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恋してるだけ   作者: 夢呂
第十六章【文化祭一日目】
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「おっかしいなー」

はて、と首を傾けるとさらりと長く美しい髪がさらりと流れるように肩にかかる。それだけの仕草で、その妖艶さに見惚れてしまう。


(というか…顔、近いです…!)

「???」

戸惑う私に紫さんがにっこりと微笑み、言った。

「わたし、可愛い子は忘れないタチなんだけど」


私の顎にそっと手を添えて、先程より顔を近付ける。

「どこかで会ったかな?」


(近、近いです!―――っていうか、私どうしよう)

「え…いや、すみません…。えっと…」


(うっかり名前とか出しちゃって…絶対怪しまれてるよーっ)

私が動揺と焦りで混乱しているところに、スッと長い腕が視界に入ってきた。


「紫さん、来てたんですか?」

私と紫さんの間に割って入るように、一護くんが紫さんに話し掛ける。


「…誰?」

紫さんの声が、低くなった。先程までの紫さんの声とはかけ離れていて…ドキリとするほど低かった。


「…一護ですよ。…時田琳護の弟の」

一護くんがそう言うと、紫さんは一護くんをまじまじと眺めたまま暫く黙っていた。


「…あぁ、リンゴの弟ね。ま、どーでもいいけどそこ邪魔」

一護くんのことを興味なさそうに退けて、紫さんが私に微笑む。

(う、なんて眩しい…)

一瞬目があった私は、赤面して俯く。


「…相変わらずですね、紫さん」

一護くんが、さらに私の前に立ってくれた。まるで紫さんから庇うように。


「…で?さっきからその子隠すようにしてるけど、君の彼女ってこと?」


「はぁ?」「ち、違います!一護くんは大切な友達で…っ」

次の瞬間、一護くんと私の声が教室に響き渡る。


(私は、朝斗さんの彼女なんです…っ)

心の中でそう言うと、なんだか胸が苦しくなった。


堂々と言えばいいのに、言えない自分が腹立たしいのか?

それとも、もっと違う…何かー―――。


俯いて、フリフリエプロンをぎゅっと手で掴む。

(泣くな…、泣く理由なんて何もないのだから…)


「ちょっと待ってこの子、超カワイーんだけど」


ガバッと突然紫さんに抱き付かれ、私はそのまま硬直した。

(えっ!?ゆ、紫さん!?)


「朝斗にキレられますよ、紫さん」

一護くんが、すぐに私の腕を引いて助けてくれる。


「………」

紫さんが、黙った。そしてすぐに、私を指差す。

「え?じゃあ…この子が朝斗の“彼女”?」


「そうですよ」

一護くんが、怒ったような口調で言う。

ふーん、とニンマリと口元に笑みを浮かべた紫さんが、私の腕をとった。


「じゃ、行こうか?」


「へ?行く?…って、どこに…―――?」

(というか、紫さんって…なんだか…―――)


人懐っこい性格、かと思えば女王様みたいな空気を纏ってる。従わないといけない気がしてしまう。


「決まってるでしょう?演劇!もう始まってるんだから」


「え、でも私ここで店番…「そんなの、これだけ男がいるんだから問題ないよ!―――だよね?」


クラスの男子が、紫さんにそう話をふられた瞬間、黙って何度もコクコクと頷く。


「ほら、クラスメイトもそう言ってることだし、行きましょうか」

紫さんが、楽しそうに私に微笑む。


「香枝、優妃ちゃん?」

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