二十九個目
「ただいま……」
「お帰りボス……たくさん人を連れてきてるよ!? お客様かな!?」
はい、そのまさかのお客様……になるかもしれない方々です。
冒険者さんたちも部屋の中に入れ、俺は説明をすることにした。
「まず、これが専用の箱になります。密閉式になっていて、匂いなどが漏れにくくなっています。ですが、そこら辺は冒険者さんの方でも考慮をして頂けると助かります」
「ほうほう……。中になんか敷かれてるな。これで匂いを抑えてるのか?」
「そうですね、これで外に匂いが出にくくなっています。かつ、預かった物が傷つきにくくもなります。衝撃などに強い素材です」
予備の箱を3箱持ってきて、冒険者さんたちに渡す。
各々で色々話をしながら、箱を見たり触ったりしている。うまく行けばいいんだが……。
「料金は?」
「一日100Zです。これは商人組合でも確認した相場の値段です」
「なるほど、だが他よりも良い箱を使っていないか? その分高くなったりはしないのか?」
「特にそういう予定はないので、ご安心ください」
安い、箱も良い、預かってくれるだけでも良い。皆、色々なことを話している。
これは好感触なんではないだろうか? 予想より良い感じがする、これならいきなり10箱分くらい預かってくれって言われちゃったりして……うへへ、先が明るくなってきたぞ。
俺がそんなやらしいことを考えていたら、ヴァーマさんに肩を軽く叩かれた。
いつもそうやって叩いてほしい。この人が背中を叩くときは本当に痛いんだよ。
「じゃあ、預けるぞ。何箱まで預けていいんだ?」
「本当ですか!? ありがとうございます! そうですね……」
「ちょっと待てヴァーマ! 俺も預けるぞ!」
「ふざけないで! 私も預ける!」
「僕が先に店に入りましたよ! 皆さんは後ろに並んでください!」
何だこれは、大変なことになっている。
さっきまで仲良く箱を見ていた冒険者さんたちが、取っ組み合いを始めかねない剣呑な雰囲気になっている。
と、止めないと……。
「みんなストーップ! 喧嘩する人の荷物は預かりません! いいですか!」
セトトルの一言で、皆が静かになる。預かってもらえないのは困るのだろう。とても助かった。
どうにもこういう争いごとな雰囲気は苦手だ。腕っぷしには自信がないもので……。
全員がセトトルに注目する。ちなみに俺もセトトルを見ている。セトトルは俺を見ている。
あれ? 何で困った顔で俺をちらちら見ているんだ? もしかして、こっから後は俺が何とかするの?
いや、ここの管理人なんだから当然だよな。
俺は意を決して、前に進み出た。何か、物凄く睨まれてるんですが。怖い……。
「皆さんの荷物を預かります。ですが、予想より預かってほしいという方が多いようです。ですので、まずは平等に対応をさせて頂きます。お一人様一箱! ……どうでしょうか?」
「箱が残った場合は?」
「……ジャンケンで勝った人のを預かります! 棚や箱の追加の予定もあるので、残りの人は予約をしてもらいます! 出来次第、予約順に預かっていきます! ということでどうでしょうかね!?」
正直、最後の方は少しやけっぱちだった。いや、こんなの想定してないもの。
冒険者さんたちの目が殺伐としていて怖い。俺、営業じゃなくて良かった。こんな人たちを毎日相手にする営業だったら、泣いてるかもしれない……。
あーだこーだと話し合った結果、35箱分の荷物を預かることとなった。
期間はとりあえず全員一ヶ月とのことで、先払い。今日だけで一ヵ月分の仕事が片付くことになる。
冒険者さんたちは荷物を取ってくると、全員走って出て行った。
いや、走らなくても倉庫は逃げませんよ?
