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三十九個目

 次の日の昼休み。

 昼食を済ませた俺は、二人を連れて冒険者組合と親方の工房に行くことにした。

 午後の開店が少し遅くなるが、仕方ないだろう。

 東通りを中央へと向かい、まずは冒険者組合へ。

 中をうろうろと見ると……、お目当ての人物はすぐに見つかった。


「ヴァーマさん!」

「ん? ボスか。どうした? 預けてた物に何かあったか?」

「いえ、実は仕事を頼みたくて来ました」

「仕事か! まぁ座れよ」


 ヴァーマさんに促され、俺は席につく。

 同じ机には、丁度良いことにセレネナルさんもいた。


「で、どうした?」

「はい。キューンと出会った近辺にある森へと行きたいんです。それで冒険者の方を雇おうと思いまして……」

「俺の出番か!」

「はい、セレネナルさんもご紹介して頂けないかと思いまして!」

「……セナル?」

「私かい?」


 今、ヴァーマさんと会話が被ったけど、何て言ったのだろう。まぁいいか。

 俺はセレネナルさんに顔を向け、お願いすることにする。


「ということでして、お願いできないでしょうか? 都合はそちらにお任せします」

「まぁ、私は構わないよ。大した相手もいない場所だし、危険なことはそうないからね。でも、その……」


 セレネナルさんは、なぜかちらちらとヴァーマさんを見ていた。

 ヴァーマさんはなぜかしょげて、下を見ていた。理由は分からないが、少し気になる。

 だがまずはこの話を済ませてしまおう。それから、ヴァーマさんに何があったのかを聞いてみる。完璧だ。


「それでは、いつごろお二人は空いていますか?」

「……二人?」


 急に息を吹き返したように、ヴァーマさんが顔を上げる。


「お、おいボス! 俺も行っていいのか!?」

「え? ……来てくれないんですか!? すみません、ヴァーマさんもお誘いしたつもりでした。そうですよね、来て下さると勝手に勘違いしていました。えぇっと、どうしよう。誰か他に良い人いらっしゃいますかね? 自分にはお二人くらいしか、冒険者の知り合いがいないものでして……」

「他なんていらん! 俺に任せておけ! よし、いつ行く!? 明日か!? いや、今日か!?」


 なぜか急激にテンションが上がっているヴァーマさんに、背中を叩かれる。

 そろそろ本当に背中へプロテクターを入れるべきか悩む。

 でも良かった、お二人とも一緒に来てくれそうだ。これで一安心。


 その後も話を進め、二日後の出発となった。


「では、お二人ともよろしくお願いします」

「任せておけ!」

「はいよ」


 そして帰ろうとしたのだが、なぜか俺たちに受付の兎耳のお姉さんが、手招きをしている。

 なんだろう? 俺は手招きに従って近づいた。

 近づいて顔を見ると、少し怒っている様子が分かる。何かまずいことをしてしまっただろうか?


「ナガレさーん? ここはどこですか?」

「冒険者組合です」

「冒険者組合は何のためにありますか?」

「?? 冒険者の管理や、仕事の斡旋……あ」

「はぁ……。分かって頂けたのなら良いです。知り合いの冒険者への仕事の依頼は構いません。ですが、ちゃんと冒険者組合を通してくださいね? でないと、数日帰ってきていない。でも、どこに行ったかが分からない。そういう事態に陥る可能性もあります。分かりますよね?」

「すいませんでした……」

「分かって下されば大丈夫ですよ」


 それだけ言うと、笑顔に戻った兎耳お姉さんに言われるがまま書類へと記載した。

 ついでに、仲介料を納めるよう言われてお金を払った。ちゃっかりしているが、当然のことだ。

 さて、冒険者組合でやるべきことは終わった。

 次は親方の工房へと向かおう。



 肩にセトトル、頭にキューンを乗せて移動をする。

 キューンがなぜか、たまには頭の上にも乗ってみたいッス!と言ったためにこうなった。そこまで重くはないのだが、若干頭がぐらぐらする。

 そんな状態で北通りを抜け、親方の工房へと辿り着く。

 そこまで着いたら満足したのか、キューンが頭の上から降りてくれた。若干肩や首? 背中? が凝った……。

 俺は肩や首を少し動かしてほぐしつつ、中を進む。そして作業中のドワーフへと挨拶をしながら、親方を探した。

 工房はいつも通り、カーンカーンと小気味良い音をたてている。

 途中で他のドワーフに親方の場所を教えてもらい、言われた場所へ進むとすぐに親方が見つかった。


「親方! こんにちは!」

「こんにちはー!」

「キューン!(こんにちはッス!)」


 親方はこちらを向き俺たちを見たが、すぐに視線を戻して作業に没頭していた。

 たぶん忙しいのだろうと、一区切りつくまで俺たちはその場で見学しながら待つことにする。


 ……恐らく5分ほどたっただろうか。親方が汗を拭いながら俺たちへと近づいて来た。


「すまんな! 待たせたぞ!」

「いえいえ、今日もスライムゼリーを持って参りました」

「丁度良かった、そのことで話があったんじゃ。こっちに来い!」


 何があったのかは分からないが、親方に案内されるままいつもより奥へと進む。

 そこには小さな部屋があった。本当に簡素な部屋で、机と椅子があり、話をしたり小休憩をとるような感じの場所だ。

 親方に座るよう促され、俺は席につく。セトトルとキューンは、見えるように机の上へ載せた。

 同じように椅子に座った親方が、じっと俺を見る。何から言うか考えている、そんな風にも見えた。

 だが親方は一つパンッと両手を合わせると、考えるのはやめだと言わんばかりに話し始めた。


「やめじゃやめ! どう話すか考えたが、そんな無駄なことはやめじゃ! 単刀直入に言うぞ? キューンはスライムじゃない!」

「なるほど、スライムじゃないんですね」

「え、えぇー!? キューンってスライムじゃないの!? オレずっとスライムだと思ってたよ!?」

「キュン、キュンキューン!?(僕、スライムじゃなかったッス!?)」

「……なんじゃ、ボスは薄々気づいておったか」


 俺はこくりと頷いた。

 こんな脳みそがどこにあるのかも分からないのに、明らかな知性を感じる生き物。しかもどちらかというと頭が良い。もし全てのスライムがこうなのだとしたら、今頃世界はスライムが席巻しているはずだ。

