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三十六個目

 朝、扉を激しく叩く音で目を覚ます。

 なんだ!? また強盗か!? 強盗って音立てたっけ!? 俺は寝ぼけながらも慌ててベッドから出て、親方にもらったショートソードを手に持った。

 いや、そうじゃない。まずは眼鏡を……、セトトルとキューンが先じゃないか!?

 完全にテンパっていた俺があたふたとしていると、怒声に近い大声が聞こえてくる。


「おい! 朝だぞ! 開けろナガレ!」


 ……聞いたことある声。昨日一緒に酒を飲み交わしたあの人の声だ。

 確認するまでもなく、間違いなくその声はダグザムさんの声だった。

 その大声で、セトトルとキューンも飛び起きる。


「なに!? なんの音!? ボ、ボス!? いない! えっとえっと……、私どうしたらいいか分からないよぉ」

「キュン!? キュンキュン!? キューンキュンキュン!?(何ッスか!? 戦争ッスか!? まずは落ち着いて退路を確保するッス!?)」


 二人も完全にテンパっていた。セトトルなんて、私と言い出すくらいテンパっている。

 キューンは、そう……。こいつは何者なんだろう。退路を確保って普通最初に出て来ないだろう。

 とりあえず俺は慌てている二人を宥め、一緒に一階へと降りた。

 そう、時間はまだ6時。朝早くの迷惑な珍客の相手をするためにだった。




 俺が扉を開けると、その人はいた。青いツナギの袖を腰のところで結び、上はTシャツの男性。

 単眼筋肉のダグザムさんが、笑顔で俺たちに挨拶をしてきた。


「おう、起きたか! おはよう!」

「……おはようございます。その、こんな朝早くからどうしたんですか?」

「いや、何か妙に早く目が覚めてな。昨日のこともあんまり覚えてない。……っと、まぁそんなことはいいか。荷物を持ってきたぞ」


 荷物? 何の荷物? 一体彼は何の話をしているのだろう。正直、全くピンときていない。

 寝ぼけながらも考えたのだが……。待てよ? え、もしかして昨日の会議で話してた件? 

 ……いやいや、あれは準備が出来次第って話だったはずだ。それに荷馬車の手配が何とかと、アグドラさんも言っていた。

 それじゃあ一体何の荷物だろう。

 俺が考え込んでいると、ダグザムさんが笑いながら俺の背中を叩いた。だから痛いって。寝起きなこともあり、俺は少しだけだがむっとした。

 だが彼はそんなことを全く気にしないようで、指で自分の後ろを指した。俺がそちらを覗き込むと、そこには荷馬車が三台。どの荷馬車にもたくさんの箱が乗っている。


「持ってきたぞ、昨日の会議で言ってた荷物を」


 あんた何してくれてんだ。俺は心の底からそう思った。

 だが、気持ちを切り替える。俺は眼鏡を中指で押し上げ、気づかれないように小さく深呼吸をした。

 よし、大丈夫だ。俺はダグザムさんに笑顔で話しかけた。


「ダグザムさん、この荷物って準備が出来次第というお話では……」

「早くて困ることはねぇだろ! ってことで、中に入れていいか? おう、お前ら!」

「へい!」


 駄目だこりゃ。全然聞いてくれてないや。俺は諦めて、荷物を受け入れることを考えた。


「いえいえちょっと待ってください、確認したいことがあります。この荷物の預かり期間は全部同じですか?」

「お、やっぱりそこが気になるか。安心しろ、同じ客先の同じ物を集めてきた! 期間も当然同じだ。その方がお互い助かるだろ? とりあえず五十箱持ってきたぞ」

「分かりました。申し訳ないんですが、室内に運び込むのはお任せしてもいいですか? こちらは中で受け入れ準備をしますので」

「おう、悪いな。お前らいいぞ! 運び込め!」

「へい!」


 俺は中に入り、慌てて準備をする。

 そう、慌てて準備をしようと思っていた。だが、それは杞憂だった。


「ボス! 預かり証もマジックペンも用意してあるよ!」

「キューンキューン!(書類関係はボスにお任せするッス!)」


 二人の成長に、一瞬だけど目頭が熱くなる。

 いや、泣いてないよ? 全然泣いてなんていないからね?

