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六十三個目

 三人に荷物を受け入れる準備を頼み、俺は洗面所へと入った。

 そしてタオルを手に取り、お客様へ渡した。


「どうぞお使いください」

「ん……あぁ、確かにこのままじゃ店が濡れてしまうにゃ。それはそっちも困るってことにゃ」

「いえ、濡れたままじゃ体調を崩されるかと思いまして」


 彼女?は一瞬止まった後に「そ、そういうことならありがたく受け取るにゃ……」と言いながら、フードを外した。

 肩にかかるくらいの長さの赤い髪に、猫耳に猫っぽい顔の女性。

 本当に猫だった……。

 じろじろ見るのも失礼なので、俺は荷物の受け入れに移った。


 外へ出ると、雨は土砂降りでこのまま入れたら箱が濡れてしまう。

 荷馬車の中には20箱ほどの荷物が入っている。これは全部降ろしてしまっていいのだろうか?

 俺は中へ戻り、確認をすることにした。


「荷馬車の荷物は全部降ろしてしまってよろしいでしょうか?」

「ん、問題ないにゃ」


 となると、濡れない工夫が必要だし濡れてしまったときのために拭く用意も必要になる。

 荷物は俺とセトトルで運ぶことにし、キューンとフーさんに拭いてもらうのがいいかな? とりあえずフーさんには、洗面所から拭くための布を持ってきてもらおう。


「フーさん、洗面所から布を……」

「ボス、早く荷物を入れないのかしらぁ?」


 フーさんは入り口のところで、手を上に翳していた。

 近づいてよく見ると、荷馬車から入り口までの部分に雨が降っていない。そこ以外の場所を見ると、ばっちり雨は降っている。

 上を見ると、見えないなにかが傘のように雨を遮っていた。なにこれ魔法まじ便利。

 俺もこの世界に来て少し経つし、実は隠された力とか目覚めてないだろうか? ちょっとフーさんの真似をして手を翳して見た。

 おぉ……。まるで俺が雨を遮っているようだ。


「ボス、手前から順々に運べばいい?」

「あ、うん。俺が受け取って中に運ぶから、セトトルは荷馬車の中で荷物を俺に渡してくれるかい?」

「りょーかい!」


 魔法使いごっこはやめ、俺はセトトルから荷物を受け取り店の中へと運び込んだ。

 中ではキューンが箱が濡れていないかを、しっかりとチェックしてくれている。段々役割がしっかりと分担されてきている気がする。


 荷物はすぐに全て中へと運び込めた。

 フーさんにカウンター業務を任せ、俺はキューンと荷物の確認と色を着ける。色を着けることも説明したら納得してくれたので、問題なく作業を行えた。

 セトトルには荷物を倉庫内へと運んでもらった。まだ倉庫内にも大分スペースがあるので、場所を確保しなくて済むことも非常に助かる。


 一通りの業務が終わったころ、猫耳の彼女が少し気まずそうに俺たちに声をかけてきた。


「その、最初はすまなかったにゃ。まさかこんなにサクサク作業が進むと思っていなかったにゃ」

「いえいえ、実際に見てみないと分かりませんよね。納得して頂けたのなら、こちらとしてもなによりです」


 良かった、どうやらこちらに不備もなかったようだ。

 そこでふと、俺は彼女の足を見た。

 じっと見ていると、彼女はマントで足を隠した。


「ど、どこを見ているにゃ! これだから男は……」


 俺は彼女の言葉をあまり聞いていなかった。

 そのまま、じっと彼女の靴を見る。

 靴は汚れていて、彼女が歩くたびに床が汚れていく。

 外は雨だから当然だが……ふむ。


「……靴を見てるにゃ? あぁ、やっぱり汚れているから気になるのかにゃ?」

「いえ……なるほど……」

「いや、靴でもそんにゃに見られると……。そうだ! この辺りに荷馬車の車輪を直せる場所はあるかにゃ? この辺りの道はもうひどくて、ぼろぼろになってしまったにゃ」

「それでしたら、北通りに工房があります。……ぼろぼろ? 車輪を見てもいいですか?」

「別に構わないにゃ。なにか気になることでもあるにゃ?」


 俺は外へ出て、荷馬車の車輪を見る。

 確かに車輪はボロボロになっていた。そういえばノイジーウッドたちのところへ行ったときも、道はひどいものだった。

 俺が車輪を見て色々と考えていると、肩がくいっくいっと引っ張られる。


「頭までびしょびしょになってるよ? はいボス、タオル!」

