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百五十九個目

 ……おかしい。混乱しているのかもしれないが、セトトルからなんの返答もない。不思議に思い俺が顔を上げると、バチンと両方の頬が叩かれた。痛さよりも、その行動に驚く。え? 俺叩かれた?


「あれ? 夢じゃない? おかしいなぁ……ボス(・・)が変なことを言うから、夢だと思ったら……え!? ってことはオレ、本当に大きくなってるの!? なにこれ!?」

「セトトル……? 俺のことが、分かるのかい?」

「そんなことよりボス! オレ大きくなってるよ!? すごい! でも、もうボスの頭や肩に乗れないよ!」

「は……ははっ」


 俺の目から、ずっと我慢していたものが流れ出す。押さえることも、止めることも、拭うこともできない。逆らうこともなく、俺は涙を流した。

 そんな俺を見て、セトトルは慌てる。急に泣き出したのだ、当然のことだろう。だが、この場で泣いていないのはセトトルだけだった。それに気づき、彼女はさらに慌てる。


「え? え? なんでみんな泣いてるの? うぅ……オレ、困っちゃうよ!」

「ははっははははっ」

「ボスも笑いながら泣かないでよ! オレどうすればいいの!?」


 どうやら、絆とか愛とか奇跡とかいうものはあったらしい。それを俺は今、目にしていた。神様には感謝してもし足りないところだ。一番大切な物を失わないで済んだのだから。

 俺が泣いたり笑ったりしていると、セトトルがふっと何かに気付く。そして二本の指でそれを摘まみながら目を丸くした。


「指輪? これオレのじゃないよね?」

「あぁそれは……俺がセトトルに送ったものだよ。ほら」


 胸元から小さな箱を出し、同じ指輪を見せる。俺は特になにも感じておらず、ただ説明のために見せたつもりだった。もう一度言うが、全くもって深い意味はない。

 だが、泣きじゃくっていた室内の人たちは全員静かになった。


「ボ……ボスとお揃いの指輪!? つまり、オレが本命だったってこと!? 指輪……えへへ」

「え? いや、ちょっと待って? 確かにお揃いの指輪だけど」

「ボス! どういうこと!? セトトルが本命だったの!?」

「私も聞きたいですわ! しっかり説明してくださいませ!」

「私も、聞きたい……です」

「み、みなさん落ち着きませんか? まずは事情をですね」


 俺は説明をしようとしたのだが、誰一人聞いてくれない。セトトルは指輪を見てにやにやと笑い、三人は俺へ詰め寄り、他の人はやれやれと両手を上げていた。

 助けてくれる人もおらず、困った俺がとった行動は……キューンを抱えて逃げることだ!


「ボス! 逃げる気!?」

「お待ちになってくださいませ!」

「逃げるのは……駄目です!」

「すみません、勘弁してください!」

「えへへ……」


 俺はその後、感動も全て忘れ、キューンを叩いてドラゴンへ変身させ、空を飛んで逃げ出すこととなった。

 ちなみに少し時間が経った後、急旋回したキューンに無理矢理町へ戻らされて、俺は正座させられた。己、キューン……!



 後日、キューンと親方から話を聞いた。


「ふーむ……倉庫で魔石を預かっておったな?」

「預かっていました。当然箱に入っていましたが……」

「恐らくそれじゃろうな。神石も影響したじゃろう。後思い当たるのは、あの倉庫は竜の加護がついており、魔力に満ちておる。倉庫全体にキューンの体が残っておるからな」

「掃除が、そんな効果を……」

「まぁ細かいことはいいッス。それが万全だったとも思えないッスから、奇跡が起こったッスよ」

「まぁそういうことじゃな!」

「軽いですね……」


 まぁそういうことらしい。キューンの加護がある東倉庫内で、フーさんが風を起こしていたので、奇跡的に混ざり合っていたのだろう、と。つまり奇跡だ。配合率とかもなにも考えてないからね。

