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「なんなのあいつ、感じ悪っ!私は好かないわ」
翠ちゃんの苛立つ声で私は我に返った。
「ごめんね、翠ちゃん…」
確かにさっきの翠ちゃんに対する一琉の態度は明らかに失礼で、私は代わりに謝る。
「なんで優妃が謝るのよ。」
翠ちゃんが失笑した。
「それで?―――あの幼馴染みくんの応援も行くんだ?…早馬先輩も苦労が絶えないわね」
「あ…」
断りきれなかった、いや、内心行ってみたいと思っている自分に少しだけ胸が痛んだ。
「別に責めてる訳じゃないよ。優妃が早馬先輩とラブラブなのは知ってるしね!」
「ラブっ!?」
(翠ちゃん、言い方がっ!)
私が真っ赤になっていると、翠ちゃんが愉しそうに笑う。
「何よ今さら。お泊まりまでしたくせに!」
「お泊まりって!…だけど。別に何も…」
(してない、いや、したけどでもそれは…)
キスはしたけど、翠ちゃんが想像しているのはきっともっと先のことだと思う。でもそんなことを口に出して説明するなんて、恥ずかしくて出来ない私は口ごもる。
「え、何もしてないの?嘘でしょ?」
翠ちゃんが驚いたように聞き返す。
「い、言わないよっ!?」
私は勘弁してよと全力でそう答えた。
「ふーん」
何を思ったのか、ニヤニヤしながら翠ちゃんは勝手に納得していた。
「それより、後夜祭。辛いだろうけど頑張ってね」
「あ…うん」
急に話を戻されて、私はドクンと心臓が軽く跳ねた。
(“辛いだろうけど”…か。)
辛いのは、一護くんにきちんと“朝斗さんが好きだ”と伝えなくてはいけないから。
少なくとも一度は恋していた相手に、そう告げなければならないから。
(だけど、本当に辛いのは…―――)
『一護をふるんだ?僕の時みたいに』
――――胸が痛い。
『優妃に出来るの?そんなこと』
――――でも、そうするしかないじゃない…。
私は朝斗さんが好きだから――――。




