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(朝斗さん、遅いなぁ…―――)
試合会場の最寄り駅である待ち合わせ場所に時間通りに着いたのだが、珍しく朝斗さんの姿はなかった。
何度電話してみても、出ることはなく留守電になってしまう。
(なにか、あったのかな?寝坊…なわけないか。)
一琉の試合会場までは、ここからそんなに遠くないし、試合が始まるまではまだ時間もあるから、私はもう少し待ってみることにした。
昨日の態度も気にかかっていて、私は不安で一杯になる。
朝斗さんの家に行ってみようかと足を踏み出したところで、迪香ちゃんに遭遇した。
「優妃ちゃん…」
「…おはよう!」
お互い何となく気まずい空気が流れる。
「こんなところで、何してるの?あ、試合会場分からなくなった?―――なら、こっちだよ」
迪香ちゃんが私にそう言って案内してくれようとした。
「え、いや…違くて…」
慌ててそう言うと、迪香ちゃんが首をかしげる。
「その…えっと、待ち合わせ、してて…」
私の言葉に、首をかしげていた迪香ちゃんが何か察したように口を開いた。
「あぁ!牧くんならもう試合会場に…――」
「え?一琉?…――じゃなくて!えっと、彼氏…というか…」
朝斗さんのことを知らない迪香ちゃんに、名前ではなく“彼氏”という代名詞で表現するのが堪らなく恥ずかしい。
私はついうつ向いてしまう。
「え?彼氏…?」
迪香ちゃんの低い声に、私は顔を上げれずにいた。
「…優妃ちゃんて、どれだけ無神経なの?本当にあり得ない!」
「……え?」
顔を上げると、迪香ちゃんが怪訝な顔をして私を睨み付けていた。
「だから私、昔から優妃ちゃんが嫌いだったのよ」
吐き捨てるようにそう言って、迪香ちゃんは足早に私の前から去っていった。
(“無神経”…――――?)




