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七十一個目

 話ながら最善の案を考え出す!

 やれることはもうこれだけだった。


「オーク、薬望む。そちらの、プラスにもなる」

「プラス、ですか? オークは我々になにをしてくれるのでしょうか?」

「オーク、人間もう、襲わない。町、助かる」

「なるほど……。確かにそうなれば被害がなくなりますので、町は助かりますね」

「そんな口約束を信じるのですか、町長?」

「サイエラさん、冒険者であるあなたが疑うのは当然です。ですが、彼らは人質も解放した。今は話を聞くべきではないでしょうか?」

「むっ……。確かに、そうだな」


 副会長にそう言われ、サイエラさんは黙った。

 副会長ありがとうございます! 後、人質解放していて良かった! 一つ良い印象を与えられていたことに、俺はほっとする。


「確かにそれはこちらとしてもありがたいです。ですが、オークがまた人を襲わない保証はありますか? また何かの切っ掛けで襲う可能性はあるのではないですか?」

「それ、は……信じて、ほしい」

「信じる。それだけでは約束はできません。あなた方は今、人間に助けを求めるほどに弱っている。このまま戦ったとしても、そちらが勝つ可能性は低いのではないでしょうか? もちろん、こちらだって好き好んで戦いたくはありませんが……」

「わ、我々、約束、守る。た、戦わない」


 その通りだ。一番言われたくなかったことを言われてしまった。

 オーク族など、滅ぼしてしまえばいいのだ。

 不確定要素である存在と、仲良くする必要はない。この言葉だけは言わせたくなかった。

 どうする、どうする、どうする。

 俺は何も浮かばないまま、気圧されるように後ろへ一歩下がろうとし、石につまずいて尻餅をついた。

 いてて……。俺はこんなときに、なに尻餅をついているんだ。

 町長たちだって、転んだ俺を見てどうしたらいいか分からないといった顔を……。石?

 つまずいた石を見て、俺は思考をフル回転させた。

 この提案はいけるか? 無理でもいい、いくしかない。黙っていたら、いつ襲われるか分からないんだ。


 俺は立ち上がり、焦る気持ちを押さえながらゆっくりと話し始める。


「オーク、人襲わない。オーク、街道の整備する」

「街道の整備?」

「整備する。町、豊かになる。オーク、お金もらう。オークも、豊かになる。そうすれば、襲う理由、ない」

「ふむ……確かに東倉庫の管理人さんが言うことも一理あります。オークに仕事をさせお金を払う、ですか」

「考える、大事。どちらも、豊か。……すみません、ちょっと待って頂けますか? 今なんと?」

「……その、もしかしてバレていないと思ってらっしゃったのですか? オークに比べて随分体格が、その……」

「貧相ですね」


 副会長! そういうときばっかり嬉々として言わないでください!

 うぐぐ、アグドラさんとサイエラさんは唖然とした顔をしているが、町長と副会長にはばっちりバレていたらしい。

 俺は着けていた仮面を外して、ずれていた眼鏡を直した。

 こんなに苦労をした変装とは、一体なんだったのだろうか。

 えぇい、気を取り直して話を続けるしかない! オークっぽく話そうという手間が減ったと思おう!


「街道整備はそんなに簡単なことでしょうか? そうではないと自分は思います。となれば、数年以上はかかる作業となるでしょう。そしてこの世界で街道整備が必要な場所は、いくらでもある。つまり、オークの仕事が無くなることはありません。違いますか?」

「確かに筋は通っています。ですが、それをオークが了承すると思いますか?」


 俺は悩むことなく、しっかりと頷く。

 ここで悩んではいけない。俺はそう思ったからだ。

 

「します。いえ、絶対にさせます。彼らだって決して戦い続けたいわけじゃないはずです。どちらにもメリットがある道を見つけられるのなら、納得してくれます。だって彼らには知性があるじゃないですか」

