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四十二個目

 話も終わり、俺たちは来た道をぜぇぜぇと息を荒げながら戻る。……まぁ、息を荒げているのは俺だけだが。

 そしてやっと森を抜け、街道から空を見上げると、すでに茜色の空が広がっていた。


「もうこんな時間か……。どうする、帰ったら打ち上げと新人の歓迎会でもするか? 麗しのウルマーの店でな!」


 ヴァーマさんはなぜこんなに元気なんだろう。やはり冒険者をやっているだけあって、体力が違うのだろうな。

 正直、俺はすでに疲労困憊だ。打ち上げも歓迎会もしたいところだが、体がいうことを利かない。


「すみません。明日の夜などでどうでしょうか? 今日はみんな疲れていますし」

「なに言ってんだ! ちょっと動いただけで、戦闘もなかっただろ。いこうぜボス!」


 全然俺の話を聞いてくれていない。何とか断ろうとしていると、セレネナルさんがそれに気付いてくれた。


「ヴァーマ、無理を言うもんじゃないよ。今日は帰って解散。また明日の夜にしよう」

「いや、でもせっかくだしな」

「じゃあそういうことで。とりあえず東門に向かおうか」


 セレネナルさんに俺は軽く頭を下げた。彼女はそれに笑って答えてくれた。感謝感謝だ。この人無しだったら、明日は倉庫を休みにしなければいけなかったな……。


 俺たちはオレンジ色に染まった空と雲を見ながら、街道に沿って東門へと戻る。

 そして東門が見えてくると、門番がこちらに気付いた。俺たちを見て、こちらへ手を振ってくれた。


「お、ボスお帰り。……知らないやつが一人増えているみたいだが?」

「はい、こちら新しく東倉庫で雇うことになった方です。シルフのフレイリスさんと言います。仮の通行証を発行して頂けますか?」


 門番の二人組は、じろじろとフレイリスさんを見ている。

 少し失礼な態度ではあるが、これが彼らの仕事だ。町を守ってくれている彼らにケチをつけることはできない。

 フレイリスさんもそれが分かっているらしく、笑顔で彼らに答えていた。


「よろしくねぇ。フレイリスよ」

「……なるほど。通って良いですよ」

「え? 許可証は……」


 なぜか仮の通行証も発行せず、あっさりと通ることを許された。門番仕事しろよ、と思ったのは内緒だ。

 だが、彼らは笑ってこう言った。


「書類などは、正式なものを後で発行するよう手続きをしておきます。商人組合の副会長から連絡がありましたので」

「……副会長から?」

「はい、こう言っておりました。『ナガレさんが仲間を連れて帰ってくると思いますが、恐らく普通の人ではないでしょう。何かあれば彼が責任をとりますし、通してしまって良いですよ。何かあれば連絡をください』とのことです!」


 恐らく普通じゃないってどういうことだ! おのれ副会長。うちの倉庫には俺を筆頭に、まともなやつしかいないというのに……!

