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百十七個目

 舞台袖とでも言うのだろうか。ステージの横には、一応そういうスペースがある。俺たちは、そこに集合していた。

 あぁ、もう始まってしまう……。なにごともありませんように。俺はただそう祈るしかない。

 この催しものというか、晒しものたちを見るために、たくさんの人たちが集まっている。

 多すぎじゃないかな? みんな本当にお祭り気分だ。俺がげっそりとしながら見ていると、ステージに二人の人物が上がった。


「みんなー! こーんにーちはー! ……ほら、セトトルも!」

「え!? えっとえっと……こんにちは!」


 ウルマーさんとセトトルだ。

 俺は緊張も忘れ、ぽかーんと眺めていた。え? あの二人は、なにをしているんだ?

 そんな俺の横をアグドラさんと副会長が通り、ステージ上に登った。


「本日はアキの町、総管理人決定戦に集まってくれて感謝する! 司会進行は、ウルマーとセトトルがしてくれる。存分に楽しんでいってくれ!」

「麗しのウルマー! 歌姫ー!」

「セトトルちゃーん!」


 決定戦!? ただの投票でしたよね!?

 それに司会進行? アグドラさんと副会長がやればいいじゃないですか! 本当に、お祭り気分になっている。

 町を活気づけるには良いことなのだろうけど、どうしてこうなった。二人も挨拶だけして、さっさとステージから降りちゃうしさ。


「はい。それでは会長のご挨拶も終わったので、ちゃっちゃと進めていくよ! まずは四倉庫の管理人さんへの質問コーナーです! 四人とも檀上にどうぞ!」

「どうぞー!」


 質問コーナー必要ですか!? ……いや、必要か。仕事についての質問に答えて、どんな人かを知ってもらう必要があるのだろう。

 俺には質問来ないといいなぁ……そう思いつつ、俺は他三人と一緒に檀上へ上がった。


 ステージには、四人分の椅子が用意されていた。俺たちはそこへ座る。

 ……なるべく目立たないように、端っこのに座ろうっと。


「はい、それでは四人の紹介をいたします! セトトルお願いしまーす!」

「ひゃい! えっと、まずは北倉庫のアトクール! 知的なところが売りだよ!」

「……ふっ、よろしくお願いします」


 アトクールさんはノリノリで手を軽く振っていた。彼には女性のファンが多いようだ。キャーキャー言っている声がする。少し年配の方が多いけどね。

 この状況でも緊張していない彼の精神力は見習いたい。

 ……というか、緊張しているのは俺とセトトルだけなんじゃ? セトトルなんてガチガチだからね。

 

「つ、続きまして! 南倉庫のダグザム! すごい筋肉で、どんな荷物でも持ち上げちゃうよ!」

「おう! 俺の筋肉を見ろ!」


 ダグザムさんが筋肉を見せびらかすようにポーズをとると、野太い声援が上がった。

 うん、声援を上げているのは同じくマッチョな人たちだね。これは想像通りだ。後、子供の声も聞こえる。子供に人気なのかもしれない。


「三人目! 西倉庫のハーデトリ! とっても美人さんだよ!」

「おーっほっほっほ! セトトルちゃん誉め過ぎですわ!」


 ハーデトリさんは、いつも通り口元に手を当てて高笑いをしていた。

 彼女への声援は男性が多い。見た目がいいというのは得だ……。いや、彼女の人徳も当然あるけどね。


「最後! ……ねぇウルマー? ボスのだけ長いよ?」

「ん? いいんじゃない? そのまま読めば大丈夫よ」


 なに今の不安な感じのやり取り。どうして俺だけ説明文が長いんだ……?

