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百四十七個目

 一週間が経ったが、現状に代わりはない。ガブちゃんのご両親はだらだらと入口付近で寝転んで、ガブちゃんを見て微笑んでいる。

 仕事の邪魔にならないようしてくれているので、取り立てて言うことはない。ないのだが……目に入ると気になる! せめて二階でごろごろと寝ていてくれないだろうか? こちらは仕事をしているんだ。

 とは思うのだが、久々に会った息子の成長が嬉しいのだろう。二匹は満面の笑み。あの笑顔を崩したいとは、さすがに思えない。父兄参観だと思って、俺は諦めることにしていた。


『この箱はなんだ? ほう、荷が入っているのか。おいしいものはあるか?』

「いえ、食料品は扱いが難しいですから……」

『武器が多いな。どこかに攻め込むのか?』

「預かっているだけでして、攻め込んだりはしません」

『なんだ、つまらぬ』


 ぐ……ぐわああああああああああ!

 駄目だ! これは駄目だ! たまに声をかけられているだけで、仕事の邪魔になっているわけではない。多少はしょうがないところだ。だが、気が散ってしょうがない!

 ……気が散るということは、仕事の邪魔になっているのではないだろうか? うん、なら言ってもいいな。俺の中でなにかが固まり、気が楽になった。二階へ上がってもらおう。


「すみません、二階に行っていてもらえませんか?」

『二階では息子が見えないだろ』

「……仕事中ですので」

『仕事している姿を見るからこそ、成長が分かり微笑ましいのではないか』


 あぁ、駄目だこれは。曖昧な言い方がいけないのだろう。なにか役割を持ってもらえばどうだろうか? そうすれば、ここで寝転がっているわけにはいかない。

 ではこの二匹になにができるかを考えよう。まず、ガブちゃんと同じように倉庫業務をしてもらうのはどうだろうか? 悪くはないが、うちは人も増えて安定している。新人教育は大変だし、却下だ。

 魔法でなにかしてもらうというのは? 魔法魔法……。そういえば、この二匹はとても強い。その実力を活かしてもらうのも悪くはないかもしれない。

 ふむ、こう考えると色々なことができそうだ。考えながら頷いていると、珍しいお客様がいらっしゃった。


「ボス、タイヘン」

「あれ? オーク? なにかあったのかい?」

「ジバン、ユルイ。サギョウ、トマル。ボス、ドウニカスル」


 オークたちは警備と街道整備を行っていた。このカタコトの言葉から考えるに、大変なことが起きた、ジバンが緩い。作業が止まって困っている。こういうことだろう。

 問題は、ジバンがなにか分からない。ジバン……? ジーパン、ジーバン、ジバーン、ヂバーン、ヂバン……地? 地盤? ジバンが緩い。地盤が緩い。なるほど、そういうことか。

 だが、なぜ俺のとこに来たのだろう? 商人組合へ行けばいいのに、俺のところへ来た理由が分からない。


「どうして俺のところへ来たんだい? 街道整備だし、商人組合とかに行ったほうがいいと思うけど……場所が分からなかった? なら、案内するよ」


 俺はそう伝えたのだが、オークは悩んだ後に首を振った。ゆっくり話したつもりだったのだが、難しかったのかもしれない。もっと気を遣って話してあげなければいけないな。

 ゆっくりと、一つ一つ分かるように説明をし直す。するとオークも理解してくれたようだった。


「長、コマッタラボス、イッタ。ボス、ツタエタ」

「困ったら俺に伝えるよう言われていたのか……」


 普段ならば、商人組合に案内して任せていただろう。しかし、このときは違った。話を理解した瞬間、俺にはあるプランが浮かんでいた。ご両親に良い仕事が見つかった、と。

 ダイアウルフ二匹の街道整備、さらに巡回警備。こんなにおいしい話はない。後は説得するだけだが、ダイアウルフについてはガブちゃんで熟知している。俺は、二匹を見てにやりと笑った。


