表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/175

十四個目

 昼は、セトトルが食べたいものを適当に買ってきてもらった。

 結果、昼は甘いパンばかりを食べることとなった。もう少し台所が片付いたら、自炊も考えた方がいいな。節約になる。

 それにしても、甘いものばっかりだと塩っ気のあるものを食べたくなる。

 だが、セトトルはそんなことはないらしい。嬉しそうに食べていた。

 ……今度からは、しょっぱいのも少し買ってきてもらおう。



 本当は、今日も昼食は外で食べるつもりだった。情報収集にもなるし。

 だが、午前の掃除中に予想外のものが出てきた。それを精査するために、店の中で食事をすることになった。

 もちろん、食事は二階で食べた。ファイルだけ二階に持ち込んだ形だ。


「ボス、食事中に何か見てるのはお行儀が悪いんだよ?」

「うん……うん」


 俺は上の空だった。

 見ていたものは、借用書! 一応言っておくが、俺のではない。オルフェンスさんの借用書だ。

 どうやら見ている限り、借りた金で返す。そしてまた借りて返す。こういう最悪なループを繰り返していたらしい。

 そりゃ借金もどんどん膨れ上がるわけだ。

 ……これは後でまとめて、アグドラさんに渡しておこう。俺よりも彼女の方が使い道を分かっているだろう。

 一通り見終わった後、ふて腐れた顔で頬を膨らませているセトトルと目が合った。

 あれ? 何か怒ってる?


「セトトルどうかした?」

「……さっきからずっと書類見てばっかり! オレとも話をしようよ!」


 ごもっともな意見だった。

 俺はファイルをベッドの上に投げ、セトトルとの食事と会話に集中することにした。非常に悪いことをしてしまった。


「ごめんねセトトル。代わりに何でも聞いていいよ」

「本当に? それならオレずっと気になってたことがあったんだよね」

「ん? 何かな?」

「ボスってどこから来たの? 見たこともない格好をしてるしさ」


 ……いきなり核心を突かれてしまった気持ちだ。

 やばい、何て言おう。

 俺が渋い顔をしながら考え込んでいると、セトトルが慌て出した。


「あっ、ごめんね! 言いたくないことだってあるよね!」

「あぁいや、そういうわけじゃないんだ……。うーん……何て言えばいいのかな」


 別世界から来ました! 何て言ったら、鼻で笑われるんじゃないだろうか。

 よくある答え方で、東の方から来ました。何て言うのはどうだろうか? ……駄目だよな。

 

 考えた結果、俺は正直に言ってみることにした。こういう腹芸は苦手だ。


「いや、実は全然別の世界から来たみたいなんだよね。はっはっは」

「……あははっ、ボス面白いね! 別に言いたくないならいいよ! オレ気にしないよ!」

「いや、その……本当にそうなんだよね」

「……」


 部屋は静寂で包まれた。そりゃそうだよな。

 セトトルはポカーンとしたり、難しい顔をしたり、頭を抱えたり。見ていて面白い。

 次に出た台詞は、少し予想外のものだった。


「うううんんん……。ボスが言うならきっとそうなんだね。でも別の世界から来たなんてすごいね!」

「え……信じてくれたのかい?」

「嘘なの?」

「嘘じゃないけど、信じてもらえないかと思っていたよ」


 セトトルはもう一度、俺のことをじっと見た。

 心の中でも読めるのだろうか。ドキッとした。


「うん、ボスが言うんだから本当だよね! オレ信じてるから大丈夫だよ!」


 こんな突拍子もない話を、笑顔で返されてしまった。

 俺はもう二度とセトトルに嘘はつけないんじゃないだろうか……。その笑顔が眩しすぎる。


「それじゃあ、ボスが魔石を使えなかったのもそれが理由なのかな?」

「魔石? あの洗面所とかの宝石のことかい?」

「うん、そうだよ! あれは魔力を流さないと動かないからね。ボスは別の世界の人だから、魔力がないのかもしれない。つまり、オレがいて良かったってことだね!」


 ぐぅの音も出ません……。セトトルがいなかったら、まともに生活すらできないだろう。本当に良かった。

 それと、俺も薄々気づいていた。恐らくあれは何かしらの力に反応している。

 俺には反応しなかったということは、俺にはその力がないのだろう。

 認証についてもそうだ。

 前にセトトルが言っていた魔紋というのは、魔力の指紋みたいなものだろう。

 多分だが、一人一人の魔力は少し違うのだ。それを読取、認証させる。

 つまり、俺には登録させることも認証させることもできないということだ! ……何てこったい。考えれば考えるほど、セトトルがいないと本当に生きていけないぞ。


 とりあえずそんな談話を楽しみ、午後の仕事に移った。

 午後は荷物の受取が来るはずである。それまでは出来るだけカウンターにいたい。そして試したい物があった。

 それは、昨日買ったマジックペンだ。

 くっくっく、これが俺の予想通りなら、かなり使える物のはずだ。

 俺はまず紙に、赤の一本線を引く。そしてペンを引っ繰り返して線を消す。

 ……消えない。


「セトトル、ちょっとこれ消してくれるかい?」

「後ろ側を使って消すんだよね? 任せて!」


 セトトルがペンを引っ繰り返し、体いっぱいで抱えたペンで、赤い線をなぞるようにする。

 見事に赤い線は消えた。すごい。

 そして一つここでもはっきりとした。俺には魔力はない! 魔法使いたかった……。


 俺は次々にペンを取り替えて線を引く、それをセトトルが消す。

 紙だけでなく、木や鉄っぽい物にも書く。しっかりと書けるし、しっかりと消える。

 

