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百四十三個目

 俺はただ俯き、場は静寂に包まれ、ただピリピリとした空気に満ちている。

 そんな静寂を破ったのは、ハーデトリさんだった。


「ですわよね! そうだと思っていましたわ! このまま二人が仰ってくれなかったら、私もどことなくもやもやとしてしまっていましたわ!」

「え……ハーデトリ、あなた……」

「勝負は、正々堂々つけるものですわ。もちろん、私が勝ちますけれどもね!」

「ハーデトリさん……わ、私も負けません!」


 四つある最後の椅子に、フーさんが座った。俺の左から順に、フーさん、ハーデトリさん、ウルマーさんが座っている。三人はなぜか殺伐とすることもなく、和気藹々としていた。

 むしろ意気投合している節がある。俺がいなかったら、楽しいガールズトークを繰り広げているようにしか見えないだろう。


「これで選ばれない人がいても、恨みっこ無しですわ!」

「そうね! 私もすっきりした! 後はボスに決めてもらいましょう!」

「はい……わ、私もそれでいいです!」


 何がいいのか、全く分からない。だが、いいらしい。なんか丸く収まったし、この辺で解散とかにならないだろうか? ……ならないよね、うん。

 歌姫・鬼姫・シルフ。三者三様に告白をされた。恵まれていると言えば、恵まれている。羨ましがる男が多いのではないだろうか? もし身近にいたら、ぜひ変わって頂きたい。失礼ながら、俺の手におえる問題ではない。


「それで、ボスはどういたしますの?」

「さっきから黙っているけれど、ボスがなにか言ってくれないと……も、もしかして好きな人が他にいるとか?」

「そ、そうなったらどうなるんですか……?」

「諦めないけどね」

「諦めませんわ」

「……はい!」


 俺は置物だ。石となればいい。なにも答えるな。下を向け。話を聞くな。大丈夫だ。全て夢に違いない。そもそも、俺がもてる理由があっただろうか? ……無い! 絶対に無い!

 誤解を招いたつもりもないし、他の人と勘違いをしているのではないだろうか? そうだよ、きっと全部これも誤解なんだよ。俺が貴族の顔に扉を当てたのと同じで、悪気はないことだ。


「……ボス、固まっていないで答えてほしいんだけれど」

「わ、私たちは……ボスの意思を尊重します」

「えぇ、まずは思っていることを教えてくださいませ」


 俺は変わらず動かない。いや、正しくは動けない。さっきから真っ白な頭の中で思いつくことは、この状況が間違いだと思うことだけだった。

 ……しかし、そうもいくわけがない。横にいたウルマーさんが、そっと俺の肩を揺さぶった。


「ボス? 大丈夫? ……って、顔が真っ赤じゃない!?」

「え? いえ、あの……」

「ね、熱かしら?」

「く、薬を……とってきます!」


 俺の顔は真っ赤だった。薄々気づいていたよ。だって物凄く頬が熱かったからね。

 そりゃこんな美女やら美少女に告白されたんだよ!? 誰だってこうなるだろう! 答えを出せって、答えなんて出せるわけがないじゃないか! こんな状況、想定したことは一度もない! 対応できるはずがない!

 頭の中が真っ白なまま、俺はバンッと立ち上がった。そんな俺を見て、三人はおろおろとしている。慌てているのはこっちのほうです!


「俺は……」

「ボス、落ち着いてくださいますか? とりあえず横になったほうが……」

「友達が! いませんでした! 初めての友達がヴァーマです!」

「え、あの……ボス?」

「女性と付き合ったこともありません! というか、恋愛とかそういうことは分かりません! 友達もいなかったんですよ!? 分かるわけないじゃないですか!」

「ボス……大丈夫、私もキューンしか……」

「好き? 愛してる? 婚約? 結婚? 分かるわけないでしょう! こんな綺麗な人たちに告白されて、なにを言えっていうんですか! 罰ゲームで言わされているんですか!?」


