表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/175

百二十六個目

 俺は、東倉庫の前でうろうろとしていた。

 扉を開けて中へ入り、セトトルに謝らなければいけない。なのに、その勇気が出ない。

 素直に謝ればいいだけだ、ごめんと言えばいい……。だが、困っていた。

 セトトルは怒っているはずだ。普通に謝って、許してもらえるだろうか? 彼女に嫌われたくない。

 そうだ、機嫌取りになにかプレゼントを……。いやいや、こんな時間じゃ開いている店は無い。

 困った……。



 しかし、いつまでも困っていても変わらない。

 俺は意を決して、扉を勢いよく……開くことはできず、そっと開く。

 覗きこむように、ちょっとだけ開いて入った。


「た、ただいまー……」

「ボス? おかえりなさい!」


 やばい。いきなりセトトルが待ち構えていた。俺はその事実だけで、頭が真っ白になってしまう。

 どうしようどうしようどうしよう……。

 彼女はカウンターの上へいたのだが、羽をはためかせて飛び、ふわふわと俺へ近づいてきていた。

 もう考える時間も、ほぼない。……こうなったら、出たとこ勝負だ!

 俺はセトトルへ向かって、思い切り頭を下げた。


「ごめん!」

「ごめんなさい!」


 ……ん? 今、セトトルが謝っていた? なんで?

 俺の混乱していた頭は、さらに混乱していた。謝ったのに、謝られたのだ。ど、どうしたらいいんだろう?

 そう思いセトトルを見ると、彼女も予想外だったらしく、おろおろとしていた。

 どうしたらいいかが分からないまま、俺とセトトルはおろおろとする。な、何か言わないといけないのに、どうしよう。

 えぇい、俺が悪かったんだ! こっちから切り出すべきだ! 俺はセトトルを見て、もう一度謝罪の言葉を述べた。


「セトトルごめん!」

「ボスごめんなさい!」


 ……あれー? さっきと同じ状況に戻ってしまったよ? これ、どうするの?

 えっと……そうだ! セトトルの言葉を待とう。自分から言おうとしたからいけないんだ!

 俺はそう決めて、ぎこちなくも笑顔を作り、セトトルを見た。

 セトトルも俺を見て、なんとなく困った顔で笑っている。うんうん、お互い笑っているし冷静に話し合えるだろう。


「「……」」


 セトトルは、何も言ってはくれなかった。俺も彼女の言葉を待っているので、何も言えない。

 結果、俺たちが取れる行動はおろおろすることだけだった。



 数分おろおろした結果、俺はもう一度自分から話しかけることにする。

 このままじゃ埒が明かないからね。


「あの、セトトル」

「あの、ボス」

「「……」」


 また、室内には静寂が訪れた。

 だが、さっき俺から話すと決め直したんだ。俺はそのまま話を頑張って続けた。


「あのね、セトトル」

「あ、あのね、ボス」

「「……」」

「キュンキュウウウウウウン!(二人とも何をやってるッスかああああああああ!)」

「「!?」」


 俺とセトトルの会話に割り込んできたのはキューン……だけではなく、他の二人もいた。

 フーさんはくすくすと笑い、ガブちゃんもやれやれといった顔をしている。も、もしかしてずっと見られていたのか!?


「どうなるか……見ていました。でも……くすくす」

『やれやれ、ボスからまずは話したらどうだろうか?』

「う、うん。じゃあ、俺からでセトトルはいいかな?」

「オ、オレは大丈夫だよ!」


 よし、ちゃんと謝るんだ。よく分からない状況になっているが、大丈夫だ。

 俺は一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。そして改めて話し始めた。


「その、セトトルごめんね? 俺が仕事ばかりにかまけていたせいで、寂しい思いをさせちゃったから……」

「そ、そんなことないよ! オレが我がままを言ってボスを困らせちゃって……」

「違うよ! 俺が悪いんだって! ウルマーさんからも話を聞いたよ! もっと、セトトルやみんなのことを考えないといけなかったんだ!」

「ボスは悪くないよ! 忙しいのは分かってたんだから、オレがもうちょっと我慢しないといけなかったんだよ!」

「俺が!」

「オレが!」


 悪いのは俺だって言っているのに、セトトルは頑なに譲らない。いつの間にこんな頑固妖精になってしまったのだろう。

 だが、絶対に譲れない。悪いのは俺だ。彼女がなんて言おうと、絶対に俺が悪い!


