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百三十二個目

「ただいま!」

「あれ? またボスが帰ってきた。お帰りなさい?」

「うん、ただいま。今は忙しいかな? そうじゃないなら、四人とも集まってくれるかい」

「んん? 分かったよ! オレは倉庫の中にいるキューンを呼んでくるね!」


 セトトルは俺の顔を見て察してくれたのか、急いで倉庫の中へ呼びに向かってくれた。

 フーさんもメモ帳を出して、ちゃんと話を記録しようとしている。うんうん、みんな昨日休んだからか、やる気十分だ。

 ……ガブちゃんはカウンターの横で、あくびをしてるけどね。これもまぁ、忙しくないときはいつものことだからいいとしよう。


 全員が集合し、俺はまず自己紹介を始めた。


「はい、こちらは王都からお手伝いに来てくれている、ダリナさんです」

「ダリナです。みなさん朝ぶりです。わたしは、商人組合と東倉庫のお手伝いをさせてもらいます。よろしくお願いします」

「よろしくー!」

「キューンキューン……(マヘヴィンじゃなくて良かったッス……)」


 キューンの言葉に、俺は深く頷いた。本当にその通りだ。

 さて、続いてみんなの紹介をさせてもらおうかな。


「では、うちのメンバーも改めて一人一人紹介させてもらいます」

「はい、よろしくお願いします」

「こちらの妖精がセトトル。自分の補佐ですね。俺がいないときは、彼女に相談してください」

「セトトルだよ! えっと、相談に答えられるように頑張るよ!」

「セトトルさんのことを頼りにさせてもらいますね」


 頼りにすると言われてセトトルは照れているのか、頭を抱えてぐにゃぐにゃとしていた。

 その様子は可愛らしかったり面白いので見ていたいが、いつ荷物が来るか分からないのでどんどん紹介していこう。


「こちらがキューン。スライム……? です。うちの掃除隊長ですね」

「キューン。キュン! キュン、キューン!(キューンッス。改めてよろしくッス! 後、紛うことなきスライムッス!)」

「はい、掃除の手順などを教えてくださいね」


 キューンも、胸を張るように少しだけ膨れ上がっていた。

 スライムだということを強調する怪しい生命体だが、それは置いておこう。


「次に、こちらがシルフのフレイリス。通称フーさんです。主にカウンター業務と空調をやってもらっています」

「フ、フレイリス……です。よろしくお願いします」

「……? フレイリスさん、ですか? あの、失礼ですが、もう少し体格の良い方だった覚えがあるのですが……。朝も、少しだけ不思議でした」

「あー……。あれもフーさんです。まぁどっちもフーさんですので、余り気にしないでください」


 ダリナさんは少し不思議そうな顔をしていたが、あまりツッこまれたくないことに気付いてくれたのだろう。笑顔で流してくれた。

 こういう空気を読んでくれるところがとても助かる。落ち着いたらフーさんのことについても、しっかり説明しないといけないね。

 さて、最後は……。


「こちらが運搬隊長のガブリエル。通称ガブちゃんです。荷物運びに関しては、一人で十人分働くすごいやつです」

『ガブリエルだ。ボスの護衛兼運搬任務を受け持っている。よろしく頼む』

「ふふふ、よろしくお願いします」


 ガブちゃんがふんすっと鼻を鳴らす姿が可愛かったのか、ダリナさんは笑っていた。

 最初は生意気そうに思えるが、中々に可愛いやつだからしょうがない。負けて泣いちゃうくらいだからね……。

 だが、ガブちゃんはその後もじろじろとダリナさんを見ていた。何か気にかかることがあったのだろうか?

 そう思っていると、ガブちゃんが口を開いた。


『リザードの一族か?』

「あ、はい。わたしはリザード族です。見れば分かるかと思ったのですが、ちゃんと伝えるべきでしたね。すみません」

『いや、気にするでない』

「ガブちゃん、それは俺の台詞じゃないかな……?」


 台詞をとられて悔しいので、俺はガブちゃんの首元をわしゃわしゃしておいた。続くように、セトトルとキューン、フーさんもわしゃわしゃする。

 この首元が一番楽しいんだよね……。


『ふむ。悪くないぞ。続けるがいい』


 ガブちゃんも気持ちいいらしく、ご満悦だ。ここを撫でられるのが好きだということは、今日までの付き合いでお見通しだよ。

 そんな俺たちを見て、ダリナさんは笑っていた。のだが……不思議な顔に変わり、ガブちゃんを見出す。

 そして少しだけ躊躇いがちに、質問してきた。


「あの……ガブリエルさんは、犬じゃないですよね? 狼ですか……?」

「え! ダリナすごいね! オレは犬だと思ってたのに、狼だって分かるんだ!」

「あ、はい。昔、見たことがある種族に似ていたので……気のせいですね。人と仲良く仕事をするような種族ではないですから」


 どうやらダリナさんが知っている狼は、大分物騒らしい。

 ということは、だ。やはりガブちゃんは狼ではなく犬なのではないだろうか? 全然物騒じゃないし、可愛いしもふもふしている。

 うちはセトトルといい、キューンといい、フーさんといい、ガブちゃんといい。撫でると気持ちいいのが集まっている。あぁ、癒される。たまらないな……。


『ふむ。どのような狼に出会ったのかは分からないが、我のように戦う以外のことにも優れている狼もいるものだ。リザードの娘よ、良い経験をしたな』

「ふふふっ、そうですね。ありがとうございます。ですが、リザードの娘はあれなので、ダリナと呼んでもらえますか?」

『確かに失礼だったな。ダリナ殿と呼ばせて頂こう』


 ガブちゃんは男でも女でも殿と呼ぶ。俺だけはボスと呼び捨てだけどね。

 まぁ、ボスって渾名みたいなものだし、それでいいのかもしれない。……渾名? それとも役職なのだろうか?

