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恋してるだけ   作者: 夢呂
第二十章【想定外のデート、想定外の展開】
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「私…帰る…」

私は一琉に向き直ってポツリと言った。


「は?何言ってるの?まだ行きたいところたくさんあったんだろ?」

一琉が不機嫌極まりない表情でそう捲し立てる。


(そうだけど、でも私、今はそれよりも…―――)

行かなきゃ、会いに。

朝斗さんに、伝えに。


「ごめん、一琉。ありがとう、連れてきてくれてっ」

私はそれだけ言うとすぐに元来た道へと走り出した。


(朝斗さん、朝斗さん…ごめんなさい…っ)





朝斗さんに何度も電話をかけながら、私は朝斗さんのアパートまで向かった。

だけど、何度かけても、朝斗さんは電話に出てはくれなかった。


(怒ってる!朝斗さん、きっとすごく怒ってる!!)


理由は、無断で一琉と遊びに出掛けていたからだ。

朝斗さんに以前から言われていたのに…―――

“そういうの嫉妬するからやめてくれ”って。


―――私はどんな理由があったとしても断るべきだった。


(分かってたのに…。最低だ…っ!)

アパートまでの道のりを、自己嫌悪を振り払おうとするように私は力の限り走った。


一琉が昔みたいに優しくて、仲良かった頃に戻れた気がして、嬉しくてはしゃいでしまった。


(なんて、そんなこと…言えるわけない…)


自分の中で朝斗さんに伝える言葉もまだ選びきれてなかった。

だけど、私はまず朝斗さんに会いたかった。

顔が見たかった。声が聴きたかった。


『ピンポーン…』

インターホンを鳴らしても朝斗さんは出てきてはくれなかった。

『ピンポーン…』


私は必死で、玄関の扉を手で叩いた。


「朝斗さん!開けてください!!居ませんか?」


しばらくして、ガチャンと鍵の開く音がした。

玄関の扉が開き、朝斗さんが不機嫌そうに顔を出した。

(やっぱり…怒ってる…)

―――分かってたことなのに、ズキッと胸が痛んだ。


「…何?もうデートはいいの?」

目が合った瞬間、朝斗さんは苦しそうに私から顔を背けて言った。


「―――…ごめんなさい。でも、違うんです!一琉とは別にデートなんかじゃなくて…「いいって。もう。」


私が必死に説明をしようと朝斗さんの顔を見上げた

時、朝斗さんが顔を背けたまま吐き捨てるように言った。


「以前から言わなきゃとは思ってたんだ」

「…?」


朝斗さんの、こんな表情を、私は見たことがなかった。

(すごくつらそうで、すごく切ない…胸の奥がつまるような…―ー?)


私は次の瞬間、そんな思考が全て止まるほどの衝撃を受けた。


「やっぱり君とは付き合えない。別れよう」


「…え?」

信じられない言葉に耳を疑った。

朝斗さんを見上げたまま私は立ち尽くしていた。


「ってことだから、もう(ここ)にも来ないでくれるかな?迷惑だから」


私の目をまっすぐ見つめて、朝斗さんがそう告げた。

今まで他人に向けていた、あの(● ●)王子様スマイルで―――。



背を向けて家の中へと戻っていく朝斗さんの姿に、我に返った私は呼び止めようとした。


「…――ちょ…っ」


でも、驚くほど声が出なくて、私の声は朝斗さんには届かなかった。

バタンと玄関のドアが締まる音と同時に、私の目の前は真っ暗闇に閉ざされた。


『別れよう』


(嘘ですよね…?こんな…――――)


何だろう、衝撃が凄すぎて涙も出ない…―――。

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