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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十六章【文化祭一日目】
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「朝斗さん…」


朝斗さんに遭遇した瞬間、私は先程のキスシーンを思い出してしまった。

悲しくて、つい俯いてしまう。モヤモヤと黒い気持ちに呑み込まれそうになる。

(あぁ…嫌だ。―――今、朝斗さんに会わせる顔がない…)



「おい、何やってんだお前。優妃から離れろ」

朝斗さんが、一琉に怒りをぶつける。

一琉は私の腕を掴んでいた手を離してため息をついた。


「“何やってんだ”はこっちの台詞だよ…」

「は?」

一琉と朝斗さんの低い声が、私の前で飛び交う。


「優妃、行こう」


朝斗さんが、私の手をとろうと近付いたとき、私はつい一琉の後ろへ隠れてしまった。


「優妃?どういうことだ…?」

朝斗さんの問いただす声。傷付いたようなショックを受けたように響いた。

その声に、私は胸がぎゅうっと締め付けられる。

だけどー―ー…。


(嫉妬に歪んだ表情(かお)なんて、―――こんな醜い私なんて見られたくない…。だから今、朝斗さんと居たくない…居られないよー―…)


「なんでもっと優妃を見てやらないんだよ」

一琉が朝斗さんを責めるように強めの口調で言う。


「あんたのせいで、優妃が何回泣いてるか知ってる?―――そんなんで“彼氏”?

“優妃を泣かすような男には二度と会わせねぇ”んじゃなかったの?早馬センパイ?」


(一琉…私のことを思って…?)


「………」

一気に捲し立てる一琉に、朝斗さんは何も答えなかった。

一琉はそんな朝斗さんにため息をついてさらに口を開く。

「ついでに知らないやつにまでつけ込まれてるし」


(え?つけ込まれる?)


「そんな守れない男に、やっぱり優妃は任せられ「一琉、それは違う…」


途中まで口を挟まずにいたけれど、これだけは言いたかった。


「ちょっと!今イイトコだったんだから優妃は黙っててよ」

一琉が不機嫌そうに振り返って私を横目で睨む。


「違うよ一琉…。私が泣くのは…、朝斗さんが好きだからだよ」

私は、一琉のシャツを握り締めて、辿々しくなりながらも必死に伝えた。


「はぁ?」


「朝斗さんが好きじゃなかったら、こんな―――泣かない…」

(そう。私は朝斗さんが好き…。ただ、今は…)


「はぁ?ー―ー優妃って本当にバカだろ!帰る!」

「待って!…待って一琉」

呆れた声を出したあと、怒って帰ろうとした一琉のシャツを離さずに、私は俯いて頼み込む。

(置いてかないで…二人にしないで…っ)



「優妃?」

朝斗さんの不機嫌な声が、一琉の後ろにいてもハッキリと聞こえてきた。


(朝斗さん…怒ってる…。)


「朝斗さん…わ、私…。今日はちょっと一緒に居られません。ごめんなさいっ」

一琉の背中に隠れながら、私は朝斗さんに話し掛ける。


「…なんで?」


「落ち着くまで…放っておいてください!すみませんっ」


「優…「お願いっ」

一琉の後ろまで回り込んできた朝斗さんに気が付いて、私は朝斗さんを見上げて声をあげる。


(見ないで…見ないで…こんな私は…――――)


ここで涙目になってしまう私は…本当に弱い。


「お願いです…朝斗さん…」


(明日には…明日までには何にも無かったように笑えるように頑張りますから…だから今日は…。今は…―ー―)


「放っておいてください…」


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