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十二個目

 楽しく美味しい昼食も済ませ、腹ごなしがてらに町を散策することにした。

 情報収集のためでもある。先程の店での一件は、良い情報がもらえた。

 俺の想像以上に、色々と仕出かしてくれていて、想像以上に嫌われているということが分かった。

 前途多難だがしょうがない、コツコツと真面目さをアピールしていこう。


 東倉庫前の大通りを、東門とは逆方向へと歩いて行く。

 かなり広い通りで、いい気分で歩ける。

 色々とお店がある事も分る。後で洗面所用のタオルを買って帰ろう。


 そして結構な距離を歩くと、広場のような場所に辿り着いた。

 そこからは、東西南北に広い道が伸びている。ここが恐らく町の中心なのだろう。

 勿論、大通り以外にも細い道はたくさんあったが、買い物することなどを考えれば、散策の時間はこんなものだろう。

 今日はこんなものにして、来た道を戻ることにする。

 帰りは行きよりも道にある店をよく観察する。近場の店とは、出来るだけ仲良くなって損はない。


 俺はある店の前で足を止めた。中を覗くと、色々な物が置いてあるのが分かる。恐らく雑貨屋のような店だろう。

 他にこういった店を見た覚えはなかったので、ここでタオルがあれば買いたいところだ。

 店の扉を開き、中へと入った。


「あら、いらっしゃい!」


 恰幅のいいおばさんが元気よく迎えてくれた。ただ、頭には牛の角がある。ここが別世界なのだと、嫌が応にも感じさせられる。

 それにしても感じの良い店だ。色々なものが置いてあるのも良い。こういう店に入ると、なぜか楽しくなってしまう。


「何をお探しだい?」


 うぉ、いきなり真横に来て話しかけてきた。

 その積極性は見習いたいものだ。でも教えてもらえるのなら早い、直接聞いてみることにしよう。


「洗面所で使う、手や体を拭く布とかがないかと思いまして」

「ああ、はいはい! それはここだね!」


 おばさんが棚から出して持ってきてくれる。

 触ってみると、少し硬い感じはしたが悪くない。俺はそれを購入することにした。

 そしてお会計を済ませようとすると、セトトルが頭にも肩にもいないことに気付いた。

 店の中を見てみると、何かポスターカラーくらいの大きさの棒みたいなものを見ている。一体何だろう。


 夢中になっているセトトルの横に行き、俺も一本手にとってみる。

 ペンのような感じがするが、おしりのところに白い宝石がついている。


「お目が高いね! それは最近子供に人気の商品でね、『マジックペン』っていうんだ!」

「マジックペン……ですか?」

「ちょっと見ててごらん」


 そう言うとおばさんはマジックペンを一本持ち、木の壁に線を一本描いた。

 赤色の線が、壁に綺麗に残る。いや、店の壁にこんなの描いちゃっていいのか?


「ふふん、こっからがすごいんだよ。見ててごらん?」


 得意気なおばさんはその線に、おしりの白い宝石を向ける。

 すると、白い宝石は微かに発光しだした。

 そしてさっき描いた線をなぞる……すると、線が消えた。


「どうだい! 魔力(・・)を少し込めると、子供が変なとこに描いてしまったとしても、すぐに消せる優れものさ!」

「すごいですね……」


 俺は手に持っていたペンをまじまじと見ていた。

 ……うん、これは使える。


「すみません、これは何色ありますか?」

「お、買うかい? 優しいお父さんだね! 今は五色! ちょっとお高いけど、五本セットなら安くしておくよ!」

「分かりました、2セットください」

「子供二人分かい! 太っ腹なお父さんだね! 一本1100Zで、5本セットなら5000Z! でも2セット買ってくれるからね……。9500Zにサービスするよ!」

「ありがとうございます、助かります」


 俺はタオル5枚と、マジックペン2セットを購入する。

 セトトルは、何故か喜んでいる。何で喜んでいるのかは分からない。


 支払を済ませ、店を出る。そろそろ良い時間だろう、倉庫に戻らないといけない。

 そう思っていると、セトトルは嬉しそうに俺の袖を引っ張っていた。


「ボス! ボス! もしかして、それオレが使っていいの!?」

「え……。いや、これは仕事で使おうと思ってね」

「あっ……。うん! そうだよね! えへへ……」


 俺はダッシュで雑貨屋に戻り、セトトルに色鉛筆を選ばせて買った。

 あんな顔されたらしょうがないだろ!


