百二十個目
新年明けましておめでとうございます。
読者の皆様には、本当に去年はお世話になりました。
何卒、今年もよろしくお願いします。
総管理人決定から二週間。
もう王都からの荷物が来るまでに、幾許の時間もない。俺は、毎日会議会議会議会議だ。
今日も朝から、商人組合で会議が始まる。もう会議は疲れました……。
だが、その日会議室に入ると、いつもとは違う人がいた。
「サイエラさん?」
「おはようナガレさん。今日の会議には私も参加することになった」
「そうなんですか。よろしくお願いします」
俺はサイエラさんと、アグドラさん副会長ハーデトリさんに軽く頭を下げて椅子へ座った。
もう緊張も何も無い。慣れてしまったのもあるが、やるべきことをやるだけだからだ。
さて、今日の議題はっと……。
「では本日の議題は、王都からの荷物への門での対応についてだ」
「危険な品物が町に入ってしまったら問題がありますし、門で揉め事が起こる可能性もあります」
「そこで、冒険者組合の会長である私が呼ばれたわけだな」
俺は、なるほどと頷いた。
そこは、一番危惧しなければならないところだろう。
気づかずに、麻薬やらワイバーンの卵やらが持ち込まれても困る。ということは四つの門で、かなりの人員が必要だ……。
「そこを冒険者に頼むということですね?」
「冒険者以外にも頼むが、様々なところで人手が足りていないな。商人組合でも、対応しているんだが……」
人手が足りないのは悪いことだが、全く仕事がなくて人手が余り過ぎているよりはいい気がする。
……ん? 待てよ? 人手が足りないということは、だ。
「今後、他の町で仕事を探している人が、アキの町に来る……?」
「確かにその可能性は高いですね……。ということは、町へ入る人へのチェックも厳しくする必要があります」
俺と副会長は、頭を抱えた。
全然人手が足りていないのに、職を求めて人ばかりが来るのか。人員整理さえ終われば落ち着くだろうが、それまでが大変だ。
「頭を抱えていてもしょうがありませんわ!」
「頭を抱えていても始まらんぞ!」
二人の言葉に、俺と副会長は顔を上げた。
総管理人の補佐になってから、この二人の言葉に元気づけられてばかりいる。俺も頑張らないと……!
二人の言葉に頷いた後、サイエラさんが話し出す。
「とりあえず冒険者を各門に配置しよう。北門へ多目に人を回す」
「それがいいですね。それを行った場合の、問題点を挙げてもらえますか?」
「問題点か……」
俺の言葉で、サイエラさんは顎に手を当てて考え込みだした。
恐らく問題点を纏めているのだろう。俺たちは、サイエラさんの言葉を待つ。なるべく問題点が少ないといい。恐らく金銭的な問題が大きいと思うのだが……。
だが彼女は、渋い顔で話し始めた。これは何かありそうだ。
「まず給与の支払いだが、これは問題ないだろう。王都の本部と連携しているからな」
「そうですわね。冒険者の方々が仕事を受けて下さるかが問題でしょうか? 自由な気質の方が多いはずですわ」
「いや……それも大丈夫だ。ナガレさんに世話になっていたから、力になりたいと言ってくれていた」
なんてありがたい話だ。それならどうにかなるかもしれない。
後は受入時のために、細かい指導がいるだろう。冒険者の方々は素人なので、分かりやすいマニュアルも必要となる。
……また作る物が増えてしまった。
「ただ……」
「ただ? どうかいたしましたか?」
サイエラさんが渋い顔のままで呟いた言葉に、副会長が反応する。
冒険者の人たちの協力も得られるのに、他に問題点があるのだろうか? 町の周囲の警護とか?
「ダンジョンがな……」
「しまった。その問題があったか」
サイエラさんの言葉に、今度はアグドラさんが頭を抱えた。
しかし、俺にはさっぱり理由が分からない。ダンジョンなんて、この状況なら放っておけばいいのではないだろうか?
冒険者の人たちだって、仕事としてダンジョンに行っていたはずだ。……いや、待てよ?