 この呼び方にも慣れてきてしまっていて、段々分からなくなっている。俺、大丈夫なのだろうか。


「それでガブリエルさんは、なんという種族なんですか?」

『良く聞いてくれた。狼族の頂点。いや、魔獣の頂点と言ってもいいだろう。ダイアウルフの一族だ』

「……ダイア、ウルフ?」

『うむ』


 笑顔のまま、ダリナさんが固まった。

 キューンを見ても驚かなかった彼女が、完全に固まっている。……だが、彼女はすぐにいつもの調子を取り戻した。


「そうですか、ダイアウルフだったのですね。ガブリエルさんはすごい種族だったのですね」

『ふふん、我が種族の偉大さが分かっているとは、見所があるではないか』

「あはは……ありがとうございます」


 ダリナさんは、少しだけ引き攣った笑顔で答えていた。

 うちの倉庫のメンバーは、やはり異端なのだろう。こういった反応が多い。

 でも、それを見るのも俺の楽しみなことは内緒にしておこう。決して驚かせるために人選したわけではないけどね。

 おっと、和気藹々としていてもしょうがない。俺は改めて今日の話をみんなにした。


「はい、自己紹介はこれくらいにしておこう。実は、今日から王都の荷物が届くことになってしまいました。そして北倉庫で対応仕切れていない分が、東倉庫に来ます。そのつもりで準備をしてください」

「え!? ご、午後からかな? オレたちも準備は一応しているけど、すぐじゃないよね?」

「ごめん、すぐ来るんだよ」

「えええええええええ!」


 セトトルの反応は、至極当然のものだった。

 そりゃそうだよね。明日からと言っていたのに今日になり、今日だっていきなりではないと思っていたのに、今すぐ来るかもしれないんだから……。

 しかし、その後のセトトルの対応は早かった。


「キューン! 入口をもう一度掃除しておいて! いっぱい荷物が来るなら、先に掃除をしておいたほうがいいからね!」

「キューン!(姐さん了解ッス!)」

「フーさんはカウンターの準備を! なるべく早く対応できるように、たくさん用意してくれるかな!」

「分かった……頑張る!」

「ガブちゃんはオレと倉庫内のスペースを、しっかり確保するよ! もうほとんどやってあるけど、もう一回やろうね!」

『了解した』


 おぉ……。セトトルすごい。ばっちり指示を出している。

 うんうん、これなら何も心配はなさそうだ。これから大量に荷物が来ても、事前の準備はばっちりだろう。


「あの、セトトルさん。わたしはどうしたらいいですか?」

「ダリナさんは、フーさんのお手伝いをお願いできるかな!」

「分かりました」


 ダリナさんへの指示まで完璧だ! すごい! ……あれ? セトトルがすごいのはいいけど、俺はどうしたらいいのだろう?

 自分で考えればいいのだけれど、セトトルに聞いてみちゃおうかな? そんなことを考えていると、先にセトトルから話を振られた。


「ボス、これで大丈夫かな?」

「うん、ばっちりだよ。それでセトトル、俺はどうしたら……」

「え? ボス? ボ、ボスは……えっと……自分で考えて! さ、行くよガブちゃん!」


 あ、あれ? もしかして俺、いらない子?

 みんな慌ただしく動いているけど、俺だけ立ち尽くしている。とりあえず、カウンターの用意を手伝おうかな?


「フーさん、俺も準備を手伝おうか?」

「ダリナさん……これ、お願いします」

「はい、分かりました。割符も多目に用意した方がいいですか?」

「はい……お願いします」


 二人はにこにこと、うまく準備を進めている。そう、俺の声なんて聞こえていないくらいにね!

 しょ、しょうがない。倉庫内のセトトルたちを手伝おう。そう思い、今度は倉庫の中へと向かった。


「セトトル? 俺も荷物の移動を手伝うよ」

「ガブちゃん、この十箱を移動してくれるかな? 十箱で一つの仲間だからね!」

『承知した。そちらに崩れぬように積み上げよう』

「積み過ぎないようにね!」


 ……ここも、うまく回っている。余計なことはしない方が良さそうだ。

 となると、俺が手伝えるのは一人だけか。


「キューン、掃除を手伝うよ」

「キュン、キューン?(ボス、忙しいのに僕を手伝うッス?)」

「うん、その……うん。掃除するよ。掃除は大事だからね!」

「……? キューン、キュン!(……? よく分からないけど、助かるッス!)」


 なぜかキューンに喜ばれたことが、とても嬉しかった。

 おかしいなぁ。俺がいなくて現場が回ることは喜ばしいんだけど、なぜか少しだけ切ない気持ちになってしまう。

 俺はそんな気持ちを抱えたまま、荷物が来るまでキューンと掃除を続けた。

次は土曜日に更新できたらいいなぁと思っております。

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