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八十五個目

 間違いなく今のこの人たちは、やる気ではなく殺る気だ。

 さすがにまずいので、殺る気満々な面々を止める方法を俺は考える。

 ……だが、考えれば考えるほど思ってしまう。

 なんか、もういいんじゃないかな? とも。

 でもよくないよね。そうだよ! もしかしたら体調が悪かったのかもしれないじゃないか! まずは話を聞こう! そうしよう! 頑張れ俺!

 孤立無援状態な俺は、同じく孤立無援な状態になっていることに気づいていないマヘヴィンさんへ話しかけた。


「みなさん、まずは話をしますので落ち着いてください。マヘヴィンさん、いつもこの時間にいらっしゃるんですか?」

「えーっと……。朝、苦手なんですよね。だから、起きたら来ます」


 殴りてぇ。

 いや、落ち着け。落ち着くんだ俺。

 深呼吸をし、なんとか自分を落ち着かせる。

 そんな俺をマヘヴィンさんは不思議そうな顔で見ており、それを見た周囲は更に殺気立っていた。


「起きたら、とはどういうことですかね? 毎日来る時間が違うんですか? あっ! 分かりました! 昼過ぎに来る代わりに、最後まで残っているということですね?」

「え? そんなことしませんよ。ちらっと顔を出して帰りますよ? どこの管理人もそんなものですよ?」

「はぁ?」


 俺の声色が変わり、マヘヴィンさんがびくっとした。

 いかんいかん。さっき深呼吸をしたばかりじゃないか。落ち着こう。

 眼鏡を押し上げつつ、自分を落ち着かせる。大丈夫だ、俺はまだやれる。うん、殺れる。

 ……だが、一つ分かったことがある。俺がこの世界に来てから、真面目だ真面目だと言われていた理由だ。

 恐らく、マヘヴィンさんのようなタイプの管理人がこの世界には多いのだろう。

 普通にやっていたつもりだったが、そりゃ真面目だと言われるわけだ……。

 あれだけ問題児だと思っていた、四倉庫の管理人が懐かしくなる。あの人たちは仕事には真摯に向き合っていたからね。


「ふぅ……。ですが管理人がいなかったら、なにか問題が起きたらどうなさるのですか?」

「誰かがなんとかするんじゃないですか?」

「どうにもできないことが起きたら、みなさん困ると思いますよ?」

「そういうときのために、商人組合の本部があるんじゃないですか!」


 頭痛い。まるで話が通じない。

 仕事への責任感とか、そういうのはどうしたのだろうか。


「ですが、マヘヴィンさんは仕事を頑張ろうとしていましたよね? それで無理だと、逃げたいと思うほど追いつめられていたじゃないですか」

「そりゃ無理ですよ……。だって、誰も僕のことなんて気にしていないでしょ? 仕事で自分の時間も無くなるじゃないですか。もう辞めて、どこかへ旅にでも出ようかなって思うんです!」


 分かる。悔しいが、その気持ちは分かる。

 仕事で頑張っても誉められず、いつも文句しか言われない。

 そういう状況はとても辛い。旅に出たくなるのだって分かる。

 俺だって元の世界ではよく考えていた。こう知らないところを旅したら、なにかが見つかるのではないだろうか? そういつも考えていたものだ。

 ようやくマヘヴィンさんの状況が分かってきた。彼も当然悪いが、彼の周囲も良くなかったのだ。

 誰も彼を助けてくれる人は……いや、エーオさんとかいたよね? 本部長だよ? いくらでも助けてくれるだろう。やっぱりこいつ甘ったれじゃないか!

 第一、その言い訳をしていいのはずっと頑張ってきたやつだろ!

 そんなに嫌なら、辞めて違う仕事探せばいいだろ! ……いや、辞めるのって大変だけどさ。


「マヘヴィンさん、分かりました」

「分かってくれましたか? なら良かったです!」

「はい、本当によく分かりました……。自分のやり方は間違っていました」

「やり方? どういうことです?」


 俺はマヘヴィンさんへ一歩近づき、しっかりと目を見た。

 今日も青白いメイクを忘れていない彼の間違った努力が、もうなんというか……。

 いや、そのことは後だ。はっきりと言ってやろう。


「仕事を辞めればいいです。旅に出たければ出ればいい。ただし、それはやることをやった後です! まずはエーオさんに、仕事を辞めて旅に出たいと伝えてください! それで、辞めるまでの間は精一杯やる! 明日辞めさせてくれるというなら、今日だけは頑張る! それが筋ってものでしょ!」

