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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十六章【文化祭一日目】
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朝斗さんは追ってこなかった。ホッとしながらも、寂しく感じていると、隣を歩いていた一琉が深くため息をつく。


「本当に…何してんの?」

「一琉はツッコまないで、これは私の問題だから!」

(というか、聞かないで!誰にも言えないよ…こんなこと…)

一人で悶々と考え込んでいると一琉が不機嫌そうに言った。


「…優妃って、無意識に人傷付けるよねー」

「え?」


「僕のことも良いように利用してさ。世間の小悪魔とかよりよっぽどタチ悪いよ」


(あ…―ー―私、一琉のこと傷付けてた?)


「ごめん、そんなつもりは…―ー」

反省しながら謝ろうとすると、一琉が私を見て苦笑する。

「ま、いいけど。僕は優妃の傍に居られるなら何でも」


私の手を握って、一琉がわざと明るく言う。

「ほら、パフェ、だっけ?早く連れてってよ」


うちの高校の生徒たちの視線が、私と一琉に集中していた。

(これって…―――私達のこと、誤解されてる?)


私と一琉は幼馴染みで、それ以上でもそれ以下でもない。…少なくとも、私達自身はそう認識している。

だけど、高校(ここ)では…、それは通用しないのだろうか?




「―――ここ、座ってて。」


一琉をうちのクラスへ連れて行き、席へ座らせると店には女子生徒のお客さんが押し寄せてたちまち満席となった。



「ねぇ優妃ちゃん!あの美男子ダレ?親戚?兄弟?」

注文をオーダーしようと一琉から離れて厨房へと行きかけた私をクラスの女子数人が引き留める。


「…幼馴染み、です」

なんだか威圧的な態度の子達を前にしたら、つい敬語になってしまった。


「ってか北高の制服じゃん!もしかして…彼が有名なあの“弓道部の冷酷王子”なんじゃない?」


「―――え?まぁ…一琉は弓道部だけど…」

(冷酷王子?って何それ…?)


「うわー、ホンモノ初めて見たぁぁ!」

「確かに顔が美しいわぁ…。」


「でも冷酷って噂だったけどそうでもないよね?」

「さっき優妃ちゃんに笑いかけてたし」

「ね、紹介してよ!てか写メ撮りたい!」


「え…っと。どうだろ?」

紹介も、写メも…きっと一琉を不機嫌にさせるだけだ。迪香ちゃんも言ってたし、『女子には心を開かない』って。


渋っている私を見て、クラスの女子達が怒りだした。

「優妃ちゃんには早馬先輩がいるんだから良いじゃん」

「そうよ、独り占めはよくないよ!?」


(ええっと…ええっと…。)

この場をうまく収める術が浮かばなかった私は、後で一琉に謝ろうと決心して口を開く。


「うん、紹介するね」

と、言うつもりで。だけど、そう言おうとした瞬間、

「優妃、あの客の注文なんだった?」

一護くんが話し掛けてきた。


「お前らも、仕事しろよ!ほら、客が呼んでるぞ」

一護くんの言葉に、皆が文句言いながらも接客するために持ち場へと戻っていった。


(助けてくれた…?)

一護くんを見上げると、久しぶりに正面から目があった。


「アレが、幼馴染みの一琉?」

一護くんが目を細めて一琉の方を見る。


「あ、うん…」

「なんか、仲良さげに見えたけど?」

(あれ?一護くん…?)


「あ…うん。仲直りした、というか…まぁ…」

「ふーん…」

(なんか、不機嫌そうな…?)


「そういや、紫さんは?」

辺りを見回して、一護くんが言う。


(あ…―――そう言えば…)

「置いてきちゃった…」

混乱しているうちに一琉とその場から離れてしまったことを思い出して、私は唇に手をやる。


「紫さん…不思議な人だったなぁ…」

触れかけた唇を思い出して、赤面してしまう。


(従姉だからかな…凄く似てた…―ー―)


出会った頃の朝斗さんの笑い方に…―ー―。


(朝斗さん…)

また思い出して、落ち込む。

(明日までには…何とかしなくては…―――)


どうしたら忘れられるんだろう。朝斗さんが、キスする演技をしたあの瞬間が…忘れられなくて苦しい。


(記憶喪失とか、どうしたらなれる?)

そんなことを本気で考えていた。


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