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四十七個目

 次の日。朝起きて準備をし、三人で一階へと向かう。

 フーさんは今日は起きるまで寝かせておいてあげようと、三人で話し合い決まっていた。

 今日は起きてこれないかもしれない。だが、仕方のないことだ。ゆっくり寝かせてあげよう。


 今日は倉庫の掃除をキューンに任せ、俺はセトトルと二人で外の掃除から始めた。

 そしていつも通りおばさま方に朝の挨拶からだ。


「おはようございます」

「おはようございます!」

「二人ともおはよう。今日はあの強そう……新しい人はいないのかしら?」


 今、強そうって言ったよね。同感だけど聞き流しておくことにし、俺は答えることにした。


「今日は少し体調が悪いので休ませています。体調が戻ったら仕事に出てもらうかもしれません」

「あらそうなの。最近涼しくなったからね、お大事にと伝えておいてくれるかしら」

「はい、分かりました。心配して頂きありがとうございます」


 今日も和やかな会話をし、掃除を済ませる。

 よしよし、段々と距離が縮まっている気がする。これは俺の評判もうなぎ上りに違いない。やっぱり挨拶や掃除はとても大事だな。これからもしっかり継続していこう。


「……二日目で体調不良ですってよ」

「……やっぱり、仕事が大変で」

「……あんなに体格のいい人がたった一日で」


 小声で話している声が聞こえちゃった。

 ……地道な努力! 地道な努力が大事だよね! 畜生!


 掃除が終わり部屋の中に戻ると、階段からドタドタと大きな音が聞こえる。

 その音に気付き、慌ててキューンも倉庫内から出てきた。

 そして音がやみ、階段前の扉が控えめに開かれる。そこから恐る恐る顔を覗かせていたのは、当然フーさんだった。

 こちらと目が合い、ビクッとした後にしずしずと扉を開き出てくる。


「フーさんおはようございます」

「フーさんおはよう!」

「キュンキューン!(フーさんおはようッス!)」


 彼女は挨拶を返さずに後ろを向き、何か微妙に動いている。

 もしかしたら昨日のことで気まずいのかもしれない。彼女に落ち度があったわけでもないし、あまり触れないであげよう。

 そして彼女はこちらへ振り向き、自分の顔を隠すようにスケッチブックを掲げた。


『昨日はすみませんでした! おはようございます!』


 俺たち三人は、それを茫然と見ていた。

 着ぐるみを着ているのに、フレイリスさんはスケッチブックに文字を書いて見せているのだ。

 これはつまり……前より悪化したんじゃないか!? どうすんだこれ……。



 落ち着いたら大丈夫になるかもしれない、きっとそうだ。俺はそう信じ、その日フーさんには倉庫内で仕事をしてもらうことにした。人前に出すのは厳しそうだと判断してのことだ。

 あの状態だと不安なので、セトトルとキューンも今日は倉庫内だ。

 やっとカウンターと倉庫で二人ずつ人を配置できると思っていたのだが、中々うまくいかないものだ。

 俺はお客様もいないので、なんとなくカウンターを拭いていた。掃除をしていると、ギィっと音がして扉が開かれる。

 どうやらお客様がいらっしゃったらしい。


「いらっしゃいませ」

「どうも、お久しぶりです」


 犬耳に物腰の柔らかな男性。この人のことはよく覚えている。

 俺が正式な管理人になる前に、荷物を預けていた男性。エーオさんだ。


「エーオさんお久しぶりです。荷物の預かりでしょうか?」

「はい、また利用させて頂こうと思いまして。……それにしても、随分と様変わりしましたね」

「日々精進させてもらっています」


 彼は嬉しそうに笑うと、一緒にいた男性に持たせていた箱をカウンターへと置かせた。

 これが預かり物かな?


「これを三日ほど預かって頂きたいのです」

「なるほど……。箱が開きませんね。密閉されているようです。中身はなんでしょうか? 開封しない方が良い物でしょうか?」

「はい。貴重な白い壺ですが、外気に触れさせたくありません。このまま保管をして頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「畏まりました。このまま保管させて頂きます。ですが、なにかありました場合は開封して確認する場合もあります。その旨はこちらにも記載されておりますので、一読頂けますか?」