 次は色が混ざってしまうかの実験だった。

 紙に赤と青の点をつけ、指で混ぜ合わせてみる。

 色は混ざった。ということは、しっかり乾かしてでもいない限り、重ね塗りなどはできないということだ。

 ペンに色が残ってしまうから、そうなるとどんどんペンが汚れてしまう。

 ちなみに色が混ざったのを消せるかも試したが、若干黒ずんではいたが消せた。何これすごく便利。


 

 マジックペンのテストも終わり、大満足の結果が出た。

 消したり書いたりが面白かったらしく、セトトルも満足そうにしていた。……おもちゃじゃないからね?


 その後しばらくはカウンター内の掃除をしていた。

 ファイル整理だけで当分掛かりそうだ。

 その時、扉が開かれた。引き渡しのお客様が来たかな?

 だが入ってきたのは、肌の色は緑、頭には小さく角が何本か生えている。さらにごっつい斧を背負い、上半身には鎧を着た大柄の人だった。なぜか下半身はビキニパンツに膝当てだけだ。

 まさかまた強盗!? 俺は警戒を露わにしながら、言葉を待った。いざとなったら、こないだの一件でぐらついている椅子で防御しよう。


「邪魔するぞ。荷物を受け取りに来た」

「……はい、いらっしゃいませ。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ん? 前のうざったいおっさんはいないのか? ……まあいい。俺の名前はヴァーマだ」

「少々お待ちください」


 良かった、強盗じゃなかった。俺は動揺を出さないように気をつけながら、預かり証を確認する。

 記載されている名前には、間違いなくヴァーマと書かれていた。

 俺はセトトルに荷物を倉庫から出すように任せ、その間にサインを書いてもらうことにする。


「ではこちらにサインをお願いできますか?」

「ん? 分かった。……これでいいか?」


 俺は預かり証のサインと、今書かれたサインをしっかりと確認する。

 ……問題は無さそうだ。


「はい、確認がとれました。こちらがお預かりしていた木箱二箱になります」

「おう。ったく、ダンジョンに行くと素材ばっかり溜まりやがるな」


 ……ダンジョン? 聞きなれない言葉を聞いた。

 俺はヴァーマさんの身なりをもう一度確認する。武装しているその姿に、ダンジョンという言葉。

 何か使える気がする。


「すみませんヴァーマさん。少しお聞きしてもいいでしょうか?」

「ん? 何か問題でもあったか?」

「いえ、問題はありませんでした。もし失礼ではなければ、ご職業をお聞きできればと思いまして」


 ヴァーマさんは不思議そうな顔をしていた。見れば分かるだろ、そういった顔だ。

 そして彼はそれを隠すことなく告げて来た。


「見れば分かるだろ、冒険者だ。この近くのダンジョンへ通っている」

「……なるほど、やはりそうでしたか。実は冒険者の方に興味がありまして、お時間があるのでしたらお話をお伺いしたいなと」

「はっはっは、そんなひょろい体でか? よっぽど魔法の腕に自信でもあるのか?」

「いえいえ、自分は冒険者に疎いものでして。もしよろしければ色々と聞ければと思いまして」


 面倒だな。そう言った顔をしていた。きっと、とても素直な人なのだろう。

 こういう人には、好感がもてる。 


「夕食でもご一緒しながらお話を聞ければと思いまして。もちろん、こちらが支払わせて頂きます」

「そうか! ちょっとこの後に用事があってな、夜でも構わんか?」

「はい、もちろんです。では店でお待ちしていますので、用事が済んだら来ていただけますでしょうか? 近くのお店で食事をと思うのですが」

「あぁ、おやっさんの店だな。了解だ、それじゃあ、また後で来る!」


 ヴァーマさんはそう言い残すと、木箱二箱をひょいと抱え上げて去って行った。

 冒険者か。これは何かいい話が聞けるかもしれない。


「ボス! 今日の夕飯はまた外で食べるの!? オレも行っていい!?」

「最初から置いて行く気なんてないよ」


 セトトルを置いて行く気なんて当然なかったが、セトトルの変化が俺には嬉しかった。段々思ったことを正直に言うようになってきた気がする。

 良い傾向だ。


 俺たちはその後も掃除やらをしながらお客様を待ったが、当然来なかった。

 ……当然来ないってなんだ、畜生。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