外伝6 フレイリス
この話では、キューンの台詞の訳が後書きにあります。
つまり、最後にキューン語検定の答えがあります!
調子にのって配点も載せました。
風のざわめき、擦れる葉の音。
木々の間から見える空には、美しい星。
とても綺麗で、とても……切ない。
私は今日も一人、木の洞で眠る。膝を抱えて、早く夜が終わればいいと思いながら。
シルフは自然現象として世界に産みだされる。
どういう原理かは分からないが、魔力の流れや溜まりなどで産まれる。
なぜかそういう知識を、シルフは持って産まれる。
……しかし、そんなものにはなにも意味はない。
どんな知識を持っていても、一人なことに変わりはないのだから。
日中は森を彷徨い歩く。
そして色々な動物や鳥、スライムなどの魔物に出会う。
だがその全てと、私は通じ合えない。
話したい、一緒にいたい。でも、そんな簡単な言葉が出せない。
必死に絞り出そうとしても、そんな事情を知らない動物たちは、気付けばいなくなっている。寂しい。
話そうとすればするほど、言葉が出ない。
緊張や恥かしさで全身が熱を持ち、顔まで真っ赤になってしまう。
ただ一緒にいたい、話がしたい。そんな簡単なことも伝えられない。
同じシルフの仲間を探し歩いたこともあった。……でも、見つからなかった。
他のシルフがどこにいるか、誰かに聞くこともできない。
そんな私の唯一の癒しは、たまに拾う人間の本だった。
シルフは人間の文字や言葉の知識を持っているので、本を読むことができたからだ。
本には私が望むものがたくさん書いてある。
様々な物語、友達、仲間。友達と話すというのは、とても楽しいこと。仲間と一緒にいることは、とても幸せなこと。
流行のファッションを知り、真似をして服を作る。
木や葉っぱで真似をしただけの粗末な物。でも私には、とても楽しい時間。
……それを自慢する相手も、見せる相手もいない。私はきっと、ずっとこのままなのだろう。それが辛い。
いつの日だろうか、森の中に変わった物が落ちているのを見つけた。
変な本と、服……? 全身を覆うような変わった被り物のような服だ。なぜか筋肉がすごくついているが、こういうのが流行っているのかもしれない。
私はそれを見ていて、一つの考えが浮かんだ。
これを着れば、顔を合わせることはない。私も話すことができるかもしれない!
思い立ったら、行動するのは早かった。
水で奇麗に洗い、風の魔法で乾かし、私はそれを着た。
泉でその姿を見ると、完全に別人のようだ。
……話し方も変えた方が良いかもしれない。
私はふっと思い出し、木の洞へと戻る。そして一冊の本を丁寧に取り出した。
その本のタイトルは『今はこれがイケてる女の子!~女も強くなければ生きていけない~』。
これを見て、ビビッときた。これならきっといける!
一日かけて、その本を何度も繰り返し読んだ。朝には内容を熟知し、完璧にやれると思えるほどに読みこんだ。
私は次の日、その本で学んだことを実践しようと木の洞を出た。
お気に入りの泉へと朝早くから向かう。
もちろん格好は、昨日拾ったゴツゴツとした服。大丈夫、口調だって研究したんだから大丈夫だ。
ドキドキして言うことを聞いてくれない胸を押さえつつ、泉へと到着する。
そこには、都合の良いことに一匹のスライムがいた。
私が近づくと、こちらに気付いたようにスライムが振り向く。どちらが前かは分からないが、そんな感じがした。
それだけで、私は動けなくなってしまった。頭が真っ白になり言葉が出てこない。
……でも、私はすごく寂しかった。誰かと一緒にいたかった。だから……だから!
昨日何度も見た本を思い出し、必死に言葉を紡ぎだした。
「あ……あらぁ? こ、こここんなところで、で! なにをしているぅのか、かしにゃぁ!」
……失敗してしまった。
たくさん練習もしたのに、精一杯頑張ったのに……。
でも、私はうまく言うことができなかった。そのことに悲しくなり、俯いたまま動けなかった。
少し時間が経ち、もう誰もいないだろうと私は顔を上げた。
だがそこには、先程のスライムがまだいた。それどころか、私の方を見てピョンピョンと飛び跳ねている。
たぶん実際は、私に興味なんて無いのだと思う。でも、それでも……もう一度、チャンスがもらえた気がした。
もう一度だけ、もう一度だけ勇気を振り絞ろう。
私は最後の力を振り絞り、声を掛けた。
「お……おはよう。いい天気ねぇ?」
「キューン!」
……も、もしかして今のは私に答えてくれたんだろうか? 違うかもしれないし、そうかもしれない。
私は胸が早鐘を打つのを必死に手で押さえ、言葉を紡ぎ出す。
「い、今はなにをしているのかしら?」
「キュン、キュンキューン!」
……なにを言っているのかは分からない。
でも、逃げずに私と話してくれている。そんなことが嬉しかった。
少しでも長く続けようと、分からないのに分かるフリをして必死に話す。
「そ、そうなのぉ? 私もこの泉はお気に入りなのよぉ? よ、良かったら一緒に……」
「キュン?」
お話でもしない? 本当はそう伝えたい。でもそんなことを言ったら、逃げられてしまわないだろうか? 図々しいと思われないだろうか?
