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外伝10 ヴァーマ&セレネナル

 私は宿の一室で、困っていた。

 いや、そこまで困っていたわけではない。でも、どう伝えるか悩んでいたんだよ。

 ヴァーマはいい男だ。そんなことは疑うまでもない。だから、普通に伝えればいい。そんなことは分かっている。

 ……でも、どうしても尻込んでしまっていた。お腹を少しだけ擦り、私は気持ちを落ち着かせる。まぁそんなことで落ち着くわけでもないんだけど……。この子のためにも、ちゃんと伝えないといけないね。

 そんな私の様子を、じっと見ているやつがいた。まぁ、言うまでもなくヴァーマだ。もしかして、気付いてくれたのかね? 私は少しだけ期待したのだが、全然違うことを言ってきた。


「おい、セナル。もしかして腹でも痛いのか? 薬いるか?」

「……はぁ。あんたは、そういうやつだよね」


 私は溜息をつきながらも、心配されたことを喜んでいた。私も単純なものだね。



 東倉庫へ行き、いつも通りに仕事をする。やれやれ、慌ただしいったらありゃしない。体調もそこまで悪くないのだけれど、少しだけ体が重い。

 私がそんなことを思っていると、ボスが近づいてきた。


「セレネナルさん。休憩に入ってもらえますか?」

「うん? どうしたんだい? まだ働き始めたばっかりだよ?」

「いえ、今は少し余裕がありますので、少しずつ休憩に入ってもらおうかと思いまして」


 ボスはにっこりと笑って言っていたが、恐らく私がいつもと少し違うところに気付いていたのだろう。私の周りにいる男は、妙なところで気が利く。

 まぁありがたい話なので、私は甘えさせてもらうことにし、休憩へ行くことにした。


「ふぅ……」

「セレネナルさん、大丈夫ですか?」


 私が二階で休んでいると、後から入って来たダリナが話しかけてきた。そんなに様子が変だったかね? 気付かれているとは思わなかったのだけれど……。

 いや、この子も妙に勘がいいところがある。理由は分からないけれど、体調が悪そうだと気付いたのかもしれない。

 だから私は心配をかけないよう、笑って答えた。


「大丈夫大丈夫。ちょっと体が重かっただけだよ。最近忙しかったからね」

「そうですか……何かあったら言ってくださいね?」


 ダリナはそう言いながら、温かいお茶を差し出してくれた。いやいや、本当にありがたい話だよ。



 仕事も終わり、私とヴァーマはダリナを送り届けた。もちろんそれを口実に、ヴァーマは酒を飲んでいるんだけどね。


「うおおおおおおお! 麗しのウルマー!」

「はい、いつもありがとねー!」


 ウルマーへ声援を送るヴァーマを見て、私は少しだけ不安になった。ヴァーマは私で良かったのかね?

 こいつがウルマーを大好きなことは分かっている。そしてそれが憧れというか、なんかそういうものだというのも分かっているつもりだ。

 でも、やっぱり不安にはなってしまう。はぁ……こういうのは良くないね。

 私がそう思っていると、ヴァーマが立ち上がった。


「よし、帰るか」

「おや? 早いね。まだ飲み足りないんじゃないかい?」

「明日も仕事があるからな。十分だ。おっし、帰るぞ」


 やれやれ、男なんて勝手なものだ。そう思いながら支払いを済ませるヴァーマを待っていると、ウルマーが近づいて来た。

 おや? なにかあったのかね? 私は全然気づいていなかったのだけれど、ウルマーは少しだけ困った顔をしていた。


「ねえ、ヴァーマはどうしたの?」

「どうしたって……どうかしたのかい?」

「いや、だって最近飲んでないじゃない? セレネナルはダイエットだとか言っていたけど、どうしたのかなって……」


 こいつは驚いた。私は自分のことばかり見ていて、全然気付いていなかった。ヴァーマが酒を飲んでいないだって? 一体どうしてそんなことになっているんだい?

 ……少しだけ考えてはみたのだけれど、全然分からなかった。なによりも酒を飲むのが好きな男で、飲むのを控えるように言うほどだったんだけどねぇ……。


「ちょっと分からないね。まぁ、後で聞いてみるよ」

「あ、うん。ごめんね、いきなり聞いて。体調でも崩してるんだとしたら、心配だと思って」

「ありがとね」


 私よりも、よっぽどウルマーのほうがヴァーマのことを見ているじゃないかい。まぁウルマーはどう見てもボスにホの字なのだけれど、なんとなく妬いてしまう。

 はぁ、それにしても……ヴァーマはどうしたんだい? もしかして、私が飲んでいないから合わしているとか? ……ありえるね。

 まぁ、帰ったら聞いてみることにするかい。


 支払いを済ませたヴァーマと合流し、私たちは宿に戻った。

 ヴァーマはいつも通り、ボスの話を延々と私に聞かせている。やれ「あいつはすごいやつだ」「あいつと出会えて人生が変わった」「あいつのためになにをしてやれるだろう」ってね。