 俺は色鉛筆を嬉しそうに抱えるセトトルと、倉庫へと戻って来た。さて、午後の仕事を開始だ!

 まず、二人で店の前を掃き掃除することにした。

 近所の人に、真面目さをアピールするためでもあり、綺麗な店をアピールするためでもある。

 店の壁もきっちり綺麗にしていく。セトトルが上の方はやってくれるので、大助かりだ。


 ここで掃除をしている分には、お客様がいつ来ても分かる。

 悪い人じゃないですというところも見せられて、一石二鳥だ。

 


 ……何事もなく、掃き掃除は終了した。

 俺はカウンター内の書類の片づけを始め、セトトルはそれを横で眺めている。休憩する時間も大切だろう。

 その時、扉が開かれた。

 お客様!? 待ちに待ったお客様なの!?


「失礼するよ。……ん? 新人かな? オルフェンスはいるかい」

「いらっしゃいませ。オルフェンスは退職いたしまして、今は自分が東倉庫の管理人をさせて頂いております。ナガレと言います。お見知りおきを」

「おぉ、これはご丁寧にどうも。荷物を受け取りにきたんだが」

「い、いいいいい、いらっいらっちゃいませ!」


 なんだ受取か……と、少しだけ思ってしまった。本当に申し訳ない。

 後セトトル、そんなに緊張しないで。

 荷物の受け取りにきたのは、物腰の柔らかな中老の男性……だと、思う。噛み噛みだったセトトルを見て穏やかな笑顔をしているくらいだから、良い人なんだろう。

 いや、人じゃないね。だって犬耳がついてるんですよ。なんというか、年齢が正直よく分からないというかね?

 まぁ、そんな言い訳をしても仕方ないし、年齢が分からないことも荷物の引き渡しには関係ない。俺はファイルを開く。エーオとサインが記載されていて、確かに木箱三つの引き渡しがある。


「木箱三つ、でよろしいでしょうか? お名前を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい、エーオと申します。引き渡しをお願いできますかね?」

「少々お待ちください」


 俺はセトトルに倉庫を開いてもらい、手前側の箱三つをセトトルと倉庫から出した。

 そして確認をしてもらう。


「どうでしょうか? こちらでお間違いないでしょうか?」

「……とても箱が綺麗になっていますね?」

「はい、一応こちらで軽く拭かせて頂きました。……その、ご迷惑だったでしょうか?」


 もしかしたら、何もしないでもらいたい品物だったのかもしれない。

 だとしたら、これは完全に俺のミスだ。そういう品物だって当然ある。まずったな……。


「いやいや、こちらの倉庫はその……評判があまりよろしくなかったものですから。私が預けたオルフェンスさんのことは、町でもよく耳にしました。不安もあったのですが良かった。丁寧に取り扱って頂いてありがとうございます」

「そうですか、それならば良かったです。ですが、そちらの許可なく行ったのはこちらのミスでした。申し訳ありません」

「こちらとしては管理が良く喜ばしいことでしたので、どうぞお気にせず」


 だが中老の男性は特に気にしていないようで、機嫌良さそうに受取証にサインをしてくれた。

 預かる時のサインと、今書いてもらったサインをしっかりと見る。

 ……完全に一致しているように見える。問題は無さそうだ。


 受取証なども雑すぎて、色々と問題がある。ここらも早急に直して行く必要がある。

 預かった品物の取り扱いについても、先に確認はしっかりしておかないといけないな、覚えておこう。

 

 扉を開き、荷物を運ぶのを手伝う。

 倉庫の前には荷馬車が止まっていた。これに載せるのだろう。


「どこに載せれば良いでしょうか?」

「おや? そこまでやって頂けるとはありがたい。では、右奥の方を空けておきましたので、そこにお願いできますか?」

「かしこまりました」


 俺が荷馬車に乗り込み、セトトルは荷馬車まで木箱を運ぶ。木箱は三つだけということもあり、すぐに片付いた。


「ありがとうございました。ぜひまたご利用ください」

「あ、ありがとうございました!」

「はい、こちらこそありがとうございました。また利用させて頂きます」


 そう言い残し、中老の犬耳男性は荷馬車を動かし去って行った。

 いやぁ、いい人で良かった。こっちまで嬉しくなる。


「良かったね! ボス!」

「うん、セトトルもお疲れ様。ちゃんと挨拶が出来ていたところとか、丁寧に荷物を運ぶところとかが凄く良かったよ」


 セトトルは誉められ慣れていないのだろう、とても照れくさそうに笑っていた。

 こういう一歩一歩の積み重ねが大事なんだな! よし! この後も頑張ろう!