 そりゃ興味が出ちゃって、魔物図鑑の一つや二つ買って調べますよ。……図鑑が面白そうで買った後に、キューンのことを調べたわけじゃないからね?


「だが、何かは分からん。買い取っている高品質スライムゼリーにしても、何かが違うということしか分からん! ……それでじゃな、キューンをうちに預けんか? 何か色々と分かれば、研究も進むぞ?」

「ダメ! キューンはうちの子だよ!」

「キューン……(解剖されちゃうッス……)」


 俺が答える前に、セトトルから制止が入った。

 キューンは俺やセトトルにとって、大切な仲間だ。こう言うのもしょうがない。

 それで親方も渋い顔をしたが、俺を見てもう一度提案をしてくる。


「じゃがな、もしかしたらすごいことが見つかるかもしれんぞ? それこそ、キューンだけで借金を返すどころじゃない金額が手に入る可能性もある! もちろんキューン自体も悪いようにする気はないぞ? 東倉庫からすれば、悪くない提案じゃと思うんじゃが……」

「ダメダメダメ! 絶対ダメ!」

「セトトル、ちょっと落ち着いて」

「ボス!? キューンを売る気なの!? 絶対やだよ! 売らないって言ってよ!」

「売らない。分かったら少し落ち着いてね?」

「え、売らない? ……うん! 分かった!」


 セトトルはそれを聞き、安心した顔で笑った。

 当のキューンはというとだ。いつも通りぷるぷるとしている。自分のことなのに、中々の演技派だ。

 さて、そろそろ倉庫に戻りたい時間だ。親方には悪いけど、はっきりと断ろう。


「キューンが何か隠していることは気付いています。スライムについては、自分も調べましたからね」

「む、調べておったか」

「えぇ、とはいっても気付いたのは最近です。まずですが、スライムは最低でも数体の群れで行動をします。なのに、キューンは一体のみで行動をしていました」

「キューン!(孤高の存在ッス!)」

「そして次に、スライムに知性のある行動はほとんど見つかっていません」

「キュンキューン!(特別なスライムッスね!)」

「なによりも……スライムは鳴きません(・・・・・)

「……キュ、キューン(……あ、そこはミスったッス)」

「ふむ、知っておったか」

 

 小声ならバレないとでも思ったか? ばっちり聞こえているぞキューン。俺と目が合い、キューンは気まずそうにしている。でも、気まずそうにする必要なんて何一つない。

 俺はキューンを優しく撫でた。俺のその態度に、キューンは驚いたような震え方をした。

 最近、震え方の違いで分かる自分が怖い。


「まぁそんなこんなで、キューンは大事な仲間だということが一番大事だと思っています。言いたくないことや隠し事の一つや二つ、大したことじゃありません。一億だか十億だか知りませんが、いくら詰まれたところで仲間を売る気はありません」

「……すまんかった。儂が軽率じゃったようじゃ」

「いえ、親方がそういう人じゃないことは分かっています。ですが、キューンを利用しようと考える悪いやつもいる。そういう話です」

「キュン……(ボス……)」

「まぁそういうことだから、キューンも言いたくなったら話してくれるかな? もちろん話さないでもいいから」

「……キューン! キュンキューン?(……僕はスライムッス! 勘違いじゃないッスか?)」

「うん、言いたくないならそういうことでいいよ。キューンはスライム、特に問題なし。……すみませんね親方」


 親方は俺たちの姿を見て、嬉しそうに笑っていた。


「構わん構わん。お主たちの関係は、金よりも貴重なもんじゃ。こちらでも情報は漏らさんように気をつけよう。ではスライムゼリー?は受け取っておく。今日の用件はそれだけか?」

「はい、それではこれで失礼します」

「んん……? キューンは結局スライムで、勘違いだったってこと?」

「キュン……キューン!(姐さん……そういうことッス!)」


 セトトルだけが混乱しているが、まぁいいだろう。

 俺は二人を連れ、工房を後にした。


 あの瞬間、少しだけ考えてしまった。

 ……もちろん、キューンを売ることではない。キューンで儲けることをだ!

 キューンのゼリーを利用して、ワックスみたいにしたら売れないかな? お掃除用品的なあれで、案外儲かる気がするんだが……。


「……ボス、何か悪いこと考えてる?」

「か、考えてないよ?」

「キューン(やれやれッス)」


 しがない倉庫の管理人の考えなんて、たかが知れてる。薬品が作れるわけでもない。

 まぁ焦ることなく、ぼちぼち考えてやっていくしかないね。


 元の世界にはスライムなんていなかったし、スライムじゃなくてスライムのような生物が仲間にいたとしても、大差ない。

 何よりも、こんな面白不思議生命体と一緒にいれることの方が貴重だと、俺は思った。

 ……でもキューンって本当に何者なんだろう?

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