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六十二個目

 ――数日後。

 台車の連絡も数日程度でくることもなく、通常営業だ。

 ただし、今日は大雨のため全然お客様は来ない。


 午後もいつも通りの倉庫業務を行ってはいたのだが、大雨のため落ち着いている。

 お客様もこないので、業務も完全に一段落ついてしまっており、なんとなくまったりとしている。

 たまにはこういう日もあってもいい気がする。たまにはね、たまには……いや、最近たるんでいるのではないだろうか? 本当にゆっくりしていていいのだろうか。考え出すと疑問は尽きない。

 元の世界で、こういうときは何をしていたかを思い出す。こんなときは……そう、やることは一つだ。


「よし! 全員集合!」

「えー? どうしたのボス? みんなここにいるよ?」

「キュンキューン?(今まったりしてるとこッスよ?)」

「今日は雨だけど、お客さんが少なくていいわぁ」


 セトトルはぐにゃりと潰れたキューンの上に乗り、フーさんもその二人をつついてまったりとしている。

 たるんでいる! さっきまでは俺もフーさんと同じことをしていたが、こいつらたるんでいる! けしからん!

 俺は両手でバシッと自分の頬を叩いた。

 その音に三人が少し驚いていたが、そんなことは知ったことではない。


「今日は少し時間もあることだし、空いている時間を使って、いつもよりしっかりと掃除や整理整頓をする! こういう時間を無駄にしないで使い、今後の作業を楽にする! これが大事だ! 全員準備!」


 ふふふっ。こんなことを言えば、最初は反発が起きるだろう。不平不満をぶつけられることも分かっている。

 俺だって掃除なんて好き好んでしたいわけではない。だが、このままだらけていても駄目なのだ! ビシッと気合を入れなければ!


「掃除! 整理! 整頓! バケツと雑巾とモップと……」

「キューンキューン(まずは倉庫内の掃除からッスかね)」

「倉庫の窓を換気のために開けてくるわぁ」


 ……一切の反発は起きなかった。

 むしろだらけていたはずなのに、三人ともテキパキと動き出す。

 あれぇ? なんでみんなそんなにやる気なのかな? その、文句を言ってもいいんだよ?

 俺が呆然と三人を見ていると、三人同時に俺へ声をかけてくる。


「ボス! 早く始めようよ!」

「キュン、キューン!(ボス、掃除なら僕に任せるッス!)」

「倉庫の窓を開けたわよぉ? ボス、どこから始めるのぉ?」


 俺が一番動いてねぇ! が、頑張らないと!

 慌ててセトトルから水の入ったバケツを受け取り、モップを持ち、俺は駆け足で倉庫内へと向かった。

 そんな俺を三人は不思議そうな顔で見ていたが、部下三人より動き出しから遅いなんてわけには行かないんだよ!




 三人とも手馴れたもので、どんどん掃除を進めていく。

 普段は中々できないが、棚の柱や天板もしっかりと磨く。大掃除には早いが、せっかくだし綺麗にしておこう。

 時間があるときは掃除や整理整頓をすることで、今後の効率も上がるし大掃除も楽になる。

 はっきり言って損は一つもない。

 だが、ちゃんとこういうことは言葉で伝えた方が良いので、そういう説明も忘れずにする。


「日々の掃除も大事だけど、たまにこうして時間のあるときは整理整頓をするんだ。そうすることで色々と状態もよくなるし、ミスとかも見つけられたりするからね」

「ミス? オレなにか間違えたの?」

「いやいや、そうじゃないから不安そうにしないで大丈夫だよ。ミスというのは誰でもするんだ。だからこそ見つけられるときに見つけて、早く対応する。そうすることで、お客様からも信用されるようになる。ミスは言われるより先に見つけて、自分から報告して対応する! これが大事なんだよ」