 私じゃなかったら、そっちの気があるんじゃないかって疑うところだよ。

 一通りヴァーマの話を聞いたので、私はタイミングを見計らって聞いてみることにした。ウルマーに聞かれていたお酒のことをね。


「ヴァーマ、最近飲んでないらしいじゃないか」

「ん? ……まぁ、うん。そうだな」

「どっか悪くしたのかい?」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」


 ヴァーマはしどろもどろになり、どうにもはっきりとしない。私はそんな姿を見て、少しだけイラッとしてしまった。言いたいことを言うところが好きだったのに、こういう姿はあまり見たくない。全くどうしたって言うんだい。

 ……そんな気持ちもあって、私はヴァーマに少し怒り口調で言ってしまった。


「はっきり言いなよ。そんなに私が信用できないかい?」

「そんなことはないぞ!? いや、そんなことはないんだが……」


 ヴァーマは大きく深呼吸をし、私のことをじっと見た。

 見つめられて、少しだけドキッとしてしまったよ。惚れた弱みってやつかね。それにしても、見るだけ見てなにも言わないんだが、本当にどうしたんだい?


「……なぁ、セナル。俺になにを隠してる? 俺はそれが気になって、酒も飲めん。酒を飲んだら逃げてるみたいでな」

「は……?」


 はっきりと、言われてしまった。

 いや、まさかそこまで気付いているとは思っていなかったよ。多少変だとは思っていても、酒も飲めないほど気にしてくれていたのかい? 私はそれがおかしくて、笑ってしまった。


「くっ……くくっ」

「お、おい。俺は真面目にだな!」

「分かってる、分かってるよ。あんたは本当にいい男だね」


 私がそう言うと、ヴァーマは頭を掻いて照れていた。やれやれ、ちょっと言われたくらいで照れちゃうなんて、可愛いじゃないかい。

 そんなヴァーマを見て、私も覚悟を決めた。はっきり告げようじゃないかい。


「ヴァーマ、大事な話をしていいかい?」

「おう、なんでも言ってくれ。なんかあったのか?」

「うん……ここに、ね。いるんだよ」


 お腹を擦って見せたのだけれど、ヴァーマは首を傾げていた。なんでそういうときは鈍いんだい、この男は……。

 仕方なく私は、もっとはっきりと言った。


「いるんだよ、子供が」

「子供!? こ……子供!? まじか……」


 ……俺の子供かって言わないだけ及第点かね。まぁ言ったとしても、責任とらないとか言わない限りは許してやるつもりだれけど、さてどうなるかね。

 私は少しだけ最悪の場合を覚悟して、気を引き締めた。なーに、大丈夫さ。いざとなれば私一人でも……。


「分かった。ちょっとダンジョンに行ってくる!」

「は? いや、あんたなにを言っているんだい?」

「なにも言うな! 心配するな! かみさんを食わせるのは俺の仕事だ! 子供のためにも、がっつり稼いでくる!」


 いやいや、まさかそこまで話が飛躍するとは思わず、唖然としちゃったよ。

 責任取るとらないじゃなくて、最初から先のことを考えるとはね……。本当にまったく……。

 私の目から、意図せずに涙が流れてしまった。


「お、おい? どうした! 苦しいのか? ま、まさか産まれるのか!? 医者を呼んでくる!」

「落ち着きなって。子供ってのは、そんなポンポン産まれやしないよ」

「そ、そうか? な、ならどうしたらいい?」


 どうしたらいい、か。この子のためにどうしたらいいか。それを私は考えないといけない。冒険者としてお金を稼ぐ、それもいいだろう。でも、冒険者ってのは生死の危険が常に付きまとう。

 私は、この子に父親がいないなんていうのは、嫌だった。


「なぁ、ヴァーマ……冒険者をやめないかい? 私は、この子に幸せになってほしい。父親が死んだなんて、聞かせたくないんだよ」

「よし、分かった! 冒険者はやめよう! となると、仕事だな……とりあえず、冒険者組合に相談するか? いや、商人組合か!?」

「ちょ、私は冒険者を辞めてくれって言ったんだよ? いいのかい?」


 ヴァーマは、私のことを見て笑った。

 いやもう、本当に豪快に笑ったよ。私の不安が一瞬で吹き飛んじゃうくらいにね。


「前はな、冒険者しかないと思っていた。他の仕事なんて、俺にはできないって思ってたからだ。……でも今は違う。俺だって、頑張れば冒険者以外で働ける。それを教えてくれたやつがいるんだ」

「……ボスかい」

「おう、そうだ! あいつはすごいやつだ! 俺もちゃんと働ける! それを教えてくれた! ……そうだ、ボスに相談してみるか! あそこも人手が足りないだろうし、もしかしたら……いや、そこまで甘えるのは良くないか」


 本当にヴァーマは頭を抱えて悩んでくれていた。全く、私はウルマーに嫉妬したりしていたのに、馬鹿みたいだよ。

 ……ボスのところで働く、か。それは案外悪くないかもしれない。私たちも長い付き合いだし、受け入れてくれる可能性が高いかもしれないね。


「とりあえず、ボスに相談してみるかい?」

「そ、そうだな! まずは言ってから考えるか! 駄目でも心配するな! すぐに仕事を見つけてくる! お前も子供も、なにも心配することはない!」


 そんなに必死に言わないでも、分かっているよ。

 私はヴァーマの気持ちを本当に嬉しく思いながら、お腹をもう一度擦った。

次回更新は未定となります。

今後の展開が纏まっていないからなのですが、細かいことは活動報告にでも書かせて頂こうと思います。


よろしくお願いします。

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