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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十六章【文化祭一日目】
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演劇を観に行こうと誘われ、紫さんに手を引かれながら歩く。

(なんか、色々どうしようっ!)


涙目で、パニックになっている私を振り返って紫さんが微笑んだ。


「最近ずっと会いたかったんだ、君に」

「………え?」

なんだか男の人に言われているみたいで、そのセリフにドキリとした。


あの(● ●)朝斗に“彼女”ができるなんて、そんな面白い話食い付かないわけないじゃん」

おどけた表情で、紫さんが言う。


「あの。紫さんは…、朝斗さんの従姉だって聞きました」

「うん。従兄弟だよ。わたしは大学二年。カワイイ弟をこれからも宜しくね、カワイイ優妃ちゃんっ」

人懐っこく微笑まれて、私もつられて微笑んだ。


「はい…」




演劇のステージである体育館には入口のところで人だかりが出来ていた。席には座れなかった人達が立ち見で殺到している。


「優妃ちゃん、入らないの?」

入口の手前で足を止めた私に、紫さんが不思議そうに訊ねる。


「朝斗さんに…観に来ないでって言われてて」

(恥ずかしいからって嫌がってたし、観てしまったら朝斗さんに罪悪感感じてしまいそう…)


「優妃ちゃんはいい子だねー。そういう子大好きよ」

クスッと笑って、紫さんが私の手をぐっと引いた。


「でも、そんなのは気にしなくていいから!さ、行こ」


「は、はい…」

(良い、のかな…本当に、良いのかな…?)


「あーもう終わりなのかな」

隣に立っていた紫さんが残念そうに呟いて、私はやはり観たくて、申し訳なく思いながら薄目を開けてそっとステージの方を見る。


――――ステージ上にはスポットライトを浴びている朝斗さんの姿があった。


(うわ…っ、リアル王子様だっ!)

キラキラと朝斗さんの周りが輝いて見えるのは照明のせいではないはず!



「――Ah, dear Juliet,Why art thou yet so fair?」


(しかも、―――え、英語っ!?)


朝斗さんの発音の良さにも驚いたが、それよりもこの後の展開に私は目が離せずにいた。


朝斗さん演じるロミオが、横たわっていたジュリエット役の女子に顔を近づける。


(あ…キス、した…――――?)

心臓が握り締められた感覚に襲われた。苦しくて、悲しくて…ぐっと堪えたら喉の奥が痛くなった。



「あ、優妃ちゃんっ?」

紫さんの声を背に受けながら、私はその場から逃げ出した…―――。

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