『どうしたボス、厄介ごとか? 敵対生物なら力を貸そう』

「本当ですか、お父さん!」

『お義父さんではない!』


 相も変わらず同じことを言っているが、俺はスルーした。いい加減このネタに付き合う必要も理由もない。

 さて、うまいこと誘導させてもらおう。オークを待たせ続けるのもあれだし、早く済ませないとね。


「実は困っています」

『ほう』

「偉大なるダイアウルフの力をお借りできないでしょうか?」

『!! 分かっているではないか! 任せておけ! 行くぞ、お前!』

『はいはい、簡単にあなたは騙されますね』


 どうやらお母さんにはバレているようだ。ダイアウルフの扱いは分かっているという言葉は、訂正しよう。ガブちゃんとお父さんの扱いは理解している、にね。

 意気揚々と店を出ようとするお父さんに俺とオークが続こうとすると、お母さんが俺にだけ聞こえるように言った。


『利用しようと言うのでしたら……』

「すみません、利用します。仕事ですし、ご両親が最適です。頼めませんか?」

『……まぁ、そこまで正直に言われたら言い返せません。とりあえずお話しは聞きます』

「ありがとうございます」


 俺がさらっと利用することを認めたので、怒るかもしれないと思っていた。しかし、お母さんは大人なようだ。事情を説明したわけではないが、話は聞いてくれるらしい。

 元々無理強いする気はないし、断られたらダンジョン前の警備でも今度は頼んでみよう。


 商人組合に辿り着き、いつもの会議室へと入る。そこでは大量の書類の中で項垂れているアグドラさんとハーデトリさん、書類をテキパキと分けている副会長がいた。


「お忙しいところすみません、ちょっといいですか?」


 俺が声をかけると、ハーデトリさんは顔を上げてパッと明るい笑顔を見せた。期待に満ち溢れた目をしているが、なにか勘違いをしている気がする。

 ハーデトリさんが次に言った言葉は、やはり勘違いをしている言葉だった。


「ナガレ……困っている私に力を貸しに来てくださいましたのね!」

「違います、すみません。アグドラさん、街道整備の件ですが……」


 捨てられた子犬のような目をしたハーデトリさんは、悲しそうにしながら俺の腕にまとわりついて来た。腕に柔らかい感触が当たるが、俺はそれを無視する。今は仕事の話に集中しよう。

 アグドラさんも顔を上げ、俺へ座るように手で示している。俺は指示された通りに、椅子へ座らせてもらうことにした。


「それで話とは?」

「はい、全員に説明をまずはさせて頂きます。地盤が緩くて街道整備が止まってしまったようです。それで、ダイアウルフのお二人に力を借りたいと思っています。いかがでしょうか?」


 俺が端的に話を告げてご両親を見ると、お父さんはしっぶい顔をしていた。とても嫌そうなのが見て分かる。

 お母さんは任せるといった感じで、特に口を出さない様子。つまり、俺次第というところだ。

 なので、俺はお父さんを説得することにした。


「報酬もご用意させて頂きます。力を貸してもらえませんか?」

『食事か? いや、確かに食事はうまいが……』

「それだけではありません。……棲家に帰るより、息子さんと会える機会が増えますよね」


 眼鏡をクイッと持ち上げ、俺はガブちゃんのお父さんを見た。彼も『むっ』と言いながら話を聞く感じになっている。よしよし、このまま押し切らせてもらおう。

 うまく事を進めるため、俺はどんどんとメリットを提示することにした。


「おいしい食事が食べられます。体も動かせます。息子さんにも会えます。悪いことはありませんよね?」

『悪くはないが……』


 もう一押しと言った感じだ。実際は、やりたくもない仕事をやるというデメリットがある。しかし、そんなことは仕事をする以上ついて回ることだ。説明はあえて省かせてもらおう。

 決して悪意があり省くわけではない。仕方なく省いたのだ。仕方なくね。


「なによりも……」

『なんだ? まだなにかあるのか?』

「息子さんが、働いているお父さんを見て尊敬するかもしれませんよ? やっぱり父上は偉大な人だった、と。道を作って町を守ってしまうのですからね」

『すぐ取り掛かろうではないか』

「ありがとうございます」


 説得が終わり、アグドラさんに手配をしてもらってお二人には仕事をしてもらうことになる。ちなみにお母さんは『うまいことやりましたね』と言っていた。もしかしたら、お母さんを説得するだけで良かったのではないだろうか?

 少しだけそう思ったが、結果オーライと言ったところだろう。

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