色々考えてしまい、私は黙ってしまった。
もう何を言えばいいかが分からくなってしまった。
そして私は座り込んだ。涙が止まらない。
こんな私に付き合う必要はなく、スライムもどこかに行ってしまうだろう。
私はそんなネガティブなことを考えていたが、スライムは違った。
ぽよぽよと飛び跳ねながら近づいて来たかと思うと、ピョンッと飛び跳ねて私の膝に乗ったのだ。
私は驚き、また固まってしまった。ど、どうすればいいんだろう……。
「キュンキューン! キューン!」
「え、えぇっと……。そうねぇ! とってもいい天気ねぇ!」
「キュンキュン!」
話は通じないけれど、スライムは逃げないでくれた。
私はそれが嬉しくて、すごく嬉しくて……そっとスライムを抱きしめた。
「キューン? キュ、キューン」
「ごめんなさい、もう少しだけこのままで……」
「キューン、キューン!」
私はこの日、初めての友達を手に入れた。
……そしてそれからは毎日、スライムと会った。すごく、すごく楽しい。
何度も会ううちに段々と緊張もしなくなり、普通に話せるようにもなった。
「そういえば名前を知らなかったわねぇ。私はフレイリスよぉ」
「キュンキューン!」
「うんうん……。あなたの名前は……聞いても分からないわねぇ。困ったわねぇ……。そうだ! それじゃあ……キューンでどうかしらぁ!」
「キューン!? キュン、キュンキューン……」
「気に入ってもらえたようで良かったわぁ。これからもよろしくね、キューン!」
「キュンキューン……」
スライムは、私が名付けた名前にぷるぷる震えて喜んでくれた。
楽しかった、本当に楽しかった。
……でも、そんな時間は続かなかった。ある日から、キューンと出会えなくなったのだ。
私は毎日キューンを探した。森中探した。寝る間も惜しみ、ずっと探した。……でも、見つからなかった。
冒険者が来ることもある森で、スライムが倒されてしまうことはよくある話。そんなことは私でも知っている。
でも悲しくて、すごく辛くて……涙が止まらなかった。
それから数日経ったある日、私はいつものように泉へと向かう。
途中で聞きなれない声が聞こえ、一瞬ビクリとしてしまう。一体誰がいるのだろう? 今日は泉に行かないほうがいいのかな……。
……でも、もしかしたらキューンのことを知っていたりしないだろうか?
知らない相手に会うのは怖い。でもキューンの行方は知りたい。
二つの感情が私の中でごちゃ混ぜになる。怖い、知りたい、逃げたい、会いたい。
私は悩んだ結果、その声へと近づくことにした。どうか、襲われたりしませんように……。
夜、ハッと目を覚ます。
着ぐるみを着ていないのに、全身は汗だくになっており、顔も濡れていた。
……少し違和感を感じ、私は顔に手を当てる。
汗ではないもので、頬が濡れている。どうやら私は寝ながら泣いていたらしい。
周囲を見渡すと、そこは木の洞ではなく部屋の中。
そうだ、私はもう木の洞で膝を抱えて寝なくてもいいんだ……。
どんな夢を見たか覚えていないが、なぜかすごく悲しい。
私はベッドから起き上がり、そっと部屋を出た。
向かった先は、隣の部屋。
深夜なこともあり、私はそっと扉を開いた。
暗がりの中、目を凝らす……。ベッドの上にはボスが寝ている。顔の横にはセトトルちゃん、お腹の上にはキューン。
それを見て、私はくすりと笑った。見ているだけで、なぜか幸せな気持ちになる。ずっと見ていられそうだ。
三人をじっと見ていたのだが、その見ているだけの距離が寂しい。
……少しだけためらったのだが、すごく人恋しくなっていた私は、静かにボスの横へと潜り込んだ。
そしてボスの服を、少しだけ掴む。
ベッドの中はとても暖かくて、気持ちが良い。
こんな私と友達になってくれたセトトルちゃんとキューン。そして私が普通に話せるようになるまで、ずっと一緒にいてくれるといったボス。
さっきまでの不安は、いつの間にか全て消え去っていた。温かいせいか幸せだからか、理由は分からない。でも私は心地良い眠気に包まれていく。
そんな温かいものに身を任せ、ゆっくりと瞼を閉じた私は、優しい眠りについた。
次の日の朝、私を見たボスは慌ててしまい、ベッドから落ちてしまった。
思い切り頭を打ったようで、少しの間頭を押さえて蹲っていた。
私は申し訳ない気持ちで一杯になっていたのだが、ボスは笑って許してくれた。ごめんなさい、ありがとうボス。
そしてその日から、私はボスたちと同じ部屋で眠るようになった。
ボスは最初すごく困っていたが、セトトルちゃんに言い負かされて渋々納得していた。
なんとなくだけど、もう怖い夢は見ない気がする。
私はきっと今日も、幸せな気持ちで眠りにつくだろう……。
「お……おはよう。いい天気ねぇ?」
「(おはようッス!)」 5点
「い、今はなにをしているのかしら?」
「(ちょっと、水浴びッスね!)」 5点
「そ、そうなのぉ? 私もこの泉はお気に入りなのよぉ? よ、良かったら一緒に……」
「(どうしたッス?)」 5点
「(この泉は綺麗ッスよね! 僕もよく来るッス!)」 10点
「え、えぇっと……。そうねぇ! とってもいい天気ねぇ!」
「(全然伝わってないッス!)」 5点
「(寒いッスか? 僕、温かくないッスよ)」 10点
「ごめんなさい、もう少しだけこのままで……」
「(よく分からないけど、構わないッスよ!)」 10点
「そういえば名前を知らなかったわねぇ。私はフレイリスよぉ」
「(ならフーさんッスね!)」 5点
「うんうん……。あなたの名前は……聞いても分からないわねぇ。困ったわねぇ……。そうだ! それじゃあ……キューンでどうかしらぁ!」
「(勝手に決められたッス!? どうせなら、もうちょっと格好いい名前が……)」 40点
「キュンキューン……」
「(決定しちゃったッス……)」 5点
100点満点! ちなみに自分は0点でした! 楽勝だね!