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百五十六個目

「はええええええ! こえええええええええ!」


 キューンの背で、ヴァーマの絶叫が響く。ガブちゃんも耳を伏せて尻尾を丸めている。

 俺は慣れたものだが、普通はこういう反応だろう。しかし、ガブちゃんの両親はさすがの反応だった。気楽に欠伸すらしている。


『この程度の高さ、落ちても死にはしない』

『あなた、足が震えていますよ?』


 本当は怖いらしい。肝っ玉母ちゃんは全然平気みたいだけれどね……。

 俺が全員を見回し少しだけ笑みを浮かべていると、完全武装のおやっさんから肩を叩かれた。


「で、ダンジョンはどうやって攻略するんだ」

「……試したいことがあります。それが駄目だったら」

「力押しか」

「そうなりますね」


 にやりと笑うおやっさんの顔が、頼もしいと共に少し怖かった。



 ダンジョンへ到着した俺たちは、足早にダンジョンへ……。


「ウヒョ!? ウヒョー!?!?(ドラゴン!? ドラゴン!?!?)」

「いつもご苦労様。忙しいから説明は今度ね」

「ウヒョヒョ!?(扱い悪い!?)」


 ノイジーウッドへ適当に挨拶をし、俺たちはダンジョンの中へと入った。


 ダンジョンの中は遺跡だ。石造りで、正にTHE・ダンジョンといった作りをしている。こんな状況じゃなければ、少しわくわくしてしまったかもしれない。

 どんどんと地下深くへ進む作りらしく、現在五階層までたどり着いているとのこと。地図も四階まではほぼ完ぺきらしい。


「で、どうする?」

「とりあえず、地図通りにこっちへ進もう」


 俺は地図の通り真っ直ぐ進み、右手へ曲がった。その行動にヴァーマが慌てて声をかける。急いでいるから、説明は後にしたいんだけどな……。

 仕方なく、俺は足を止めた。


「どうかした?」

「いやいや、そっちは行き止まりだ。地図の見方も分からないのか?」

「いや、それでいいんだよ。まずは試したいことがあるって言っただろ?」

「……そうだったか?」


 どうやらキューンの上で絶叫していたため、気づかなかったらしい。頼むよ、親友。

 軽くため息をつきつつも、俺はみんなと行き止まりへと向かった。



 数分歩き、当然のように突き当たる。ここはダンジョンに入ってすぐ曲がっての行き止まりなので、来る人はいないらしい。誰もが一階の行き止まりに興味なんてないのだろう。


「さて、ここで説明をするよ」

「おう」

「ダンジョンの床をぶち抜こうと思う」

「無理だ」


 あっさりと、ヴァーマに否定された。その気持ちは分かるが、もう少し話を聞いてもらいたい。

 俺が批難の目で見ていると、ヴァーマが慌てだした。


「待て待て待て! ちゃんと理由がある! ダンジョンの壁や床は、壊しても抜けない。魔術的な防御があるんだ!」

「おう、ヴァーマの言う通りだ。で、どうする気だボス」

「いや、おやっさん。無理だって言ってやってくださいよ」

「黙ってろ」


 おやっさんに一睨みされると、渋々とヴァーマは黙った。少しだけ悪い気持ちはしたが、時間もないので俺は説明を続けることにする。今は許してもらおう。


「このダンジョンを作ったのは賢者。つまり、人が作ったものです」

「そうなるッスね」

「賢者の書で見ましたが、属性が定まっているはず。ということは、想定していない属性ならいけるのではないかな、と」

『我らダイアウルフ三人の力で無理矢理こじ開けるのか!』

「キューン、頼めるかい?」

『無視か!?』


 俺はやる気満々なガブちゃんをスルーし、キューンを見た。んー、と少し悩んだ後、キューンはぴょんっと全員から離れる。

 そして地面へ向けて、ビームを放った。なんでもありだな。


「おおおおおおおお!?」

「竜属性ってやつか。これでいければ、確かにショートカットできるな」


 ヴァーマは叫び、他の人が淡々と頷く。

 そして床には、綺麗に穴が空いた。もしかしたらと思ったが、まさかの成功だ。


「最初にキューン、次にガブちゃんたち。敵がいたら頼むよ」

『我の出番か!』

「ガブちゃん……力を貸してほしい。お願いだ」

『……心得た。任せておけ』


 どうやら、俺の想いはガブちゃんに伝わったようだ。助けたい気持ちは同じはずであり、それは当然のことだった。

 真剣なガブちゃんの様子は、俺にも頼もしい物だ。頼りにしてるよ。


 ぴょんっとキューンが飛び降り、続いてガブちゃんたち、そしておやっさん、ヴァーマ、俺の順で飛び降りる。下ではボールのように広がったキューンがいて、優しく受け止めてくれた。トランポリンみたいだ。

 周囲を見回すと、二層で俺たちを待ち受けていたのは、真っ暗な中で赤い目を光らせている大量の蜘蛛だった。

 ただの蜘蛛ならばいい。ヴァーマやおやっさんより大きいのだから困る……。


「これは骨が折れそうだな……」

「キューン! 穴を空けて! 地図を見る限り、この下にも行けるはずだ!」

「て、敵はどうするッス?」

「考えてある! 他の人は時間稼ぎを!」


 俺の指示を信じ、各々が動き出す。キューンの側にいることしか俺にはできなかったが、それで良かった。いや、だって全員すごく強い。ぼこぼこと蜘蛛を倒している。紫色の血みたいなものが、少し気持ち悪い。


 そしてキューンが穴を空け終わるころには、蜘蛛たちは逃げ出していた。


「空いたッス」

「よし、降りよう」

『待て、ここに私が残ろう。蜘蛛たちが追って来たら面倒だ』


 ガブちゃんのお父さんは、そう言ってくれたが、俺は首を振った。その必要はない。むしろ、あなたたちがいるから大丈夫です。

 俺がにやりと笑うと、不思議そうな顔をしつつも全員が従ってくれた。信用されているって素晴らしい。


 先ほどと同じように、俺たちは三階へと降りる。今度は大量の黒い犬が待ちかまえていた。すぐに襲い掛かって来て、その素早い動きに手こずるかとも思ったのだが……どうやら、杞憂だったらしい。

 うちの倉庫の面々とおやっさんは、屁ともせずにぶった切っていた。恐ろしい。うちの倉庫、実は世界最強なんじゃ……。


 キューンが次の穴を空け、俺たちは下の階へ降りる準備を整える。おっと、やらないといけないことがあった。


「ガブちゃん、上を塞いでくれるかい?」

『塞いだら戻れなくなるぞ?』

「またガブちゃんが空ければいいじゃないか」

『……そ、それはずるくはないか?』


 ずるくないずるくない。セトトルの記憶を守るためなら、俺は世界を敵に回してもいいよ。

 若干納得がいっていないガブちゃんに天井の穴を塞がせ、俺たちは下へと降りた。

 そんな少しずるいやり方を四層、五層、六層、七層と続けたところで、キューンが止まった。


「……下がないッス」

「移動しないと駄目かな?」

「いや、これは……」

「ここが、終点か」


 おやっさんの言葉に、キューンがぷるぷると震えた。どうやら、俺たちは最終階層へと辿り着いたらしい。天井の穴も塞いだし、後はこの階層を攻略するだけだ。

 俺たちは全員が目を合わせ、頷き。そして進みだした。小さな妖精の記憶を守る、最後の手がかりを手に入れるために。

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