冒険者には面倒な縛りがあった。もしかして、あれのことだろうか。
「冒険者としての活動をしていないと、資格を剥奪されるというあれでしょうか? こんな状況ですし、なんとか変えられませんかね?」
「いや、そうではない。そこは私の権限でなんとでもする。問題は、ダンジョン自体だ」
「ダンジョン自体……?」
まるでダンジョンが襲って来るような話し方だ。
ダンジョンが近づいて来るとか? ……いやいや、さすがにありえないだろう。なら、一体なんだろう?
俺が考え込んでいると、その答えをハーデトリさんがくれた。
「ダンジョンには魔物が発生いたしますわ。理屈は分かりませんが、放置しておいたら町が危険ですの」
「発生原因を潰せば……分からないんでしたね。なら、ダンジョンの入口を封鎖するのは?」
「入口は一つだから、封鎖するのは簡単だ。だが、その間にダンジョンの中にはモンスターが増える。増えたモンスターが、封鎖を破り町を襲ったという話も、多々ある」
サイエラさんの言葉で、俺はようやく事態を把握した。ダンジョンってそんなに面倒な代物だったのか。
冒険者を誘致するのには使えたようだが、今では邪魔な物になっている。困った……困った?
本当に困ったか? そうでもないのではないか?
これから町に人も増えるし、冒険者だって増えるはずだ。なら、入口さえしっかり守られていれば……。
「あの、一つ提案があります」
「ふむ。ナガレさんが何か思いついたようだ。是非意見を聞こう」
アグドラさんに発言の許可を頂き、俺は一応立ち上がってみた。
話すときに立ち上がるというのは、日本特有のものなのだろうか? まぁ、今はそんなことはいいか。
「最低限とはいかないでしょうが、ダンジョン前に冒険者を配備する必要があります」
「その通りだ。しかし、人手はなるべく割きたくない」
「はい、サイエラさんの仰る通りです。ですので、サポートに向いているやつらに協力を要請しましょう。今後、冒険者が増えるまでの繋ぎには、ばっちりです」
「サポート? 一騎当千の冒険者に知り合いでもいるのか? わざわざダンジョンの前にいてくれるような、物好きがいるのか?」
そう、俺はそんなことをやってくれる可能性がある物好きを知っている。
あいつらの能力は、俺が今まで出会った中でも最悪レベルだからね。
「まずそいつらは、相手を無力化することができます」
「無力化? どんな相手でもですの?」
「全てとは言いませんが、ほぼ大丈夫だと思います。ただし、こちらにも相応のリスクはあります……」
「リスク、ですか。当然ですね。お金ですか?」
俺は副会長の言葉に、無言で首を横に振った。
お金と言えばお金なんだが、もうちょっと嫌な感じのリスクがあるんだよな……。でも背に腹は変えられないこの状況、致し方ない。
「お金も多少かかるでしょうが、それとは少し違ったリスクがあります。要求が面倒でして……。正直、あまり関わりたくはない相手です」
「お金以外のリスクか……。残虐非道な相手とかか? 山賊などを雇うつもりはないぞ? ……いや、ナガレさんの紹介なら信用できるのか?」
アグドラさんすみません。山賊ではないですが、山賊みたいなやつらです。後、山賊に知り合いはいません。
でもちゃんと報酬を提示してやれば、ダンジョンの入口の守りは大丈夫なはずです……たぶん。
自信はあるし、期待もできる。なのに、大丈夫か不安になる。
俺が少しだけ言うのを躊躇っていると、サイエラさんが机を両手で叩き立ち上がった。
「なぜそこで発言が止まるんだ! 今の状況、あらゆる方法を話し合うべきではないか! 例え相手が山賊でもな! まずは話し合って決めようではないか! そいつらが要求する物とはなんだ!」
……確かに、サイエラさんの言う通りだ。
俺は室内の四人を見回し、意を決して言うことにした。
「相手はノイジーウッド。要求する物は、女性の下着です」
一瞬の静寂の後、副会長が大笑いをした。
そして残り三人の女性陣は、とてつもなく嫌そうな顔をしたのである。
ちょっとバタバタしておりますので、次は水曜日に更新いたします。