「え……。いや、でもそんな簡単に仕事を辞めるわけには……」


 この答えも想像がついていた。

 結局彼は、この状況のままいけるところまでいきたいのだ。

 本当は旅に出る気もない。ただ、ちょっと顔を出して金をもらえる生活を続けたいだけ。

 だがそれだと、周囲からは冷たい目を向けられる。そのためにメイクをしたり、胃薬を買ったりして同情を買おうとしているのだろう。


「いいですか、マヘヴィンさん。はっきり言いましょう」

「な、なんですか?」

「この倉庫、このままだと怪我人じゃ済みませんよ? 下手をしたら死人が出ます」

「は? いきなりなにを言っているんですか? 死人? そんなことを言って、謀ろうとしているんでしょ?」


 やはり全く気付いていなかったのか……。外からちらっと見ただけの俺でも気づいていたのに、彼はなにも見ていなかったのだろう。

 俺はマヘヴィンさんの腕を掴み、倉庫の中へと入った。


「ちょ、痛いですって! ナガレさん離してくださいよ!」


 俺は掴んだ腕を、倉庫内のある場所で離した。

 そんな俺の行動が気に入らないのだろう。彼は俺のことを睨み付けている。

 でも今は、そんなことはどうでもいい。俺は指導を頼まれたのだ。できる限りのことをしなければいけない。

 そして、これで駄目なら諦めるつもりだ。


「ここを見てください」

「荷物が積み上げられているだけでしょ! それより、見てくださいよ! 痣になってますよ!? これ訴えてもいいですよね? どうなるか分かっていますか?」

「ボス、これ……」


 セトトルは気づいたのだろう。積み上げられている荷物を見て、青ざめている。

 うん、とても危ないね。だから積み上げられた荷物からは、俺も距離をとっている。


「だから、こんなものどうでもいいでしょう! そんなことより、腕の痣のことを」

「この大量に何十箱も積み上げられた荷物。これが崩れたらどうなりますか?」


 マヘヴィンさんは荷物をまるで見ず、自分の腕をさすっている。

 本当に気づいていないのか……。


「ナガレさん、話を聞いていますか? 今なら大ごとにしないで」

「いいから答えてください。その後に、自分を訴えたいなら好きにしてください」

「そんなこと言っていいんですか? 自分は本部長の甥ですよ? ふふん、なら先に答えてからにしますかね。この荷物が崩れたら大惨事でしょうね。死人も出るかもしれません。ですが、今までそんなケースはありません! はい、これでいいですね。それじゃあ、商人組合の本部に行きましょうか?」

「崩れますよ」

「……は?」


 なぜ崩れないと思っていたのかを教えてほしい。

 積まれている箱の大きさは、ばらばら。一番下が小さい箱でぐらぐらしている部分もたくさんある。まるでゲーム中のジェンガのようだ。

 今までに事故が起きていなかったのは、奇跡としか言いようがない。


「そうですね。もしかしたら崩れないかもしれません。ですが、このままの状況だと必ず事故が起きます。そしてそのとき、責任は誰が負うことになるか分かりますか?」

「べ、別に自分が積んだわけでは……」

「そう思うのならいいでしょう。ですが、これだけは忘れないでください。自分は事故が起きる可能性が高いと、マヘヴィンさんに告げました。このままあなたが何もせず、事故が起きたとしましょう。あなたは、場合によっては殺人者です」


 マヘヴィンさんの唇が紫色になり、顔もメイク以上に青いような白いような顔色に変わる。

 やっと状況が分かったか。これで少しは考え直してくれるだろう。

 少なくとも、状況を改善するまでは辞めようとは思わないはずだ。良かった良かった……。

 これで駄目なら、さすがに見捨てる気だったよ。

 ……ん? ごつい男の人が、木箱を持ってこっちに走って来る。

 いや、待って? まさか、ね?


「おい、どけ。荷物が積めないだろ。そら!」

「え、ちょ……」


 彼は俺の横から荷物を投げて、無理矢理載せる。荷物投げるなよ!

 いやいや、そうじゃなくてこんな不安定な場所に荷物を投げたらどうなると思っているんだ!

 荷物を載せた男は、俺とマヘヴィンさんのことを不思議そうだったり、邪魔そうな顔をしながら見ている。だが、俺の目は積み上げられている荷物に釘付けだ。

 だって、ぐらぐらしてるんだよ? ぐらぐらぐらぐら……止まった! セーフ! 冷や汗掻いちゃったよ……。

 荷物が崩れなかったのを見て、マヘヴィンさんは急に元気を取り戻す。

 そしてこともあろうことか、荷物へ近づいてバンッと叩いた。


「な、なんだ! 崩れないじゃないですか! 自分の言った通りじゃないですか!」

「駄目です! そんなことをしたら崩れます!」


 まずい、マヘヴィンさんは軽く錯乱状態になっている。

 今、崩れなかったからといって、次も崩れない保障はない。

 俺は慌ててマヘヴィンさんを止めようと近づいた。荷物を積んだやつも、呆然と見ていないで離れろよ!


「ボス! 危ないですわ!」

「え……」


 マヘヴィンさんを止めようと、積み上げられている荷物へ近づいたのが良くなかった。

 ハーデトリさんの言葉で、積み上げられていた荷物を見直すと、上から数箱の木箱が降ってくるのが見える。駄目だ、逃げられる距離じゃない。

 俺は咄嗟に、マヘヴィンさんと荷物を積んだ男の人の手を引っ張る。そして二人の上へ覆い被さった。


 あぁ、駄目だろうなこれ。庇う必要もないのに、無意識に体も動いていたし。

 俺、死んだかな……。

実は次の展開で少し悩んでいるため、明日更新できないかもしれません。

書きあげてはあるのですが、ちょっと未定です。


展開が二つ考えてあります。

一つはアホみたいな展開です。書いていて非常に楽しかったです。

もう一つは普通な展開です。


結末は変わりませんが、少し悩んでいるため未定です!

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