 俺は真っ白なまま、思ったことをただ打ち明けていた。もう止まらない。完全に限界だった気持ちが、全て吐き出されていく。

 この後のことなんて、何も考えられない。そんな冷静さがあれば、こんなことにはなっていない。だから言い続けた。


「好きって……なんですか! ウルマーさん!」

「は、はい!」

「俺のどこが好きですか!」

「え? えっと……真面目で優しいところ?」

「真面目にやってきましたからね! ありがとうございます! ハーデトリさん!」

「はい!」

「あなたはどこが好きなんですか!」

「あの、仕事ができて、人に気を遣えて、自分に足りなかった部分へ惹かれて……」

「頑張っていて良かったです! ありがとうございます! フーさん!」

「ひゃい!」

「どこが、好きなの!」

「えっとえっと……ずっと、一緒にいてくれて、私に居場所をくれたから……です」

「フーさんの居場所ができて嬉しいよ! ありがとう!」


 俺はそこまで言い……座った。少しだけ、冷静になれた気がする。それにしても、俺はなにをやっているんだ。告白をしてくれた人たちに怒鳴りつけて、恥ずかしすぎる。もう本当……穴を掘って埋まりたい。

 しかし多少の冷静さを取り戻したからといって、どうすればいいんだ……。

 結局なにも解決していないので、真っ赤になりながら俺は頭を抱える。そんな俺に対し、しずしずとウルマーさんが手をあげた。


「あの、ボス?」

「なんでしょうか……? 今、自己嫌悪中ですので簡単にお願いします」

「う、うん。その……女性と付き合ったことがないの?」

「ありません」

「そっか。ふーん、そっかぁ」


 三人は、なぜか嬉しそうに笑っていた。俺は辱めを受けている気分でしかない。自分で言ったこととはいえ、改めて聞かれると恥ずかしいのはしょうがないだろう。

 友達もいなければ、当然女性とそういう関係になったこともない。それがなぜ嬉しそうなのか分からなかった。普通に歳を考えれば「こいつ大丈夫だろうか?」 そう思うだろう……。


「私からも、聞いてもよろしくて?」

「どうぞ」

「告白をされたことなどは?」

「されました。今、三人から。他はありません」

「まぁ、そうでしたのね。意外でしたわ」


 意外ってなんですか! 俺が何人も女性を弄べるような人間に見えていたんですか!? 友達もいなかったのに!? できるわけないでしょう!

 それとも、告白されていそうでしたか!? すみませんね! 無いんです!


「じゃ、じゃあ私からも……いい、ですか?」

「何でも聞いてくれていいよ……」

「女の人が、嫌いですか?」

「大好きです。……え? この質問必要だった?」


 なぜか三人は、ほっとした顔で頷いていた。口々に言うことが「良かった。そっちじゃなかったわね」「いつもヴァーマといましたから……」「良かった……良かったです」と、きたものだ。

 正直、これに関しては非常に不快だと言わざる得ない。ホモだと思われていたのだろうか? 俺だって健全な男だ! ウルマーさんの足だって見てしまうし、ハーデトリさんの胸にだって目がいく! フーさんのうなじを注視しまったことがあってもいいだろう!?

 ……俺は冷静さをまた失っている気がした。落ち着け、落ち着くんだ。こんな人間じゃなかっただろ? もう少し、冷静な人間だったはずだ。

 そう言い聞かせていたのだが、次の発言で俺はまた冷静さを失った。


「告白は迷惑でしたかしら?」

「そんなことはないです。こんな綺麗な人たちに告白されて、嫌な人間はいません」

「良かったですわ。では、とりあえず婚約ということでよろしくて?」

「はい、とりあえずは……ちょっと待ってもらえますか? 今、すごく話が飛躍しましたよね?」


 しかし、俺の話はまるで聞いてもらえていなかった。三人は口々に、落ち着いたら結婚。とりあえず婚約。そう言っている。

 おかしい、おかしすぎるだろ。俺は混乱していたが、三人を止めた。


「待ってください。おかしいですよね? 俺は三人のことが好きですよ? でも恋や愛かも分かりません。それなのに、婚約はしませんよね?」

「ボスはでも、そうしないと一生踏ん切りがつかないでしょう?」

「悩み続けて胃に穴が空いて、でも答えが出せませんわ。ですので、とりあえず婚約でよろしいのではなくて?」

「よ、よろしく……お願いします」


 もう俺には乾いた笑いしか出なかった。


 この日、俺はなぜか婚約者を三人迎えることになってしまった。三人の誰かを選び、将来結婚することになるのだろうか……。

 困りつつ東倉庫のみんなを見ると、キューンはぷるぷる揺れていた。よく分からない。ヴァーマは年貢の納め時だと言い、セレネナルさんは面白いことになったと言う。

 ガブちゃんは、おやっさんにもらった肉を食って満腹になっていた。こいつ……。


 そんな中でセトトルだけが、なぜか自分の頬を引っ張ったり、胸を掴んで不思議そうな顔をしていた。

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