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十八個目

「こちらがドワーフの工房になります」


 カーマシルさんに案内され、ドーム型の建物に到着する。

 屋根の上からはもくもくと煙が出ているのが見える、職人がいそうな雰囲気がすごい。


 広い入口からは中が覗き込めた。中はでかい鍛冶場みたいなのや、たくさんの物が置いてある。

 これなら棚くらい簡単に作れそうだ。


「では、入ってみましょうか」

「はい、お願いします。お邪魔します! ほら、セトトルも」

「お、お邪魔します!」


 俺とセトトルは一応入るときに挨拶をし、カーマシルさんに続いて中を歩いて行く。正直、よく分からない物がたくさんあり面白い。

 中で作業をしている、小さくヒゲの立派なおじいさんたちがドワーフだろう。こちらをじろじろと見ているが、声を掛けていいものか悩んでしまう。

 カーマシルさんもどんどん進んでしまうため、取りあえずは大人しく付いて行くことにした。


「ここら辺が棚などになりますね。一応親方を呼んできます」


 案内された場所を見ると、たくさんの棚が置いてあった。

 洒落た感じのアンティーク染みた物もあれば、実用性を求めた形の物もある。

 俺の探している一般的な棚以外にも、タンスや椅子に机もある。

 ただ、そこにあるのは木製品が主だった。出来れば鉄製品がいいんだが……。

 

 ほとんどが木製品であり、一応横から押してみたりもして試したのだが、グラグラとしている。

 棚板も耐久性に若干の不安がある。安い家庭用の棚といった括りなのかもしれない。木をガンガン伐採しているのだとしたら、今後どうなるかは分からないが、現在は木製品が主流なのだろう。

 困りつつ見て歩くと、布を被せて見えなくしている物があった。

 大きさは棚だと思うのだが、何か隠す理由があるのだろうか?

 勝手にとるわけにも行かないので、他を見ようとすると、周りをうろうろとしていたセトトルが近くの棚にぶつかってふらふらとしていた。


「セトトル大丈夫? ……あ」


 セトトルはそのまま涙目でふらふらと飛んだ後、被せてあった布を掴んで引っ張ってしまった。

 当然のように布が外れ、全容が明らかになる。何てお約束な……。


「痛いよボス……」

「大丈夫? 気を付けて飛ばないとね」

「オレは気を付けてたよ! 棚がいけないんだ!」


 何だかよく分からない言い訳をセトトルはしていたが、とりあえず置いておこう。

 勝手にとってしまった布を被せ直そうとし、布が外れた製品を見る。

 鉄製品の棚だ……。

 布を掛け直さないといけないのだが、都合が良いためまじまじと見てしまう。

 四本の支柱には、上から下までいくつもの穴が開いている。押してみると、あまり揺れずにしっかりとした作りだった。

 

「なんじゃ! 布をかけてあったはずなのに勝手に外しおって!」


 突然怒鳴られ、ビクリとする。

 後ろを見ると、カーマシルさんと一緒に白い立派なヒゲの小さいおじいさんがいた。この人が親方かな?

 とりあえず謝ろうとしたのだが、それよりも早く怒鳴りつけられる。


「どうせ鉄製品の棚なんぞ高いだけで使い道もない! 柱に穴が開いている不良品だと文句ばかり言って話を聞く気もないのじゃろ! 勝手に見て文句ばっかり一丁前じゃ! 何が倉庫管理じゃ!」

「親方、その辺で……」


 カーマシルさんが止めようとしたが、さらに親方はヒートアップしていく。


「お前らは木製の棚があればそれでええんじゃろ! ならその辺のを適当に見繕って買っていけ! 技術の発展も分からぬ愚か者にはそれがお似合いじゃ!」

「勝手に布をとってしまい申し訳ありませんでした。……それで一つお聞きしたいのですが」

「まだ謝れるだけマシか! で、何が聞きたいんじゃ! 棚への苦情なら受け付けんぞ!」

「……これ、組立式の棚ですよね? 棚板の高さが変えられるタイプの。かなり頑丈そうで作りもしっかりしていますね」


 さっきから怒鳴り散らしていた親方が、ピタリと静かになった。

 そして俺のことをじっと見出した。

 品定めをされるかのように見られたのだが、俺には何も言わずにカーマシルさんへと親方は振り向いた。


「おい、副会長。こいつは誰だ」

「彼は新しく東倉庫の管理人になった者でして、ナガレさんと言います。通称ボスです」


 ボスの説明は入りませんよね!? 余計なくらいですよね!? 何でそこを説明に入れたんですか!