だがこっちも準備があるので、大忙しだった。
肩に乗るセトトルと、俺の足になぜかすりすりしているキューンに仕事の説明をする。
「キューンは箱に一つずつ預かり証を載せてくれ。セトトルは箱と預かり証にマジックペンで色を塗ってくれ!」
「何で色を塗るの?」
「キューンキュン!(一目見て分かるようにするためッスか!)」
「そっか! そうしたら一目見たら分かるから楽になるんだね! オレ頑張って塗るよ!」
俺の説明を奪いやがった。おのれ、キューン。
いや、今はそんな場合じゃない。二人に箱の用意をしてもらい、俺は書類の用意。
えーっと、こことここにサインをしてもらうだろ。35枚用意してっと……。
「ボス! 五色使い切っちゃったらどうするの!?」
「キューン!(困ったッス!)」
えぇい、忙しい。だが今日以降は、こんなにいきなり忙しい日はないはずだ。
今日だけ頑張ればいい!
「使い切ったら、二色使うんだ。まずは赤との組み合わせから使おう。赤と青、赤と緑といった感じで塗るんだ」
「なるほど、了解だよ!」
「キュン、キューン!(姐さん、ペンを渡すッス!)」
よしよしいい感じだ。書類にも色をつけてすぐに分かるようにして……。
そうだ、棚に棚番号も付けてなかった! これは全部箱を棚に納めてからやろう。
A-1、A-2の番号を振ろう。そして上の段からA-1-1、A-1-2。こうすればすぐ分かる。
そして棚に入れた荷物がすぐ分かるように、棚位置も書類に記載するようにして……。
色々と考えていたら、扉がバンッ!と開かれる。
「ボス! 荷物持ってきたぞ!」
「ヴァーマさん、扉は静かに開けてください。壊れたら困るんで。後、そこの赤い線が引いてある箱に荷物を入れて下さい。それから箱の上にある同じ色の塗ってある預かり証を持って、自分のいるカウンターに来てください」
「お、おう……。おい、おチビちゃん。何かボスが妙に早口になっていないか?」
「あわわわ、えっとこっちはこの色で……間違えた! 色を消さないと!」
「キューン!(次はこの箱ッス!)」
ヴァーマさんは二人の慌ただしさを見て、面白そうに笑っていた。
荷物を仕舞い、赤の線が入った預かり証を持ってカウンターに来る。俺はすかさず書類とペンを差し出した。
「ボス良かったじゃねぇか。この調子でうまくいくといいな。俺らもその方が助かるからな!」
「はい、頑張ります! ヴァーマさんが冒険者の人たちを連れて来てくれたおかげです。ありがとうございます」
「気にするな、じゃあここにサインか? っとここもか」
俺はヴァーマさんの書いてくれた書類を確認し、自分でも預かりましたという風にサインを入れた。
預かり証も受け渡し、これで一応完了だ。
預かり証は大きすぎず小さすぎずが良いと思い、手のひらサイズの物にした。
親方たちの案でそうしたのだが、個人的にはメダルくらいのサイズが良かったと思う。今後そこら辺も検討したい。
「色塗り終わったよ! オレは次どうするの!?」
「セトトルは深呼吸をしようか。俺もちょっと慌ててしまっていたからね。一緒にしよう」
俺とセトトルとキューンは、仲良く深呼吸をする。
……スライムって深呼吸できるの!? 何かちょっとだけ膨らんだり萎んだりしてるよ? ゲームでは雑魚敵って感じだったが、スライムってこんなに不思議なものだったのか……。
「よし、落ち着いたね。それじゃあセトトルはこの処理が終わった赤い箱を棚に納めてください。キューンは棚に入れる前に、色とかが間違ってないかもう一度確認をしてください」
「分かったよ!」
「キューン!(了解ッス!)」
やっぱりダブルチェックは大事だよね。全部仕舞い終った後にもう一度俺が確認するから、トリプルチェックになるのか。
最初は仕方ない。落ち着いてきたら、ダブルチェックだけで良いだろう。
そして次から次へと来る冒険者さん。
俺は箱へ荷物を入れるのを手伝ったり、書類を書いたり。
セトトルは箱や預かり証に色を塗ったり、棚に荷物を運んだり。
キューンはカウンターに箱を持って来てくれたり、ダブルチェックをしたり。
本当に大忙しだった。うまくいかないことも色々あり、説明を何度もした。
でもやっと倉庫業務を始められた、そんな充実感が俺たちにはあった。




