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「じゃあ、また放課後に」
「はい、じゃあまた…」
(今朝の朝斗さん、昨日よりは少し元気そうに見えたけど…。)
翌朝、朝斗さんと一緒に登校してきた私は、昇降口で別れ、一人教室へと向かう。
昨日、朝斗さんはあまり元気が無かった。口数も少なくて、心ここにあらずといった感じで…―――。
(疲れていたというより、何かを“考え込んでいる”みたいな…―ー?)
「おはよ、優妃」
解けない謎に考えを巡らせていた私の後ろから、声をかけてきたのは透子ちゃんだった。
「おはよう」「あのさ、」
私が挨拶を返すのと、透子ちゃんが深刻な表情で口を開くのはほぼ同時だった。
「ん?」
「一護と後夜祭出てたよね。…なんで?」
深刻な表情の理由が明らかになって、私は焦る。
「あ…えっと」
「私は断られたんだよ。なのに…優妃ひどいよ」
傷付いた表情で、透子ちゃんが言った。
「待って、透子ちゃん誤解して…」
「優妃にはさぁ、」
透子ちゃんは頭に血がのぼっているのか、私の話を聴いてくれない。
「いるじゃん、早馬先輩が。どうしてそれなのに…」
(誤解してる…透子ちゃん、違うよ…――)
「透子ちゃん聞いて、私は」
少し声のトーンを上げて、私は言った。
「――――私は、一護くんのことちゃんとごめんなさいって言うつもりで…―――」
本当は、私への気持ちにケリをつけてもらうために一護くんにハッキリと伝えるつもりで…。
『ごめんな、困らせて』
『ううん。私の方こそ…ごめんなさい…』
それなのに――――、いざ一護くんを前にしたら言えなかった。あれが精一杯だった。
(でも、一護くんは優しいから…―――。)
『優妃には笑ってて欲しいから』
フられた後にフッた相手に向かって、笑顔であんな言葉をかけてくれる一護くん。
『好きな気持ちはケリつけるけど、その気持ちだけは変わらねーから』
きちんと私への気持ちにケリをつけると言ってくれた一護くん。
私は、一護くんが好きだ。
一人の人間として。
彼のことはずっと好きだと思う。
だから今、私が透子ちゃんに言うべきことはー―――。
「私、透子ちゃんと、一護くんが上手くいくように応援してるよ」
透子ちゃんも、一護くんも、私の大事な友達だから。二人が付き合ってくれたら、嬉しい。
そう―――――…思っている。
だけど、どうしてそう思おうとすると、こんなにも胸が苦しいんだろう。
嘘じゃない筈なのに、どうしてこんなに…気持ちが晴れないんだろう。
「え、優妃も応援してくれるの?ありがとぉ」
透子ちゃんが嬉しそうに言う。
「うん…」
晴れない気持ちを隠して、私は透子ちゃんに微笑んだ。