 ……でも本当に成長したな、二人とも。


「よし! 荷物は全部同じ期日になっているから、色は同じ色を付け……ちょっと待ってくれるかい?」


 二人は俺の指示が止まったことに、きょとんとしていた。

 そんな二人を残して俺が表に戻ろうとすると、ちょうどダグザムさんが箱を持って入って来た。


「ナガレ! この荷物はどこに置いたらいい?」

「あ、ちょうど良かったです。それは一旦ここに置いてください。それでお聞きしたいことがあるのですが」

「聞きたいこと? なんだ?」

「はい、うちの倉庫では色管理をしています。このマジックペンでやっています」


 ダグザムさんは箱を置くと、近づいて来てペンを見ている。

 そして俺の手からペンをとると、不思議そうな顔をした。


「色管理ってのはなんだ?」

「管理方法の一つです。そのペンで塗ったものは、そのペンの後ろ側で色が消せるんです」

「……なるほど。それを使い、見てすぐ分かるようにしているんですね。いいアイディアだと思います」

「その通りです。それで、箱に色を……」


 あれ? 今答えたのはダグザムさんじゃない?

 俺が横を見ると、いつの間にか入ってきたアトクールさんがいた。昨日のようなピシッとした服装ではなく、白のツナギを着ている。

 いや、問題は服装じゃない。この人は何でここにいるんだろう? こんな朝早くから倉庫見学とかかな?


「なるほどな、それで色を着けたいってことか。構わないぞ! というか、いい方法だな。うちでも使いたいから、後で教えてくれ」

「北倉庫でも導入を検討したいので、ぜひお願いします」

「分かりました。……いえ、そうじゃなくてですね? アトクールさん、一体いつの間にいらっしゃったんですか? 何か緊急のご用事でもありましたでしょうか」


 アトクールさんは、平然と用件を伝えてきた。

 そう、本当に大したことじゃないように言い放ったのだ。


「えぇ、昨日話していた荷物を持って来ました。とりあえず五十箱です。朝早く目が覚めたこともあったのですが、早く届けた方が良いかと思いまして。南倉庫の分が終わるまでは待機させておきますので、安心してください」


 お前もかよ! この二人、仲悪いように見せてすっごい仲良しなんじゃないだろうか。

 ……うぐぐ、だが今は対応するしかない。言って聞くような人たちではない。色の件に関しては了承がとれた、今は早く処理をしていくしかない。

 というか、店の前に何台も荷馬車が止まってるなんて、またご近所様に噂されるに決まっている! 早くしないと!

 俺はセトトルとキューンに指示を出した。ちなみに二人の管理人は、俺のやり方を見たり聞いたりしている。


「なるほど、預かり証や書類にも色と置き場を書いてわかるようにするんですね」

「うちはもっと大雑把にやってるな。だが、リスク管理を考えればこの方法は安価で、すぐにできるから良いんじゃないか?」

「はい、このマジックペンを使う方法は非常に有用だと思っています。もちろん、もっと良い方法を模索することは忘れずに続けるつもりです」


 今、忙しいんです! ちょっと質問は待ってください! そんな一言を伝えられず、俺は律儀に答えながらも必死に業務をこなす。

 今までで一番忙しく、セトトルとキューンも目が回る勢いで作業をこなしている。よく様子を見ておいて、休憩をとらせてあげないといけないな……。そんなことを考えていたときだった。

 扉から、バーンという擬音がつきそうな勢いで、人が入って来る。お願いですから、扉は優しく開けてください……。

 入って来た人が誰かなんて、見なくても何となく想像が出来る。

 でも違っていてくれたらいいなぁ。そんなことを思いながら、俺は扉の方を見た。

 そこにいたのは、想像通りの人。ピンクのツナギを着こなしている、金髪縦ロールの美女。ハーデトリさんだ。


「御機嫌ようナガレさん! 昨日お話しされていた件の荷物を持って参りましたわ! とりあえず五十箱持ってまいりました! 今日は朝早く目が覚めたこともあったのですが、荷物は早い方が良いかと思いつきまして、急ぎ準備させましたの!」


 俺は返事もできず、目線を時計へと向ける。

 時間は朝7時、開店時間の二時間前。

 入口で腰に手を当てているハーデトリさんの方へと、顔を向ける。そんな彼女に俺は、ぐったりとした顔を隠すように深々と頭を下げて告げた。


「おはようございます。東倉庫へようこそ」


 このとき俺はほんの少しだけ、後悔していた。いや、正直に言うと物凄く後悔していた。

 なぜ細かく日時を指定しなかったのか、と……。

借金を増減したときだけ書くように変えてみます。

今後、後書きか活動報告に、収入源などもたまに書いていくつもりです。

よろしくお願い致します。

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