あれ、優妃ちゃんも?こんなところで、どした?」


廊下に立ち尽くしていた私と一護くんのところにやって来たのは、一護くんのお兄さんの、琳護先輩だった。


「ってお前、なに優妃ちゃん泣かせてんだよ」

私の顔を見て、琳護先輩が一護くんを睨む。


「はぁっ!?俺じゃねーよ!つか、泣かせたのは朝斗だろーが」

「違うんです…」という私の声は、即座に言い返した一護くんの声にかき消された。


「???」

一護くんの言葉に、琳護先輩が首をかしげる。

「朝斗が?どーゆーこと?」


(朝斗さん…、琳護先輩にまだ言ってないんだ…)

私はそんなことを意外に思いながら、こちらに説明を求めるように視線を向けている琳護先輩に、言わなければと口を開く。


「…“別れよう”って…言われちゃいま…しっ」

言い終わるより前に、心が悲鳴をあげた。


(ダメだ…泣くなんて…私にはそんな資格無いのに…)


「「えっ?」」

時田兄弟の驚きの声が、同時に重なる。


「んでだよ、なんでそんなことに…?」

一護くんが目を丸くして、独り言のように呟いた。


「アイツのことだから、また変なプライドでそんなこと言っちゃっただけなんじゃない?以前(まえ)にもあったよねぇ、そんなの」

琳護先輩が私を慰めるように明るくそう言ってくれた。

だけど今回は、以前のような事態ではないと自分でも理解している。



「私が…朝斗さんのこと…傷付けてしまって…。幼馴染みの一琉と…ディスティニーランドに行ったりしたから…」

私は涙を拭い、なんとか二人にそれだけを話した。


「わー、まさかの優妃ちゃんの浮気が原因!?」

琳護先輩が驚いたように言った。


(“浮気”!?)


そんな言い方をされるなんて思わなくて、私はつい声をあげてしまった。

「浮気だなんてっ!」

“そんなの、あり得ないです!!”そう言おうとして、私はハッとした。


(私がそう思ってなくても…朝斗さんがそう思ったらそれはもう“浮気”…なんだ…。)


そこに“好き”という気持ちがなくても、

ただの“幼馴染み”というだけの関係だったとしても。

これは、“浮気”に…なるんだー――――…。

(浮気の自覚がなかったなんて、私はなんてバカなの…馬鹿すぎるよ…。)


「…っ私…バカなことしました。もう許してもらえないですよね…」

「さぁ、俺は朝斗じゃねーからそれはわかんねーけどさ」

いつもと変わらない明るいトーンなのに、グサリと刺さる言葉で琳護先輩が言った。


「優妃ちゃんがそんなサイテー女だと思わなかったわぁ、意外意外!」

「……琳護、言い過ぎだぞ…っ」

一護くんが私の方をチラリと見て、言った。

「………」

「優妃ちゃんと付き合ってから朝斗(あいつ)変わったんだよ、やっと人間らしくなったっていうかさぁ…」

真顔になった琳護先輩が、ポツリと言った。


「なのに、そんな裏切り方は“無い”わ…」

「………」


私は、なにも言えなかった。

言えるはずがなかった。

琳護先輩の言うとおりだから。


私が昨日していたのは、朝斗さんに対する“サイテー”な“裏切り”行為、“浮気”だったのだ。

しかも、浮気になると気付かずに一琉と一緒に、楽しんでしまっていた。

一琉の気持ちを知っていたくせに、だ。



今さらそれについて何を言っても、朝斗さんに許してもらえるわけがない。

その事実が無くなるわけではない。

取り返しのつかないことを、したのは私…。


(本当に、最低だ…私)


それなのに、涙はいくら拭っても止まらなくて…、

これじゃあまるで私が被害者みたいだ。


「私…戻ります…」


琳護先輩と一護くんに何とかそれだけ告げて、涙でぼやける足元を見ながら、フラフラと歩く。


(朝斗さんを、傷付けた………っ)


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