「え? ……本当だ、ありがとうセトトル」


 俺はセトトルから受け取ったタオルで頭や肩を拭きつつも、頭の中は考え込んでいた。

 外を見て、部屋の床を見て、考える。そういえば最近慣れてきていたせいで気づいていなかったが、外履きと内履きを分けるべきだったのではないだろうか。

 それに雨のときの対策もしていなかった。荷物が濡れないように、屋根が必要だろう。

 ……いや、荷馬車で店の中まで入り込めた方がいいのではないだろうか?

 そうなると、店の入り口は広く開くようにして……。いや、いつも荷馬車が来るわけではない。

 基本は閉じた状態にしないと、店の中が暑くなったり寒くなったり大変だ。となると……。しっかり閉じれるけど、有事の際は開けるようにする?

 かつ入り口部分に玄関も作って、靴を取り替えるように……。

 そう、それに街道の整備もした方がいい。

 これは俺一人でなんとか出来ることではないが、この町に来る道が整備されれば、訪れる人も増えるはずだ。

 となると、商人組合に議題として上げて……。


「おーい、聞いているかにゃ? おーい」

「……はっ! すみません、なんでしょうか?」

「工房へ行こうと思うので、この辺で失礼しようと思うにゃ。タオル、ありがとうにゃ」

「いえ、どうぞお体に気をつけてください。ありがとうございました」

「にゃにゃ。また三日後にゃ」


 彼女はそう言うと、荷馬車へ乗り込み出て行った。

 雨が落ち着くまで引き止めても良かったのだが、彼女は宿をとるつもりらしいので、早く宿へ向かう方がいいだろうと思い引き止めなかった。


 それにしても、色々な課題が見つかってしまった。

 課題が見つかると、まだまだやれることがあると分かり少し嬉しい。よーし! やるぞー! という気分になれる。


「なに考えてるのボス?」

「ん? 雨のときに荷物が濡れないように、屋根をつけようかと思ってね」

「屋根ならあるよ?」

「いや、外につけるんだよ。今日みたいなときに助かるからね」

「んん……でもフーさんが入れば大丈夫じゃない?」


 確かにセトトルの言うことも間違ってはいない。

 でもそれだと色々困ることがあるんだよね。


「それじゃあ、フーさんがいないときはどうする?」

「あっそうか……。オレとキューンだけだったら、雨を遮れないもんね」


 うんうん、セトトルも最近はすぐに理解してくれる。

 毎日頑張ってるから、色々と成長しているのだ。


「それと、外と中で靴を変えようと思うんだ。最近ここでの生活に慣れていて気づいていなかったけど、元々俺のいたところでは靴を変えていたんだよ」

「んっと……汚れないように? でも一々靴を変えていたら大変じゃない?」

「後で掃除をすることを考えたら、そっちの方がきっと楽だよ。ほら、床を見てごらん」


 俺とセトトルが床を見てみると……ピカピカだった。あれぇ?


「キュ、キューン!(あ、掃除しておいたッス!)」

「私が乾かしておいたわぁ」

「二人とも早いね……。ありがとう」


 説明する間もなく、床は綺麗になっていた。

 いいことなんだけれども、その、説明したかったな……なんて気持ちもある。

 いや、いいことなんだけどね!


「まぁ掃除が早いから今は問題ないけど、なるべく汚れないようにする方がいいからね。この先忙しくなって、掃除する時間がとれなくなったら大変だろ?」

「キューン!(手間を減らすッスね!)」

「ボスって綺麗好きよねぇ。部屋はそうでもないのにねぇ」


 三人とも納得してくれて良かった。後、部屋の掃除は仕事ではないのだから、しょうがないのだ。


 その後、大雨の中でお客様が来ることはなかった。

 三人は部屋の掃除をすると二階へと上がって行ったので、俺は一人改善案を紙にまとめていた。

 今日は色々発見があって楽しかった。早く改善したいものだ。


 二階では掃除をしている声が聞こえるが、そんなことも気にせずに俺は久々にいいアイディアが浮かんだと、意気揚々と業務改善提案をまとめていた。


 ……後で二階へ行くと、荷物が俺には全く分からない感じで片付けられていた。

 やっぱり片付けは自分でしないといけないね……。

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