「私もそうあればいいと思います。ですがやはり……」

「お待ちください町長。この件に関して、私は一考の価値を感じます。もちろんオークの了承は必要ですが、前向きに検討をしても良いのではないでしょうか?」

「……分かりました。オークの意思を聞きましょう。それで私も決めさせて頂きます」


 流れがまずくなったと思った瞬間に、副会長がすかさずフォローを入れてくれた。

 つまり、後は俺に託されたのだろう。

 オークの説得。

 結局、話はここに戻ってくる。いや、やっとここまでこれたのかもしれない。


 俺は後ろを向き、オークの長を見る。

 彼は目を瞑り、考え込んでいた。きっと前向きに考えてくれているはずだ。俺はそう信じて彼に問いかけた。


「オークの長、一つだけ聞かせてください」

「……ナンダ」

「あなたは、永遠に戦い続けたいのですか?」

「……オークハ、ヒトニクッサナイ」

「子供たちが大人になっても戦い続けるのですか? 子供たちの子供も、永遠に戦い続けるのですか?」

「……」

「お願いします。折れて頂けないでしょうか? 屈さなくても構いません。少しだけ妥協して、人と生きる道を考えてください。戦わない未来を考えてください」


 オークの長は、考え込んだまま動かなかった。

 だが肯定も否定もしていない。なら、この場ですぐに答えを出そうとしなくても良いのではないだろうか?

 考えてくれているのだし、一旦保留にしても……。

 俺はそう思っていたのだが、長はゆっくりとした動きで町長の前へ進みでた。


「カンケイ、スグニハ、カワラナイ」

「それはこちらも同じです。オークを恨んでいる人もいます」

「デモ、カエタイ(・・・・)。ソウ、オモウ」

「私も同じ気持ちです。少しずつで構いません。共に力を合わせ、変えていきませんか?」

「カエル、イマシカナイ。ボス、ヘン。コンナヤツ、イナイ」

「はい。彼のような人がいる今こそ、人とオークの関係を改善すべきだと思います」


 それだけ話すと、オークの長は深々と町長へ頭を下げた。

 人が嫌いだと、人に屈しないと言っていたのに、その主張を曲げて頭を下げてくれたのだ。


「オーク、タスケテホシイ。ヒトノシゴト、テツダウ。ヒト、オソワナイ。サイショ、タイヘン。デモ、ガンバル。ヤクソクスル」

「私たちも今後はオークを見る目を変え、ご協力させて頂くことを約束します。アグドラさん、カーマシルさん。オークの症状を調べ、すぐに薬の用意をしてください。費用は町で負担いたします」

「分かりました。すぐに手配を整えしょう!」

「会長。私が先に戻り、要所へ連絡をいたします」


 なんか、うまくいっちゃった……かな?

 これでいいのかな? あれ、終わり? 俺帰れる?

 だが、町長とオークの長が笑顔で手を握りあっているところに、サイエラさんが進み出る。

 そうだった、この人がまだいた。


「町長、オークの集落への薬の運搬ですが、冒険者組合で引き受けましょう。商人組合の人間が行くにしても、一応護衛は必要でしょう」

「サイエラさん、よろしくお願いします。そちらの手筈も商人組合と連携し、すぐに始めてください」

「了解しました」


 サイエラさんは町へ戻る前に俺へ近づき、肩を軽く叩いた。


「これが良かったのかは分からない。だが、良くなればいい。私もそう思っている。よくやってくれたな」

「怒られるかと思っていました……」

「君は私をなんだと思っているのだ? 必要とあれば戦うが、別に戦闘狂ではない。オークに思うところがあるのは否定しないが、時代の移り変わりというやつだろう」

「柔軟なんですね」

「ふっ、冒険者だからな」


 彼女はそう言うと、ひらひらと手を振って忙しそうに走り去って行った。

 

 なんというか、きっとどちらも長い間落としどころを探していたんだろうと思う。でなければ、こんなにあっさり決まるわけがない。

 その切っ掛けが、たまたま俺だったってことか。

 これからも大変だろうが、関係が改善していくと信じよう。


 俺は座り込み、空を見る。空には満天の星空が浮かび上がっていた。

 あぁ、俺生きてるよ。本当に良かった。

 当事者として、俺もオークのために頑張らないとな……。


 でもとりあえず今は……一風呂浴びて寝たい、かな。


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