 でも通してもらえるのは助かるので、ここは素直に感謝をして許しておこう。


「ありがとうございます。ではこれで失礼しますね」

「おー。またおやっさんの店でな」


 俺は門番の二人に軽く手を振り、その場を後にした。

 そうしたら、訝し気な顔をしたフレイリスさんが俺の肩をつついた。一体どうしたのだろう。


「ねぇボス? 門番なのに、あれでいいのかしらぁ……」


 良くないです。

 とても良くないですね。俺もそう思います。


「大丈夫ですよ。何かあれば副会長がなんとかしてくれますので! 副会長が!」

「そ、そうなのぉ? ならいいんだけど……」

「カーマシルに任せておけば大丈夫だよフーさん! 何かあったら、オレも頑張るから!」

「ふふっ、ありがとうセトトルちゃん」


 問題はあるのだが、問題なく門を抜け倉庫の前へと俺たちは帰って来た。

 そしてその場で、ヴァーマさんとセレネナルさんにお礼を言う。


「今日も本当に助かりました、ありがとうございます」

「おう、気にするな。お疲れさん! さてセナル、俺たちはおやっさんの店にでも行こうぜ」

「はぁ……。駄目だよヴァーマ。冒険者組合への報告が先だ」


 明日でいいじゃねぇかと文句を言うヴァーマさんを引きずり、セレネナルさんは去っていった。

 今日は本当に疲れた。でも色々考えると危険もなく、安定した冒険だった。問題はこの体に残る疲労感と、明日訪れるかもしれない筋肉痛が怖い。

 ……まぁ明日のことを考えていてもしょうがない。俺は倉庫の扉を……あれ、開いている。


「それでねフーさん! ここが倉庫への扉だよ! 二階はオレたちの部屋があるんだ!」

「キュンキューン?(フーさんの部屋はボスの隣の部屋ッスかね?)」

「あら、そうなのぉ? シャワーもあるみたいだし、いいじゃない。部屋にも案内してもらってもいいかしらぁ?」


 お、俺が案内したかったのに……。

 いや、二人がきっと気を使ってくれたんだ。きっとそうだ。細かい説明を俺は明日しないといけないし、大まかな説明は二人に任せておこう。

 三人が二階へと上がるようなので、俺もそれに続き二階へと上がった。

 二階にも実はかなり部屋がある。俺たちが使っている部屋は、階段近くで一番動きやすい部屋。

 その隣の部屋を、前もって三人でちゃんと掃除してあった。ベッドのシーツも変えてあるし、問題ないだろう。

 部屋の中に全員で入ると、フレイリスはご満悦といった顔をしてくれていた。


「一人で使っていいのぉ? この部屋、悪くないわねぇ!」

「どうぞ好きに使って下さい。何か足りない物があったら、相談して頂ければと思います」

「分かったわぁ。うふふ、いつも木の洞などで寝ていたから、ベッドで寝るのなんて久しぶりよぉ」 


 フレイリスさんは割とサバイバーだった。うん、それならこの普通の部屋でも満足して頂けそうで何よりだ。

 俺たちはその後、家にある物で食事を楽しみ、その日は疲れ切ってすぐに就寝した。



 夜中、急に目が覚める。

 おぉ……体が重いし痛い。妙な寝汗も掻いている。

 時間は2時。変な時間に目が覚めてしまった。体はまだ怠いしこのまま寝たいところだが、シャワーでも浴びてすっきりしてから寝ようかな。

 俺はそう思い至り、寝ぼけながらもセトトルとキューンを起こさないように気をつけ、一階へと向かった。


 真っ暗な中、洗面所へと入る。

 洗面所の中は、明かりが点いていた。昨日消し忘れたのかな? 一瞬そう思ったが、奥からシャワーの音がする。

 誰かがシャワーに入っている……? 一体誰だろう? タイミングが悪いな。

 完全に寝ぼけている俺は、セトトルかキューンがシャワーに入っているのだろうと思った。仕方なく俺は汗をタオルで拭いて寝ることにしようと、タオルを手に取る。

 今考えれば、ここで二階に戻れば良かったのだ。

 そもそも誰も入っていなかったとはいえ、シャワーの水を俺は出すことができない。洗面所の明かりすら灯せない。

 セトトル無しでは、そんな簡単なことすらできないのだ。だが何度も言うが、俺は完全に寝ぼけていた。だから戻ろうともシャワーが出せないとも、これっぽっちも思わなかった。

 

 タオルをとろうとしたそのときだった。ビキッと足に嫌な感触が走る。

 こ、このままでは足を攣ってしまう! 俺は微妙に態勢を変え、何とか攣らないようにしようとする。

 それが良くなかった。


 バランスを崩した俺は、そのまま倒れるように転んだ。

 ぶつかった場所はシャワールームの扉。普段なら誰かが入っていれば、鍵が掛かっているので問題ない。

 なのに、なぜかその扉がそのまま押し開かれる。


「なっ……!?」

「……!?」


 俺はそのまま、シャワールーム内に転がり込んだ。

 そして中にいた人と目が合う。

 中にいたのは……歳は12~13歳の少女。身長は130か140ほどで小柄。

 美しい流れるような緑の長髪で顔が少し隠されているが、神秘的な美しさが一目で分かる。

 水を弾く美しい透き通るような白い肌が、シャワーでほんのりと紅色に染まっている。そして控えめながらも、胸がある。

 その姿に目を奪われ、俺は言葉を失い身動きがとれなくなる。

 相手も俺が入ってきたことで、完全に固まってしまっていた。


 ところで……誰? この人?

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