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百三十一個目

 マヘヴィンたちの件もあったので、他にもなにかあったら困ると思い東倉庫へ急いで戻る。

 町の中は普段通りで、取り立てて騒がしくもない。朝らしく非常に爽やかな空気だ。

 ……なのに、俺は走って汗だくになっている。当分はこんな日々が続くのかな? そう考えると、少しだけ滅入ってしまう。

 俺はそんなことを考えつつ、東倉庫へ帰ってきた。さて、なにも起きていなければいいが……。


「ただいま」

「ボス早かったね。おかえりなさい!」


 俺は中をきょろきょろと確認したが、特に変わった様子は見受けられない。

 どうやら、平常運行といった感じだ。

 少しほっとし、俺はジャケットを脱いで上からエプロンを羽織った。うんうん、やっぱりこの格好の方が動きやすいね。

 さて、掃除でもしようかな……。


「ボス! いるか!?」

「ヴァーマ? と、セレネナルさん? おはようございます」

「あぁおはよう。ちょっと北門で厄介ごとが起きていてね。ボスは一緒に来てくれるかい? アトクールに頼まれたんだよ」

「え……」


 倉庫に戻ったばかりなのに、いきなり厄介ごとで呼び出されてしまった。

 前日から忙しいかもと心構えはしていたのだが、朝一からひどい。だが、仕方がない。仕事だからね、頑張ろう。

 俺はそう思い直し、エプロンを外してジャケットを着直した。ついでに、四人の頭を撫でて少しだけ気持ちを落ち着かせる。


「ごめん、ちょっと出てくるね」

「ボス……いってらっしゃい」

『厄介ごとか。我も共に行こうではないか』

「うん、危なくなったら呼ぶね。それじゃあ行ってきます」


 フーさんに笑顔で言われると、少しだけ気分が良くなった。こんなことでやる気が出るのだから、俺も単純なものだ。

 ついて来ようとしていたガブちゃんの首をわしゃわしゃと撫でた後、俺はヴァーマたちと共に北門へと向かった。



 北門に近づけば近づくほど、喧騒が聞こえてくる。一体なにが起きたのだろうか?

 アトクールさんだって、朝からこちらに来ているはずなのに大騒ぎだ。何が有ったのかと、北門へ辿り着いて周囲を見ると、すぐに状況は分かった。


「うわぁ……馬車だらけですね」

「……ボス! いいところに来てくれました! 先ほどまでは、商人組合に連絡をするまででもないと思っていたのですが、どんどん増えてしまっています!」


 アトクールさんは、すでにげっそりとしていた。それはそうだろう。ずらっと北門には馬車が並んでいるのだからね。

 明らかに人手が足りていない。馬車が中に一台入るのだって時間がかかるのに、どこまで並んでいるか分からないほど、ずっと先の方まで並んでいるのだ。


「アトクールさん、自分は何を手伝えばいいですか?」

「……まずは商人組合へ向かって事情の説明を。後は、人手を増やすように連絡してください。ダグザムにも、すぐ来るように伝えてください。ボスが説明をしに行ってくれることが、恐らく一番話が早いです。こちらの人手も出来るだけ割きたくないですからね」

「分かりました! すぐに行ってきます!」

「セナル、冒険者組合に連絡をしてきてくれ。俺は暴動などが起きないように、目を光らせておく」

「分かったよ」


 その場を二人に任せて、俺とセレネナルさんは、町の中央広場へと走って戻った。

 今日から来る可能性はあったのだが、まさか行列になるとは思っていなかった。事前にあれほど明日から来てくださいと、関係各所に連絡をしていたのに……。

 そうだよ。連絡をしていたのだから、帰らせるのはどうだろうか? 明日まで入れません! ……無理だよね。うん、分かっていた。

 そんなことをすれば、逆にあることないことを噂にされてしまい、町の評判が悪くなってしまう可能性もある。

 ここは、どれだけうまく捌けるかが試されるところだ!

 


 商人組合に到着し、俺は会議室にいた会長たちに事情を説明する。


「……ということでして、北門に予想以上に荷物が届いています。急遽人員を増強してください」

「なるほど、分かりました。私も北門へ向かいましょう。こちらは会長とハーデトリさんにお任せします」


 副会長は、すぐに対応をしてくれた。

 他の人も事情を理解し、すぐに人を増やすように指示をしてくれている。今は大変だと思うが、すぐに人が増えて回り出すはずだ。

 さて、そのためにも今度は南倉庫へ急いで行かないといけない。


「では、自分は南倉庫へ向かいます」

「お待ちください」


 俺はすぐに出ようとしていたのだが、ハーデトリさんに止められた。

 なにか他に伝言でもあるのだろうか? 俺が彼女の方を向き直ると、にこにこと笑っている。今は笑っている場合じゃないですよ!


「ボス、顔が引きつっていますの。もっと笑顔でお願いいたしますわ。でないと、他の人たちも焦ってしまいますの。南門への連絡はこちらでしますので、すぐに東倉庫へ戻ってください。事情が分かっている東倉庫に、優先して荷物を流させますわ」


 確かにハーデトリさんの言う通りだ。俺は深呼吸をし、襟元を正した。ついでに、ハーデトリさんにネクタイを直される。ネクタイって自分じゃ曲がっていても気付かないんだよね……。

 うん、大丈夫。落ち着いて行こう。まだ対応できる範囲だ。


「すみません、少しだけ焦っていました。自分は東倉庫へ戻ります。南倉庫への連絡をお願いします。……あれ? そういえば、北門でマヘヴィンを見なかった気が?」

「あぁ、彼はダグザムのところへカーマシルが連れて行った。軽い説明が終わった後、二人で北門へ向かう手筈となっているはずだ」


 アグドラさんの言葉に、俺は納得して頷いた。

 北門にダグザムさんたちが向かってくれるのなら……マヘヴィンは大丈夫だろうか? もちろんマヘヴィンの心配でなく、マヘヴィンがいる状態での仕事への、大丈夫だろうかという意味だ。

 まぁ、そこは俺が気にしてもしょうがない。これから東倉庫へまず荷物を流すというのなら、俺も準備で急がなければならない。

 今度こそ東倉庫へ戻ろうと俺が部屋を出ようとしたら、今度はダリナさんから声を掛けられた。


「待ってくださいナガレさん。アグドラ会長、わたしも東倉庫の手伝いに向かってもよろしいでしょうか?」

「アグドラ会長……良い響きだな」


 アグドラさんは、なぜかうんうんと嬉しそうに頷いていた。いやいや、喜んでいる状況じゃありませんからね!?

 彼女は余韻を楽しんだ後、立ち上がり右手をバッと前に振った。


「よし! ダリナさんにも東倉庫の手伝いへすぐ向かってもらおう。ハーデトリ、西倉庫と南倉庫にも、準備が出来次第荷物を回すぞ!」

「分かりましたわ。ですが、南倉庫は後に回してください。ダグザムさんが北門へ行っているはずですわ」

「うん、確かにその通りだ。では、東・西・南の順で荷物を誘導していこう。連絡は密にして、情報共有をしっかりと頼む。すぐに行動してくれ!」

「はい! ではダリナさん、一緒に来てください」

「分かりました。よろしくお願いします」


 俺はダリナさんと一緒に、今度は東倉庫へ急ぎ向かうために商人組合を後にした。


 さっきのアグドラさんのポーズ……きっと、会長っぽいポーズとして練習していたに違いない。

 やった後に「ついにこれを使ってしまった」って小声で言っていたからね。

次は木曜更新予定です。

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