おまけ【眠りにつくまで】6
「優妃がベッド使って?」
それは10分ほど前の出来事――――…。
私を部屋に入れてすぐ、朝斗さんが言った。
「いやいやいやいや!恐れ多くて、それは無理です!」
当然、私はそれを断った。
「恐れ多くてって、なに?」
「とにかく!…私は床で本当に、大丈夫ですから!」
全身全霊で、私は伝えた。
朝斗さんに呆れた顔をされようと、それだけは譲れないから。
「本当に、私…。なんならリビングのソファーでも…」
(ここは朝斗さんの家で、朝斗さんのベッドなのに、私なんかが使っては申し訳なさすぎる!)
明日は文化祭の二日目だし、実行委員長でもある朝斗さんにはきちんと快眠してもらいたい。
(私なんて明日こそすることがなにもないのだから…)
「それはダメ」「え?」
朝斗さんの厳しい声がして、私は顔を上げる。
「この部屋から出すことは出来ないよ。」
「では、やはり床で!」
喧嘩腰のような口調で、私は結局床に布団を敷いて寝ることで一件落着したと思っていたのに…――。
(それがどうして、こうなった?)
「朝斗さん…あの…」
「ん?」
私は後ろから抱き着くような格好の朝斗さんに、堪らず声をかける。
「手が…落ち着かないといいますか…」
身動きがとれない上に、朝斗さんの身体が密着していて心臓が凄い勢いで音を響かせている。
「なんで?抱き締めて寝るのもダメ?」
「…―――ダメというか、その…っ。緊張して寝れないです…」
朝斗さんの声が耳元で聴こえて、なぜか身体が熱くなった。
「本当だ、凄い心音」
「えっ、ちょっと朝斗さんっっ?」
少し布団に潜り込んだ朝斗さんが私の背中に耳を当てている。
「だって、目の前に優妃がいるのに触れてもいけないなんて拷問だろ?」
(あぁぁぁっ!…―――こっちの方が拷問ですよぉぉっ)
恥ずかしくて、ドキドキし過ぎて、頭がクラクラしてきた。だけど、心のどこかで、この温もりをもっと感じていたいと思う自分もいる。
「…―――わ、分かりました。大丈夫です、このままで…。」
私は覚悟を決めて、朝斗さんに背を向けたまま声をかけた。
「では…おやすみなさい」
私がそう言うと、朝斗さんが少しだけ腕に力を込めて言った。
「おやすみ」
そして、私の後頭部にチュッと軽いキスをした。
暫くして、朝斗さんの寝息が聴こえてきた。
そして…私の緊張が溶けたのは、それから数時間後の、朝方だった。




