121
『優妃、今からうち来れる?』
朝斗さんから返信が来たのはそれから10分後だった。
『はい!行きます!』
返信してすぐに支度を終えると、私は家を出た。
(あ、そうだ…!)
途中で可愛いカップケーキを買ってから、電車に乗り、朝斗さんの家へと向かう。
「優妃」
インターホンを押すと、しばらくして朝斗さんがドアを開けてくれた。
朝斗さんは微笑んでいたけれど、なんだか少し、元気がない気がした。
「朝斗さん、大丈夫ですか?なんか疲れて…る」
玄関で脱いだ靴を整えて終えて立ち上がると、不意にギュッと抱き締められて、私は驚いて硬直する。
(え…っ?え、朝斗さんっ??)
「うん…そうかもな。朝から学校で片付けしたりしてたから」
私の肩に顎を置くようにして抱き締めながら、朝斗さんがそう答えた。
表情は見えなかったけど、やっぱりどこか元気がない気がする。
「あ…朝から学校行ってたんですね、お疲れ様です!あ、私ケーキ買ってきたので今から食べませんか?」
疲れている時には甘いものが良いって言いますよね?と明るく言ってみると、朝斗さんの腕の力が緩まって身体が離された。
「あぁ…ごめん。」
(“ごめん”――――…?)
謝られたことに違和感を感じて私は顔をあげると、朝斗さんと目があった。
「ありがとな」
ふわりと朝斗さんが微笑んで、ケーキの入った箱を持って、リビングへと向かう。
(朝斗さん、そんなに疲れてるんだ…)
朝斗さんの元気がない理由が、文化祭実行委員長としての疲れだと理解した私は、朝斗さんの背中を見つめてそう考えていた。