「だから、セトトルは悪くないって! 俺が悪い!」

「ボスは悪くないよ!? オレが悪かったって、反省してるんだよ!?」


 うぐぐ……、なぜこんなにセトトルは意固地になっているんだ? そう思いながらセトトルを見ると、彼女も「うぐぐ……」と言っている。

 俺たち二人は、お互いそれに気付き……笑ってしまった。


「く、くくっ……はははっ」

「ちょ、ボスなんで笑って……えへへっ」


 その後、俺とセトトルは一頻り笑った。そんな俺たちを見て、三人も笑っている。全く、なにをやっているんだか。

 本当にそう思ってしまうのだが、笑ってしまったのだからしょうがない。


「セトトル、最後にもう一度だけ言うよ。ごめんね、俺がもう少しみんなのことを考えるべきだったよ」

「じゃあ、オレも最後にもう一回だけ言うよ! ボスごめんなさい! お仕事で忙しいのに我がままを言っちゃって……」

「いくらでも我がままを言っていいんだよ。それも嬉しいからね」

「でも! ……ううん、ボスはそういう人だよね」


 セトトルはそう言い、半泣きで笑っていた。きっとすごく悩んでいたのだろう。気が抜けてしまったのかもしれない。

 彼女はそんな自分に気付き、両手で涙を慌てて拭った。


「あ、あれ? オレなんで泣いてるんだろう? えっと……えへへ、おかしいね」

「おかしくなんてないよ」


 俺はそう言い、セトトルの頭を指先で撫でた。

 そういえば、こんな風に頭を撫でてあげるのも久しぶりな気がする。前は毎日のようにやっていたのに……。

 忙しいからって、俺はなにをやっているんだ。しっかりと反省しよう。


「ちょ、ボス! 泣いてるのに撫でられて……恥ずかしいよ! ……えへへ」


 他の三人も、なぜかうんうんと頷いている。ガブちゃんは、なぜか目をごしごしとしていた。案外涙脆いのかもしれない。

 でも本当にいい仲間に出会えた。そんなことを再認識してしまう。

 よし、四人に喜んでもらうためにも、休みをもらったことを告げようじゃないか。


「四人とも、明日は仕事が休みだよね?」

「うん、そうだよ! オレたちはお休みだけど、ボスは……」


 セトトルはそう言って、また少しだけ暗い顔になっていた。フーさんはセトトルの側へ近づき、慰めている。

 だけど、そんな顔はしなくても大丈夫だよ。俺は胸を張って、四人へ告げた。


「実は、俺も明日は休みをもらいました!」

「本当……ですか!?」

「キュン! キューンキュン!(おぉ! 久しぶりにみんなで休みッスね!)」

『狩りか? 肉か? 我は鍛え直したいぞ』

「肉はいいけど、狩りはしないかな」


 みんなが嬉しそうな中、セトトルは困った顔をしていた。どうしたのだろう?

 そう思い彼女へ近づくと、スカートの裾をぎゅっと掴んでこう言った。


「オ、オレが我がままを言ったから、ボスはお休みをとってくれたんだよね……」


 本当に、セトトルはとてもいい子だ。

 全く俺は、こんな子を悲しませてなにをやっているんだろう。胸が痛い。心の底から反省しよう。

 そう思った俺は、セトトルへ笑顔でこう言った。


「違うよ。いや、正直疲れちゃっててさ……。それで休みをくださいってお願いしたら、もっと休めって言われちゃってね」

「そ、そうなの?」

「うん。だから、セトトルが気にすることじゃないよ」


 俺の言葉を聞き、セトトルはまた笑顔に戻った。

 やっと安心してくれたようだ。やっぱりセトトルには笑っていてほしいね。

 少しでも彼女の気持ちが楽になったのなら、本当に良かった。


「やったー! ボスと、みんなとお休みだー!」

「うんうん、明日はなにをしようか? せっかくだし、みんなで相談しようか!」


 俺たちはうきうきとしながら二階へ行き、寝る時間も惜しんで明日のことを話し合った。眠くなるまで、ずっと楽しく話した。



 そういえば、みんなと寝るのも久しぶりな気がする。

 四人の体温を感じながら、俺はそんなことに気付く。あぁ、とても温か……いや、暑い! 

 俺は前と同じように汗を流しながら、幸せな気持ちで眠りについた。

次は月曜日に更新します。

なんとか隔日更新は保っていきたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