「ふむ……」


 そう言い、エーオさんは紙へと目を通した。

 書かれている内容はそう大したことじゃない。

 未開封状態で預かった物は未開封状態で返す。その場合、中の物になにかあったとしても責任は負いかねる。

 ただし、こちらでなにか不具合を感じた場合や、落としてしまった場合はその限りではない。賠償などもあるので、開封して中身の確認をする。

 そういった内容だ。


「なるほど。特にこちらとしては問題はありません。よろしくお願いできますかね?」

「分かりました。こちらにサインを……」


 その後、滞りなく処理を終わらせる。

 エーオさんは手続きが終わり、こちらに軽く頭を下げた。


「では、よろしくお願いします」

「はい、責任もって預からせて頂きます。では三日後、お待ちしております」


 俺は扉を開き、エーオさんと一緒にいた男性に頭を下げた。

 エーオさんはこちらに軽く手を振ると、荷馬車で去って行った。

 うーん、エーオさんは相変わらず落ち着きのある人だ。冒険者ばかり来るうちからしたら、あぁいう人は大事にしたいものだ。

 さて、預かった箱を倉庫に仕舞うかね。

 預かった普通の木箱を俺は慎重に持ち上げる。中は壺だと言っていたし、より気を付けるにこしたことはない。

 ……だが、持ち上げて気付いた。箱が妙に温かい。なんだこりゃ?

 箱をカウンターへ置き直し、箱の外側へ触れてみる。……やはり少し温かい。

 今まで無かったパターンだ。俺だけでは判断がつかない。俺は倉庫から、三人を呼び寄せることにした。


「三人とも、ちょっと来てくれるかな?」


 パタパタぷにゅぷにゅと、面白い音を立てながら三人が来る。


「どうしたのボス?」

「うん、ちょっとこの箱を触ってみてくれないかな?」

「?」


 不思議そうな顔をしながら、三人は代わる代わる箱を触った。

 触ったり手を離したり、先程の俺と同じように確かめるように触った。


「キュン……キューン?(これ……温かくないッスか?)」

「やっぱりそうだよね。温かいものっていうのが想像つかなくてね。人の体温で温まっていただけなら、段々冷たくなるはずだろ?」

『全然冷たくならないですね』

「うん、そうなんだ。それでちょっと困っていてね。温かいもので思いつく物ってあるかな?」


 あえて、危険があったら困るということは伏せておいた。危険が確認できていないのに、パニックを起こされても困るからね。

 俺も含め、四人で悩む。一体これはなんだろう?


「うーん……。火の魔石、とかかな?」

「壺だって言っていたんだ。火の魔石を使った壺なのかな?」

「キュ、キュンキューン?(ひ、人が入っていたりしないッスよね?)」

「いや、自分から動いている感じはしないし、微かに固い物が入っている感じがするからそれは無いと思うけど……」

『爆弾だったりして』


 フーさんの書いた言葉を見て、俺たち四人は笑った。爆弾? はっはっは、もうやだなぁ。爆発しちゃうのかな? はっはっはっは……。笑えない!


「三人は倉庫内に入って扉を閉めて! 俺は今から箱を開封して確認するから!」

「で、でも人を呼んで来た方がいいんじゃないかな? オレすぐアグドラを呼んでくるよ!?」

「いや、爆弾っていうのは俺達の想像でしかない。もしかしたらただの壺かもしれない。まずは確認をする。分かったら倉庫内にいるんだ!」


 俺は三人を倉庫内に無理矢理入らせ、二階からショートソードを持って来る。これで留金を外し、無理やり隙間に入れて開けるしかない。箱が破損してしまうかもしれないが、謝罪は後だ。まずは危険がないかを調べないといけない。

 俺は慎重に出来るだけ傷がつかないように、留金を外した。……よし、これで開くはずだ。

 俺は両手を蓋にかける。開けるぞ……。


「キュン、キューン!(ボス、慎重に開けるッス!)」

「うわああああああああ! ってキューン!? 驚かさないでくれよ!」

「キュ、キューン(す、すまないッス)」

「倉庫内に入ってるように言っただろ?」

「キューンキューン! キューン!(危険なことをボス一人にやらせれないッス! 僕も付き合うッスよ)」


 全く格好いいじゃないか、このスライムもどき。

 俺がキューンへと笑いかけると、キューンも笑った気がした。

 一蓮托生、なんて心強いんだ。


「よし、それじゃあ改めて開けるぞ……」

「キューン!(はいッス!)」


 俺は蓋を慎重に開け、カウンターへと置いた。まだ爆発はしていない。

 さぁ、中身を確認しよう。俺はキューンを持ち上げ、二人で箱の中を覗き込んだ。

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