 ……うん、確かに頑張ろうと言った。でもね、頑張るには相手も必要だよね? 

 その日、結局他のお客様は来なかった。


 夜になり、セトトルはシャワーを浴びにいった。

 どうやって浴びるのかが単純に疑問で聞くと、「ボス! 女の子にそういうことは聞いたらいけないんだよ!」と言って、顔を真っ赤にして走って行ってしまった。

 俺が聞きたかったことはそういうことではなかった。あの大きさのセトトルが、そのままシャワー浴びたら吹き飛ばされそうだということを聞きたかったのだが……。

 まあ、勘違いされる言い方だったのかもしれない。今後は気を付けよう。


 俺は二階で今日のことを振り返りながら、セトトルが買ってきてくれたサンドイッチを食べる。

 まず、この店の評判は悪い。

 だが掃除をしながら耳を傾けていて、評判が悪い理由が色々と分かった。


「あの店に強盗が……」

「態度の悪い……」

「いつも揉める倉庫……」

「オルフェンスが……」

「変わった格好……」

「余所者……」


 信用性は0である! 俺のことはどうにもならないので、とりあえず無視だ。

 強盗が入ったことも、当然のようにマイナスイメージとなっている。

 今後お客様を増やすためには、悪い印象を払しょくしつつ、宣伝もしていかなければならない。

 とりあえず朝は店の前と、倉庫の掃除。これは決定だ。

 店の前の掃除をするときは、近所の人を見かけたらしっかり挨拶をする。こうして少しずつコミュニケーションを……。

 駄目だ。これだけでは、とても追いつかないだろう。


 自分には営業の経験などがあるわけではない。こういうときの最善の一手が浮かばない。

 勿論、真面目にコツコツやっていくことは今後のためにも必須だ。

 だが、少しでもお客さんが来たいと思ってくれる、即時効果が望める方法も模索したい。

 ……借金あるからね、こっちも必死だよね。


 さて、何かいい手はないだろうか……。 

 やはりポスターを作るとか、ビラを作るか?

 んんん……。預かる物、預かる物。

 基本はメーカーから預かったりしていた。そして客先に出す。大まかだが、このイメージだ。

 ……メーカー? こちらの世界でいうメーカーは何に当たる? ……お店だ。


 俺は少しだけ思考が纏まって来ていた。

 外からのお客様も、この倉庫の評判が悪いことは知っている。つまり、預けには来ない。

 ならば、待つのではなく預けてくれる人を探しに行かなければならない。

 そして、そんな大口の荷物を持っているのは、当然お店や工場だ。


 ……まずは近所のお店を回って、入りきらない荷物を預けてもらえないか聞くとこからが良さそうだ。

 100件回れば、1件くらいは預けてくれるお店があるはずだ。

 問題は……100件も店ないよね?


 とりあえずは近辺のお店を回って、頭を下げるのはやろう。

 評判はすでに最低! 今さら失う物はない! これが強みだ、何でも試していこう。


 だが、何かさっき思いつきそうになったんだけどな。

 お店から預かる? それは良い。なら、何が引っかかったのだろう。

 ……分からない。


 俺はベッドに体を投げ出し、考えるのをやめた。

 色々と問題点を挙げて、改善方法を模索することは大好きだ。だが、思考が進まないこともある。

 こういうときは、案外考えないほうが浮かんだりするものだ。


「ボスー、シャワー出たよ! 入るなら水を出すよ?」

「あ、うん。お願い」


 俺はベッドから起き上がり、シャワーへと向かった。


 シャワーを浴びながら、なぜかアグドラさんのことを考えていた。

 何かが気になる、何て言っていたっけ? アキの町、東倉庫? 確かそんなことを……。


 駄目だ、後もう一歩が繋がらない。

 もう一歩で何か閃きそうなんだが……。

 俺はもやもやしたままシャワーを出て、その日は眠りについた。

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