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「透子と一護、付き合い出したね」
私が透子ちゃんに“応援する”と言った数日後の、金曜日のお昼休み。翠ちゃんが言った。
「…だね。」
その話なら、今朝から透子ちゃんと仲良しの女友達二人が聞こえる声で話していたから知っていた。
今も目の前で、幸せそうな透子ちゃんが一護くんとランチタイム中だったりする。
「見せつけてくれるわよね」
翠ちゃんが苦笑した。私は翠ちゃんにただ微笑んで応える。
(これで、良かったんだ…)
透子ちゃんは明るいし、キラキラしてて可愛いし。
二人はすごく“お似合い”だ。
胸の辺りが締め付けられる気がしたけど、それはきっと私がぎゅっと手で握り締めていたからだろう。
「そういえば優妃は?早馬先輩と文化祭後から一緒に食べてないんじゃない?」
いいの?と首をかしげて翠ちゃんが言う。
「あぁ…うん」
文化祭が終わってから朝斗さんはお昼を誘ってくれなくなった。実行委員の準備室が使えなくなったからかなと思ったりもしたけど、それでも少し何か引っ掛かるものを感じていた。
(元気がないことと、関係あるのかな…?)
「優妃?どした?―――まさか上手くいってないの?」
翠ちゃんが心配そうにますます首を傾けて私の顔を覗き込む。
「そんなことないよ」
私が顔をあげてヘラッと笑って答えると、
「だよ、ね?相変わらず朝も帰りも一緒だしね?」
翠ちゃんがからかうように笑った。
(“そんなことない”…―――ですよね?朝斗さん…?)
その日の帰り、ずっと黙っていた朝斗さんが駅の改札を通ったところで口を開いた。
「優妃…」「はい?」
(朝斗さん、なんだか…怒っているような…―ー?)
「明日、一琉の試合を見に行くのか?」
私の前に向き直って、朝斗さんが真っ直ぐに私を見下ろす。
(やっぱり…怒ってる…)
私が何も言わずにうつ向くと、朝斗さんが私の肩に手を置く。
「どうしてだ?―――優妃、俺の彼女なんだよな?」
「あ、朝斗さん…?」
それは、いつも余裕な“朝斗さん”ではなくて、私は戸惑いながら朝斗さんを見上げる。
「明日、俺も行くから。」
朝斗さんはそう言うと、私に背を向けてひとりホームへと向かった。




