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翠ちゃんと駅で別れてすぐ、私は朝斗さんに電話をかけた。
緊張して、胸が苦しくて…―――いっそ電話に出なかったらいいのにと矛盾したことを考えていた。
三コール目で出なかったら切ろうとして、私はその三コール目を待った。
『もしもし?』
三コール目の途中で、朝斗さんの声がした。
「えっと、優妃です。」
緊張して、ぎこちなく話し掛ける。にしても、自分の名前を名乗るって…どんだけアホなんだろう私。
(そんなの、向こうもわかってるの事なのに…。)
『どうしたの?』
朝斗さんの声が、冷たく聴こえた。
(当たり前だ…私、酷いことしたんだから…)
そう分かっているのに、やっぱり悲しかった。
「あ…会いに行っても良いですか?」
勇気を出して、私はそう伝えた。
『………』
暫く沈黙が続いて…“もしかして聴こえてなかった?”とか“通話が切れてしまってる?”とか心配になった。
「もしもし…?朝斗さん…?」
『優妃の考えてることが俺には分からない』
私が声を出したのと、ほぼ同時に朝斗さんの声が聴こえてきた。低くて、突き放すような声だった。
ズキッと胸が傷んだ。傷付けたのは私で、私が傷付く資格なんてないのに。
「――――すみません…」
(そう言われても仕方がない。私が“今日は放っておいてくれ”と“お願い”したのだから。)
『今来られても、迷惑だよ』
(メイワク……そっか。そうだよ…。)
朝斗さんの反応は当然だとすぐに納得して、私は会話を終わらせようとしていた。
『それでも、来る?』
「え…?」
『優妃がそれでも来たいなら、俺は止めないけど』
(え?良いの?行っても…?)
戸惑いながら、私は勇気を振り絞る。
(今、伝えないと…ちゃんと向き合わないと…。今私が朝斗さんに出来ることは…)
「――――…行きます…会って謝りたいので。」
『………分かった、待ってる』
朝斗さんとの通話が終わると、私はすぐに自宅とは反対方面の電車へ乗り込んだ。
朝斗さんのアパートへ、向かうために…―――。




