表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/175

百二十八個目

 先日休みをとり英気を養った俺たちは、一階に集合していた。


「おはようございます」

「おはようございまーす」

「キューン(おはようございますッス)」

「おはよう……ございます」

『おはようございます』


 みんなちゃんと挨拶をしているのを確認する。

 最初のうちはガブちゃんが『うむ、苦しゅうない』などと言っていたので、躾けるのが大変だった。でも今では見違えるようだ。

 今日は明日からのことを考えて、少しだけ仕事の話をする予定としていた。


「明日から、王都の荷物が届く運びとなっています」

「うんうん、オレたちも箱や場所を用意したりしたから、大丈夫だよ!」


 セトトルは自信満々だが、そんなにうまく仕事っていかないんだよね……。万全の準備をしたつもりでも、大体穴があるものだ。

 でもしっかりと準備をしていれば、余裕を持って対応ができる。そういう意味では、今の状態は悪くないと思っていた。


「ですが、今日から荷物が届く可能性があります」

「明日からなのに……今日から、ですか?」


 フーさんの疑問は尤もだ。

 だから、俺はそれについて説明するつもりで朝礼を行っていた。


「確かに普通なら大丈夫なんだけどね。こういうときは、前日に来る人がいたりするんだよ」

「キューンキューン?(遠くから早目に来てたりとかッスか?)」


 俺はキューンの言葉に頷いた。しかし、それはまだ良いケースだといえる。悪い場合だと、我先にと早目に来る人がいる。これが厄介だ。

 こちらの準備などを考えてはくれないからね……。早ければいい、こういう考えの人は必ずいるものだ。


「そういうことなので、今日から心構えはしておきましょう。俺も出来る限り東倉庫にいるつもりだけど、いつ呼び出されるか分からないからね」

『ボスは忙しいからな。致し方あるまい』


 なぜかガブちゃんに同情されつつ、その後も話を続ける。

 注意事項などを確認している時だった。こんな朝早くにも関わらず、扉が叩かれたのだ。


「キュンキューン? キューンキュン……(開店前からお客様ッスか? CLOSEになっているはずッスけど……)」

「まだ開店時間より少し早いけど、ボスが言ってたみたいに早くきちゃったのかな?」


 確かに早く来るかもしれないとは言ったが、こんな朝早くは流石に想定外だった。せっかちすぎる気もするが、仕方ないか。

 ……いや、待てよ? 単純に打ち合わせかもしれない。アグドラさんや、ハーデトリさんとかね。

 なら、早く開けた方がいいだろう。俺はそう思い、扉を開いた。


「おはようございます。ご用件を……」

「おはようございます、魔王!」


 俺は扉を閉じる。そして鍵を、しっかりとし直した。

 無言で、なにも言わず、笑顔を崩さぬまま、相手を見た瞬間にだ。

 ……今、変なやつがいた。ここにいるわけがないやつだ。そうか、疲れているのかもしれない。

 ちょっと最近頑張りすぎていたからね。無理を言ってでも、もう一日休んだ方が良かったようだ。

 俺が現実逃避をしていると、足に擦りついているもふもふ狼がが声をかけてきた。


『ボスよ、客ではなかったのか?』

「うん、違うよ。絶対違う。間違いだったみたい。だから、開けたら駄目だよ?」

「キュン。キューン(間違いッスか。そういうこともあるッスね)」


 うんうん、間違えちゃう人だっているよね。

 開店前だと気付かずに、店へ来てしまう。飲食店とかへ10時に着いたのに、開店時間が11時とかで失敗するやつだ。

 ……だが、扉は当然まだ叩かれていた。


「魔王!? 魔王開けてください! 自分です! あ、もしかして準備中でしたか? なら、一言言ってくださいよ!」


 凄くうるさい。ノイジーウッドなんて目じゃないくらい、嫌な思い出が浮かび上がる。

 いるわけがない。ここにいるわけがない! 絶対に違う! これは幻聴だ! 幻覚だ! まだ俺は寝ているに違いない!


