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「ありがとな」
一護くんの言葉にハッとした。
後夜祭はすでに始まっていて、一護くんが私を見下ろしていた。
「後夜祭、付き合ってくれて」
照れたように一護くんが言うので、私はつられて赤くなる。
「あ、う…うん。」
「絶対、断られるって思ってたからさ」
「?」
一護くんが苦笑いで、私を見つめて言う。
「最近やたら、俺のこと避けてただろ?」
「あ…いや、それは…………」
ギクリとしながらも、私は誤魔化そうとあたふたとしてしまう。
「大丈夫、知ってるから。俺のせいなんだろ?」
困ったように笑って、一護くんが言った。
「…一護くんの?」
(なんで?―――…それは違う、一護くんのせいじゃなくて私が…)
「勝手だよな、“友達だ”とか言っておきながら」
一護くんが苦しそうに笑うから、胸が苦しくなる。
(違う…。だってそれは…私も、同じだから…―ー――)
私の思っていることと、一護くんの言葉が…シンクロする。
「本当は、優妃のこと好きになってたのに」
(本当は、私も一護くんが好きになってたのに…)
花火大会の日に、初めて一護くんと話して。
“怖い人”から“優しい人”へとイメージが変わって。
そのあとにも変わらずに“友達として”親身になってくれていた一護くんに。
優しい言葉で私を救ってくれた一護くんに。
私は今、きちんと答えるべきだ。
――――私は今、誰が好きなのか。
「ごめんな、困らせて」
一護くんが笑顔を見せて言った。
私は一護くんの笑顔が好きなのに…困らせてるのは私の方なのに…。
今までのことを思い返したら胸が一杯になって…、私は一護くんに、“朝斗さんが好きだ”とハッキリ告げることが出来なくなった。
「ううん。私の方こそ…」
(言えない…。やっぱりハッキリ伝えるなんて…)
躊躇して、言葉に詰まってしまい、私はうつむく。
「ごめんなさい…」
小さな声で謝るのが、やっとだった。
「そんな顔するなよ」
一護くんがわざとらしく明るい声を出す。
「優妃には笑ってて欲しいから」
一護くんの言葉に、私はそっと顔を上げる。
一護くんの優しい瞳に、ドキンと心臓が跳ねた。
「好きな気持ちはケリつけるけど、その気持ちだけは変わらねーから」
「一護くん…」
(本当に優しい人。一護くんは…いつだって優しいんだ…)
「うん」
私がそっと微笑むと、一護くんがニカッと笑った。
一護くんのその笑顔を見たのは、すごく久しぶりで…涙が出そうになった。




