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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十七章【合間の気持ち】
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「ねぇねぇ優妃ちゃん、明日も来るかな?『北高の王子』!」

ソワソワしながらクラスの女子にそう訊ねられたのは、一日目の一般公開が終了した放課後のこと。


「や、多分来ないんじゃないかな…。確か部活があるとか言ってたし…」

(というか、“来ない”って言ってたのに…なぜ今日来たんだろう…)

クラスの女子に答えながら、ふとそんな疑問が頭に浮かんできた。


「じゃあ部活のあとに、来てもらってよ!ほら、今日結局帰っちゃったから一緒に写メも撮れなかったし」

「確かに『冷酷』だったね、そこがまたイイんだけど」

彼女達がそう言ったのは、一琉が他のテーブルにいた女子の集団に声をかけられた時の反応があまりにキツかったからだろう。


(そこがイイの?―――うーん、分からない…)


「そう言えば翠ちゃん知らないかな?―――ずっとすれ違いみたいで…」

とりあえず、話を変えようと私は翠ちゃんの居場所を訊ねる。


「あぁ、翠なら家庭科室だよ。衣裳(エプロン)のほつれが気になるからって直しに行ってる」

「あれ?でもそれから一時間くらい経ってない?」

「えー、そうだっけ?」

「どこかで買い食いしてるとか」

「えー、翠だよ?あり得ないっしょ」

キャハキャハと、笑いながら話しているクラスメイトの彼女達。


「あ、じゃあ私、家庭科室捜してくるね。ありがとう」


どうやら家庭科室に行ったというのは間違いなさそうなので、私は翠ちゃんを口実に、クラスメイトの彼女達の前からさりげなく逃げた。





――――



「ちょ…っ」


家庭科室のある別館の廊下を歩いていると、翠ちゃんの声がした。


(翠ちゃん、いた…っ)

安心しながら私は何気無く家庭科室のドアに手をかける。


「…めてよっ」

「なんで?」


(??!)

翠ちゃんと…もう一人の…誰かが言い争うような声がして、私はドアに手をかけたまま動きを止める。


「…帰る」

翠ちゃんの声がして、私はこちらへ来るんだと状況を察した。なのに足が動かなくて、考える間もなくガラッと扉が開く。

そして扉を開けた翠ちゃんが、私の顔を見た瞬間、目を見開き、立ち止まった。


「あ…―――」

(どうしよう、もしかして取り込み中に私、邪魔しちゃったのかな…?)


「ごめん、翠ちゃんっ。これは偶然で…―――」


慌てて言い訳をしようとすると、翠ちゃんが私の腕をとって足早に歩き出した。


「今日はもう自由下校でしょ?優妃、一緒に帰ろう?」

早口にそう言いながら、翠ちゃんはとにかく早足で歩く。

「うん…」


前を歩く翠ちゃんの表情は、よく分からなかった。

だけど…―ー―。


「…話したいことも、あるし」


そう言った翠ちゃんの声は…―――胸が痛くなるほどツラそうに感じた。


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