 だが副会長に文句を言えるほど図太い神経を俺はしていない。グッと我慢する。


「ボスはオレの新しいボスだよ! これから東倉庫をすっごい倉庫にするすごいボスだよ!」

「俺そんなこと言ってないよね!?」


 セトトルの過大評価についツッコんでしまった。

 親方とカーマシルさんは何故かにやにやと笑っている。漫才コンビだとでも思われたのだろうか……。

 だが親方は顔つきを真剣なものに戻すと、俺へと聞いてきた。


「で、ボス。お前この棚が何で組立式で棚板の高さを変えられると分かった」

「え、はい。まずこの支柱の穴ですね。これを利用して棚板の高さを変えられるようにしてあります。それに伴って支柱と棚板を見ると、その穴をうまく利用して作られているのが分かります。つまり、いくつかに分けて運べる。組み立てが楽にできる。そういう革新的な作りです」

「ほうほう……。何か気になることはあるか」


 何だろう、何か試されている気がする。とはいえ、このまま思ったことを言うことしかできない。

 職人気質の人は、怒ると怖いイメージがあるので怒らないといいが……。


「そうですね。乗ってもいいでしょうか?」

「乗る? 構わんが……」

「セトトル、棚を支えておいてくれるかい?」

「オ、オレこんなの持ちあげられないよ!?」

「いや、持たなくていいんだ。倒れないように支えておいてほしいんだ」

「倒れてないよ?」


 俺はいいからいいからとセトトルを説得し、棚を支えてもらった。

 よし、これで心配はなくなった。

 棚の天板へと手を掛ける。楽に届くことから考えて、棚の高さは2mほどといったところだろう。

 俺はそのまま、端の方の棚板に足をかけて登った。

 うん、耐久度は問題なさそうだ。そのまま2段目3段目4段目と登り、天板の上に乗る。

 しっかりした良い作りだ。俺の体重を考えても、耐荷重100kgほどはあるだろう。

 俺は天板の上を、今度は真ん中の方へと移動した。そして棚板に足をかけて降りる。

 上から二段目の段に足を掛けたとき、棚がバランスを崩し後ろへと倒れようとする。


「ボス! 危ない!」

「セトトル! 棚を支えるんだ!」


 俺は棚を蹴り、そのまま地面に着地する。棚は……斜めの状態で止まっている。ちゃんとセトトルが止めてくれたようだ。

 棚を真っ直ぐに直し、乗らなかった棚板にも乗ってみる。

 特に歪んだりもせず、問題は無かった。よしよし、これはかなり良い。

 俺が振り向くと、セトトルが怒り顔になっていた。


「何考えてるのさボス! 一歩間違えば怪我してたんだよ!」

「あ、うん。でも倒れるかなとは思っていたから」

「でも棚が倒れたらボスは下敷きだったんだよ!」

「それはないよ。セトトルがいたからね」


 セトトルは誉められて嬉しいような、心配してたのにこれでいいのかと困った顔をしていた。

 棚に登るなんてよくやってたから気にしていなかったが、良くなかったのかもしれない。これからは自重しよう。

 そう思っていると、親方が俺の足を叩いている。……やばい、登ったことで怒られるか!?


「耐久性を確かめたわけか。なるほど、良い着眼点じゃ。それでどうじゃ?」

「はい。まるで問題はありませんでした。すごく良い棚です」


 親方は嬉しそうに頷いていた。怒られなくて良かった……。

 俺がほっと安心していると、今度はカーマシルさんに声を掛けられた。こっちに怒られる可能性もあった!


「ナガレさん、私も質問をしても良いですか?」

「はい? 何でしょうか」

「組立式と言っていましたよね? 出来た状態で運んだ方が楽だと思うのですが、どう違うのでしょうか?」

「そうですね、利点は持ち運びが楽なことです」

「持ち運び……」

「はい。例えばすでに出来上がってしまっているものだと、通れない場所がありますよね? 組立式の場合は、柱さえ通ればどこにでも持ちこんで組立てられるんです。狭い場所などでも問題がありません」

「なるほど……地下などに運ぶときでも、通れないなどの可能性が減るんですね」


 カーマシルさんは納得したように、手帳に何か書きこんでいた。

 副会長ともなると勤勉な人なんだろう。でも変化についていけるその姿勢はすごい。大抵の人は受け入れられないものだ。


「で、どうする? ボスはこの棚を買うのか?」

「はい、頂きたいと思います」


 そういうと、親方は少し難しそうな顔をした。何か問題点があるのだろうか。


「ふむ、よく分かっている人が買ってくれるのはありがたいのだがな……。そこそこ値段はするぞ? 試験的に作って完成させたものだからな」


 なるほど、それは当然しょうがないだろう。だが、このタイプは必ず主流になる。先行投資と考えれば、悪い買い物ではない。


「いくらほどでしょうか?」

「そうじゃな……。3万Zといったところか」

「まけてください」


 俺は即座に値切り交渉に入った。そこまで高いとは思わないが、借金のある身としてはなるべく安く済ませたい。

 親方は考え込んでいる。そして出した答えがこれだった。


「むむむ……。すまん、これ以上は安くできん!」

「……では、こういうのはどうでしょうか。この棚は3万Zで買い取ります」


 俺は眼鏡をくいっと中指で押し上げる。ちなみにこれはただの癖だ。

 だが、交渉のやる気は十分。絶対に値切ってみせる!


「ふむ?」

「後三つ同じ棚を注文させて頂きます。そちらを安くしてください。一度作った物ですから、当然かかる費用も安くなりますよね? ……どうですかね?」

「お主、中々商売上手じゃな……。確かに、同じ物を作るのであれば……少し待て」


 そう言い残し、親方は奥へと走って行った。

 うまく値切れると良いんだが……。

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