 後は、ガブちゃんと一緒に作ってくれた竜の指輪にも効果があったのだろう。普通には加工ができず、無理矢理成形したらしい。爆発とかしませんよね、これ。




 なにはともあれ、俺たちは元通りの日常を取り戻して一年が過ぎた。

 いや、元通りの日常ではない。……一つだけ、誤算はあったけどね。


「はぁ……」

『ボス、ため息はどうかと思うぞ?』

「いや、だってね?」

「往生際が悪いやつだな」

「二人だって、俺の気持ちも分かるだろ?」

「さっぱり分からん」

『さっぱり分からんな』


 くそぉ、いつもは喧嘩友達みたいなヴァーマとガブちゃんだが、こういうときは気が合うのか。

 ずるくないかな? そう思うのだが、結局この件に関しては全面的に俺が悪く、恵まれているのだから文句を言う資格はないらしい。ひどいこともあったものだ。

 俺がそわそわとしていると、準備が整ったらしくお呼びがかかる。重い腰を上げ、まだ逃げたい気持ちを隠しきれないまま、俺は言われた通りに動き出した。


 煌びやかなステンドグラスは、日の光を受けて様々な光を見せる。こう改めて見たことはなかったので、とても綺麗だと思う。もちろん、こんな状況でなければ、だ。

 落ち着かない俺を見て、一番高いところにいるキューンが震える。俺からすると、キューンがそこにいることが一番不思議なんだけど……。

 まぁ、なにを言っても無駄なのだろう。キューンについては、諦めた。


 ギィッと、扉が開かれる音がする。や、やばい。緊張で倒れそうだ。

 いっぱいいっぱいになっていたが、入って来る人を見て、俺の心は華やかなものに変わった。


 しとやかに、ヴェールをかけた青い髪の女性が、美しい白いドレスを着て入って来る。とても綺麗だ。見ているだけで、恍惚としたため息が出てしまいそうになる。

 ……だが、その後ろから同じような服装をした緑色の髪をした女性、金色の髪の女性、金髪縦ロールの女性が続いて入って来る。とても美しいが、四人も並ぶとまた逃げたくなってしまう。綺麗な女性四人が、俺へ向かって歩いて来るのは威圧感があった。

 彼女たちは順々に俺の横へ並ぶ。どうやらもう逃げることもできないし、年貢の納め時らしい。本当に俺なんかと結婚して、この四人は大丈夫なのだろうか……? 後、一夫多妻って流行らないと思います。一夫一妻こそが基本で……異世界で基本を考えても仕方ない、か。


「えー、こほん。では始めるッス」

「お手柔らかに……」

「結婚式にお手柔らかにもなにもないと思うッス」


 まぁキューンの言う通りだ。俺は言い返すこともできず、四人を見る。全員が笑顔で、俺を見ていた。こういうのも……いいの、かな?

 少しだけそう思いつつ四人を見ると、とても嬉しそうだった。


「ボス、オレいい奥さんになれるよう頑張るよ!」

「いや、頑張らないでいいよ?」

「頑張り……ます」

「頑張らないでいいって」

「食事は任せておいて! 頑張るから!」

「それは嬉しいですが、適度に力を抜いて……」

「はぁ……ならナガレは私たちにどうしていてほしいのですかしら?」


 俺はうーんと悩む。四人は、結婚式の最中だというのにじっと俺を見ていた。こ、ここで答えるんですか? どう考えても、他の人も聞いて……くそっ、笑ってやがる。晒し者人生で、一番の晒し者だ。

 ため息をつきたいところだが、それはぐっと我慢する。さすがに失礼だからね。

 

 俺は四人を見回し、やけくそ気味に大声で言った。


「ずっと笑ってくれていれば、それでいいです!」


 俺の答えで四人は笑い、周囲も笑い出した。あー、もう! 笑いたければ笑え! 笑ってくれていれば、それでいいよ! ちくしょう!


「やれやれ、では始めるッスよ?」


 きっと俺は、この先も振り回され続けて生きるのだろう。四人のことは大切だし、恥ずかしい話だが好きだ。ずっと笑っていてほしいと思っている。だから、まぁ……頑張ろう。

 これからも四人が、回りの人が笑顔でいてくれるように。できることを、やっていこう。


 そう覚悟を決め、俺も皆と同じように笑う。

 澄み渡る青空には、祝福するかのように鐘の音が響いていた。




「掃除は終わったかい?」

「ガブ公、そこやってねぇだろ」

『我ではなくヴァーマの担当だ』

「やれやれ、私がやろうかね」

「フレイリスさん、あの書類は?」

「ダリナさん、それは……ここにあります」

「ボス、お客さんが待ってるッスよ?」

「オレが開けるよ! せーの」


「「『「「「「「いらっしゃいませ、東倉庫へようこそ!」」』」」」」」



 終わりッス!

これにて本編完結となります。

最後まで読んでくださりありがとうございます!

22時には各キャラのダイジェストと、一言コメントを全員分書かせていただきました。

後、活動報告も上げさせていただきます。


本当にありがとうございました。

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