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「君が幼馴染みの、一琉くん?」
「ねぇ、一護って誰?まさか優妃、早馬朝斗とは別の男にも好かれてるわけ?」
翠ちゃんの声は聴こえていなかったのか、一琉はまっすぐ私の前まで歩み寄る。
「一琉?」
(なんか…怒ってる?)
「昨日おばさんから言われたんだよ、優妃が突然外泊したって」
心配かけるなよ、と一琉が私にぶっきらぼうに言う。
(―――それはお母さんに?それとも…一琉に?)
私は口には出さずに、一琉を見返す。
一琉は小さくため息をついた。
「で?…―――優妃、どうせ一護ってやつと早馬朝斗、どっちにも良い顔してるんだろ。」
一琉の言葉に、私はムッとなった。
「そんなことない…一護くんは大事な友達で」
「それ、本人に言って、一護をふるんだ?僕の時みたいに」
「………」
言い返そうとした私は、言葉を失なった。
(何でそんな…私が…“悪者”みたいに…―――)
「優妃に、出来るの?そんなこと。」
意地悪く口元に笑みを浮かべて、一琉が小首をかしげてる。まるで面白がるみたいに。
「一琉には、関係ないよ…」
「そうだよ、なんなのあんた。黙って聞いてれば」
私がそう言うと、隣の翠ちゃんが私を庇うようにそう言った。
「あーっ、一琉くん今日も来てくれたんだぁ!!」
「今日こそ、一緒に写真…っ」
「帰る」
クラスの女子達に気付かれて、一琉がすぐに元来た道へと踵を返す。
「「えー!なんでー?」今来たところじゃないの?」
クラスの女子達がガッカリして文句を言う。でも、一琉にはやっぱり聴こえていないのか何も言わずにスタスタ行ってしまう。
「あ、」
思い出したように、一琉が振り返った。
「優妃、約束忘れてないよね?」
「え?」
「来週の試合、応援に来てくれるって約束しただろ?」
「来週の、試合?」
(来週…?試合?)
何度か頭の中で繰り返してようやくあの時に約束した、というか無理やり行くことになった試合の応援のことだと思い出した。
「え…でも私」
行くなんて言ってない、と私が言う前に一琉が微笑む。
「それ、念押ししに来ただけだから。じゃあ」
(う…っ)
天使の微笑みが眩しくて、私はつい見惚れてしまった。




