外伝 セトトル
私は妖精族の村に暮らしていた。
両親はいない。
考えることがあまり得意じゃなく、おどおどとしていた。
それが気に入らなかったのか、妖精族の中でも色々言われていた。
バカだなんだと言われて、いつも泣いていることしかできなかった。
でもそれじゃあ駄目だと、まずは笑うようにした。
おどおどするのもやめようと、頑張って明るくした。
……何も変わらなかった。
だから、色々なことをした。
自分のことをオレと言い出したのも、このころだった。
私なりの強がりだった。
だが、それが気に入らなかったのだろう。
余計色々されるようになった。
それでも頑張って笑った。強がってオレと言った。
ある日、鏡を見て気づいた。
ひどい顔で、必死に泣いているような笑っているような顔をしている自分に。
私はその日、妖精の村から逃げ出した。
当てもなく、ただ逃げた。もうボロボロだった。
ふらふらと彷徨って、着いたのが今の町だった。
とてもおなかが減って、困っていた。
そこで声を掛けてくれたのが、オルフェンスさんだった。
「何だ? 腹減ってんのか? ちょっと来い」
私は、返事もできないで連れていかれた。
「ほら食え」
オルフェンスさんは、私にパンをくれた。
私はそれを泣きながら食べた。
とても嬉しかった。
「食ったな? じゃあ、これからはここで働け。給料に一日一個パンをやる」
私は助けてくれたオルフェンスさんの言う通りにした。
毎日荷物を頑張って運んだ。
「俺のことはボスって言え。その方がかっこいいだろう」
そう言われたから、ボスと呼ぶようにした。
「おい! お前何やってんだ! まだ荷物が残ってるだろ!」
私は夜遅くまで、くたくたになっても荷物を運んだ。
ボスは私のことを、「おい!」とか。「お前!」と呼ぶ。
名前では呼んでもらえない、それが悲しい。
私の寝る場所は、小さい箱にボロボロの布を入れたもの。
ボスが作ってくれた。
寝る場所は埃がひどい倉庫の中。
真っ暗な倉庫はとても怖い。
私は、いつも悲しくて荷物の近くで寝た。
それくらいしか、私にはなかった。
でも、毎日一個のパンは約束通りくれた。
毎日同じ固いパンを一個。
すごく悲しいけど、私にはこれくらいで十分なんだろう。
たまにはリンゴとかが食べたいなぁ。
お客さんが来て、二階にボスを呼びに行くと怒られた。
ボスのところには、知らない女の人がいつも来ていた。
「勝手に上がってくるな!」
私は、ボスに叩かれてふらふらと地面に落ちた。
そして逃げるように一階へ行った。
お客さんは、この倉庫は対応が悪いと怒っていた。
そういうとき、いつも私が悪いことになる。
そしてボスに謝らされた。
私は荷物を運んでいただけなのに、いつも謝っていた。
ボスは、いつもお酒を飲んでいた。
機嫌が良いと、私をカウンターの上で踊らせたりする。
すごく恥ずかしくて、嫌だった。
でも、怖くて何も言えなかった。
機嫌が悪いと、私のことを指でつつく。
私は小さいから、それがすごく痛い。
でも、私が泣いてもボスはやめてはくれない。
早く終わるようにと願いながら、頑張って笑ってることしかできなかった。
ある日、朝からボスが起きていた。
そして何か荷物を持っていた。どこかに出かけるのかな?
ボスは私を見つけると、手紙を投げつけてきた。
鼻に当たって、すごく痛かった。
「おい、二階に寝てるやつがいる。そいつにその手紙を渡しておけ。お前の新しいボスだ」
ボスはそう言うと、出て行ってしまった。
私はこのとき、ちょっとホッとしてしまった。
でも、新しいボスがいると言っていた。
きっと怖い人だろう。
それに二階に上がっていいのかな?
でも、ボスに手紙を届けるように言われた。
私は勇気を振り絞って、手紙を持って二階に向かった。
新しいボスに怒られないよう、頑張って笑って挨拶をしよう。
きっと私はずっとこんななのだろう。
パンがもらえるだけ、きっとマシなんだ。
……でも、ほんの少しだけ思った。
今度は優しいボスだといいなぁって。