「キューンキューン、キュンキュン(ミスは言われる前に報告するっと、メモメモッス)」


 三人とも俺が言うままにメモをとっている。

 ただキューンはメモ帳を持っているわけでもないのに、メモをとっているらしい。一体どこにメモをとっているのか気になるが、少し怖いので気にしないことにしよう。


 その後も色々と今まで教えたことを復習したり、仕事への姿勢とかを教えながら掃除を続けた。

 大雨のためお客様は全くこないため、今日は本当に落ち着いている。来たら来たで対応をすればいいだろうし、基本は整理整頓と掃除だった。

 普段は荷物を倉庫へ入れることが、なによりも優先となる。

 だがこういう場合は違う。

 色は合っているのか、箱数は合っているのか、誰が見ても分かる状況となっているのか。

 この荷物はいつ動くのか、当分動かないのなら、早く動く物と場所を移動させるべきではないか。

 棚の中はきつきつになっていないか。場所を変えたほうが分かりやすいのなら、記録を残してきっちり動かそう。やることだけはたくさんある。

 元の世界では、そういうことすら全部やり切ってしまったときがあったが、そのときは延々と掃除をしていた。

 つまり、整理整頓、荷物の確認、掃除。これだけあれば倉庫業務に空いた時間はできないのだ。

 後々の自分たちのためにもなるし、とってもお得!


 自分はこういう時間をとても大事だと思っている。

 普段とは違い他の仲間と雑談をし、色々と考えることもできるし交友も深められる。ついでに業務改善の案なども、こういうときに浮かんだりするものだ。

 楽しいなぁ……。


 そんな風に楽しく仕事をしていたら、あっという間に夕方となってしまった。

 いやいや、時間が経つのはあっという間だ。

 良い業務改善の案は浮かばなかったな……。

 俺たちが掃除の片付けなどをして、今度こそ本当に一息つきまったりとしてお茶を飲んでいるときに店の前へ何かが止まった気配がした。。


 倉庫の入り口を慌ててガンッと開けて入ってきたのは白いマントを羽織った人だった。

 マントに隠れていて顔も見えないが……冒険者のようには見えないし、新規のお客様だろうか? こんな大雨の日にとは珍しい。

 というか、新規のお客様は初めてじゃないだろうか!


「いらっしゃいませ、東倉庫へようこそ。大雨の中、お疲れ様です」

「王都へ向かうつもりだったんだけど、降られちゃったにゃ。雨が落ち着くのを待ちたいから、2~3日荷物を預けたいと思うにゃ」


 にゃ? 語尾に不思議な言葉ついている。声の感じ的には女性のように感じる。

 まぁでも語尾が変わっていても、女性だろうと関係ない。そんなことは人それぞれだろうし、気にしないことにしよう。

 だがその人は、俺たちのことを眺めると溜め息をついた。


「この倉庫はなんにゃ? スライムに妖精? まさか従業員かにゃ?」

「はい、その通りです。みんな毎日頑張ってくれています」

「……はぁ、悪いけど預けるのはキャンセルするにゃ。悪いけど、こんな胡散臭い店に預けられないにゃ」


 そう言うと、彼女?は踵を返し店から出ようとした。

 なるほど、外からのお客様はあまりいなかったので気にしていなかったが、こう思われるのが普通なのだろう。

 しかし、このまま帰らせるわけにはいかない。折角の仕事を不意にはできない。


「待って頂けますか?」

「にゃ? 悪いけど、こっちも急いでるにゃ」

「でしたら、これから他へ移動するのも大変ですし、うちの倉庫にお預けになってはいかがでしょうか? 彼女たちは優秀な従業員です。まず、その働きを見て頂けないでしょうか? そうすれば納得して頂けると思います」

「……確かに、雨もすごいにゃ。まぁそこまで言うなら試してもいいにゃ……」

「ありがとうございます!」


 俺は頭を下げた後、すぐに三人に指示を出した。

 これを機に、新しいお客様が増えれば願ったり叶ったりだからね。

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