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「ねぇ、ちょっと…っ!どこ行くの?」
私の腕を引きながら、一琉は半歩先を早足で歩く。
「いいから早く来なよ。まったく、優妃はどんくさいんだから…」
「…っ!」
残念ながらその通りなので一瞬言葉に詰まり、私はうつ向きながら不貞腐れる。
「わ、悪かったわね…どんくさくて」
(そんなことしか言い返せないなんて、私って本当にどんくさ…)
自己嫌悪に陥りかけた私に一琉が前を向いたまま言った。
「別に悪いなんて言ってないけど?」
「…へ?」
一琉があまりにらしくないことを言うから思わずまぬけな言葉が漏れてしまった。
「っていうか、今更だろ」
振り返った一琉が、いつも通り悪戯にそう言う。
だけどその笑顔は優しくて――――。
私はまたしても一琉の笑顔に心臓がドキンと跳ねてしまった。
「ひ、ひどい!」
自分の感情をごまかすように私は声をあらげた。
「って…ここ!ディスティニーランド!?」
しばらく電車を乗り継いで着いたのは、私が小さい頃からずっと憧れていたテーマパークだった。
「うん。当日券が二枚、たまたま手に入ったからね。優妃、連れてきてやろうかと思って」
一琉が、わざとらしくぶっきらぼうに言う。
(“たまたま”って。…“嘘”だ。)
どんくさい私にだって、それぐらい分かる。
ここのチケットがそう簡単に手に入らないってことも。場所的にも金銭的も、高校生がそんな簡単に来られるところではないってことも。
「なに?嬉しくないわけ?」
一琉が意外そうな表情をしてこちらをじっと見てくる。
「…―――嬉しい…けど。だけど…」
(初めて来る相手は…、朝斗さんとが良かった…)
なんて。
そんなこと、一琉に言えるわけない。
私が言葉を濁していると、一琉が強引に私の手を引いてゲートをくぐった。
「ちょ…。…一琉…」
「埋め合わせ、してくれるんでしょ?優妃?」
(私…ずるいよね…)
一琉の気持ちには応えられないっていっておきながら。こんな風に、流されて…。
本当はずっと連絡が来ないままの朝斗さんのことが不安で…。寂しくて…。
でも目の前の問題を考えないようにしたくて、こうして過ごしてる私はずるい。
(だけど…こうして私のことを想ってくれる一琉の気持ちは嬉しくて…)
一琉が幸せそうに笑うから、いつの間にか私もすっかり楽しんでしまっていた。