『なにやら騒いでいるようだが……』

「キュン、キューン……(ボス、この声ってもしかして……)」

「違うから! 開けないから! まだ開店前! いや、そうじゃなくても関わらない! ほら! 二人もセトトルやフーさんみたいに、扉から離れて!」


 俺の全身が拒否反応を出している。絶対に関わらない、と。

 しかし扉は叩かれ続ける。俺は絶対に開けないと決めていたが、このままでは家から出ることもできない。

 厄介ごとの塊が、店の前にいると考えるだけで気分が落ち込んでいく。勘弁してくれ。せっかく昨日は休みをとって、とてもいい気分だったんだ。


 ……少し経つと、扉を叩く音が静かになった。

 諦めて帰ったのかな? アグドラさんには悪いが、商人組合に行ってくれていると助かる。

 俺が本当にいないかを確認しようと扉へ近づくと、さっきまでとは違い、扉が優しくノックされた。

 どうやらまだいるようだ。このままじゃ店を開くこともできない。

 嫌々、仕方なく、後ろ向きな気持ちのまま、俺は諦めて扉を開いた。


「商人組合に行け!」

「……え?」


 言ってやったぞ! 扉を開けて間髪入れずに言ってやった! ざまぁみろ!

 見ろ! 相手も唖然とした顔で、悲しそうな顔を……悲しそうな顔? あれ?


「ご、ごめんなさいナガレさん。朝早すぎましたよね。マヘヴィンさんが、どうしてもと言うので……。また出直してきます」


 ……黒髪、ポニテ、鱗、尻尾に赤いリボン。彼女は少しだけ涙目になりながら、その場を後に……させたら駄目だ!

 俺は慌てて彼女の肩を掴んで止めた。


「ダ、ダリナさん!? すみません、失礼なことを言いました!」

「いえ、あの……こちらも時間を考えずに……」

「大丈夫です! 本当に大丈夫ですから! どうぞ中へ入ってください!」

「あ、本当ですか? では失礼しますね魔王!」

「待て」


 俺はずかずかと中へ入ろうとする、血色の良くなった頬がこけた男を、ギリギリのところで止めた。

 こいつ、本当になんでここにいるんだ。


「はい、待ちます! ……はっ、条件反射で答えてしまいました」

「あの日々が、無駄にはなっていないようで良かったよ。マヘヴィンは、なんでここにいるんだい? そうか、王都に帰って大丈夫だよ」

「まだ何も言っていませんよ!?」


 ぶーぶーと文句を言う駄目人間筆頭のマヘヴィンを尻目に、俺はダリナさんへ向き直った。

 王都からの荷物の件で来たのかもしれないので、彼女に話を聞こう。


「あの、ダリナさん。本日は突然どうしたんですか? 事前に連絡も無かったので、事情が分からないのですが……」

「連絡が、ない? もしかして、手紙が届いていませんか? 申し訳ありません、わたしの不手際ですね」

「手紙……?」


 ダリナさんは、事前に今日来ることを手紙で連絡してくれていたらしい。

 どんな不手際か分からないが、俺はそれを見ていない。どうしよう、彼女は悪くないが俺も悪くない。

 うぅん……とりあえず、一緒に商人組合へ行った方がいいかな?


「魔王! 魔王!」

「うん、分かった。じゃあマヘヴィンは王都へ帰ろうか」

「そんな! 聞いてくださいよ! これ! これを見てください!」


 全く聞きたくもないし、見たくもない。だがあんまりうるさいので、俺はマヘヴィンを見た。

 彼は手になにかを持っている。持っているのは……便箋?

 それを見て、最初に反応をしたのはダリナさんだった。


「あれ? それは、わたしがナガレさんに出した手紙では……」

「サプライズにしようと思って、自分がくすねておきました!」

「そうか! サプライズか! さすがマヘヴィンだ!」

「いやぁ、そんなに喜ばれると嬉しくなってしまいます!」


 俺はにっこりと笑いながらマヘヴィンへ近づき、手紙を受け取る。そして中を確認する前に、マヘヴィンの頬をつねった。

 この野郎! 常識的に考えて、それはやったらいけないことだろう!


「いひゃいっ! ひゃにをひゅるんでひゅか魔ひょう!?」

「こっちの台詞だ!」

「あ、あの、ナガレさん? 手紙が届いていなかった理由も分かりましたし、出直して来ますので、許してあげてくれますか?」

「ダリナさんに感謝をしろよマヘヴィン。次は無いぞ」

「無いってなんですか!?」


 無いって何って……そりゃ無いってことだよね。

 ダリナさんが庇ってくれていなかったら、躊躇わずエーオさんに連絡をして、お前を王国から追放してもらっていたところだよ。


「ボス? 入口でどうしたの? 押し売りとかならオレが……あれ?」

「見たこと……ある人が、います」

「緑髪の美少女!?」


 マヘヴィンは素早くフーさんに近付こうとするが、なんとか羽交い絞めにした。

 そういえば、王都では着ぐるみを着ていたから知らなかったのか……。

 フーさんに近づこうとするマヘヴィンを羽交い絞めにしながら、俺は現状に溜息をつくしかなかった。

次は金曜日に更新頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