 むしろ、短くしてほしい。というか、帰りたい。


「えっと、改めて最後! 東倉庫のナガレ! アキの町での管理人経歴は一番短いけど、噂には事欠かない! 二つ名の数は世界一! 『豚の英雄』『倉庫の魔王』『アキの町の黒幕』『二姫を落とした男』『セトトルちゃん可愛いですわ』! ……最後って、オレのことだよね!? もう! 続きいくよ! 英雄、色を好むとはこの男のことだー! ウルマー、英雄色を好むってどういうこと?」

「セトトル! ちょっとそれ見せて! 二姫をなんとかってなに!?」

「え? うん。オレにも、ちょっと分からないことが多いね。あ、この『セトトルちゃん可愛いですわ』ってハーデトリの字だ!」


 え、なに今の。二つ名ってなんですか!? 豚の英雄はいい。倉庫の魔王も聞いたことがある。黒幕!? 二姫を落とした!? 新しいのが増えているよ!?

 噂に尾びれがつくとはこのことだろう。ひどいことになっている。

 そもそも、二姫って……歌姫、鬼姫、王都の姫。思い当たるのは三人か。俺は誰ともそういう関係になっていないのに、ひどいもんだ。

 俺はびくびくとしながら、ウルマーさんを見た。彼女はセトトルから受け取った紙を見ながら、真っ赤になって震えている。物凄く怒っている。恐ろしい。


「二姫ってなによ! 歌姫と鬼姫ってこと!? ちょっと! これ書いたの誰よ!」


 ウルマーさんは怒りながら、檀上を降りて行った。ひどいぐだぐだ具合だ。

 司会進行のセトトルは、あたふたとして困っている。そりゃそうだよね。

 どうしよう助けようかな? でも俺は立候補者だし……。だがセトトルは意を決したように、話を続けた。成長したね、セトトル。


「そ、それじゃあ質問コーナー! 質問がある人は手をあげてくださーい!」

「はい!」

「はいはい!」

「はーい!」


 おぉ、みんな総管理人には興味津々なようだ。

 確かに、今後のアキの町への影響は大きい。みんなどんな人物かを、しっかりと見定めておきたいのだろう。これは予想よりしっかりと見定められそうだ。


「えっとえっとえっと……だ、誰にしよう。じゃあ、そこの男の人!」

「僕ですか! やった! それじゃあ質問です! 妖精とはどこで出会えますか!」

「え? 妖精? んっと、妖精の村かな?」

「どこにありますか!」

「内緒だよ!」

「なら」

「そこまでだドアホ!」


 いつの間にか檀上に戻ってきていた、アグドラさんが質問へ割って入った。いや、そりゃそうだよね。今のセトトルへの質問だし。

 アグドラさんはそのまま、セトトルの横へ立った。


「えー、司会者の一人が飛び出してしまったので、急遽私が代理を務めさせてもらう。ここからは、私とセトトルが司会進行役だ」

「良かった! アグドラが来てくれた!」

「分かった、分かったから涙を拭けセトトル。では、次の質問にいくぞ……そこのおばさまにしようか」


 あれ? あのおばさま、井戸端会議の……。

 彼女は自分が選ばれて、嬉しそうに立ち上がった。なにを聞くのだろうか?


「ずばり聞かせて頂きます! アキの町の黒幕についてです!」

「嘘だ。はい、次の質問に移るぞ」


 あっさりとぶった切った。おばさまは項垂れてしまっていた。噂話が本当に好きだな……。

 それにしても、この質問コーナー絶対必要ない。だって、仕事のことを一切聞かれていないじゃないか。

 これはアグドラさんたちも想定外だったんだろうな……。


「そこの青い服のご老公にしようか」

「ほっ儂か? 実はこの間、東倉庫のフレイリスちゃんに荷物を持ってもらっての。お礼を言いたいと思っておったんじゃ」

「あ、フーさんそんなこと言ってたね。今日も来てるはずだから、伝わってると思うよ!」

「そうかそうか、それは良かった」

「……質問じゃと言っておるだろうが! 次にいくぞ!」


 そしてどうでもいい質問をアグドラさんとセトトルが答え続ける。


「ハーデトリさんの3サイズを!」

「教えるわけがないだろ!」

「どうすれば、ダグザムさんのような筋肉を手に入れられますか?」

「知るか!」

「アトクールさんが女性と歩いていたって……」

「別に歩いてもいいんじゃないかな?」

『ボスの世界征服のスケジュールをだな』

「え? ボス、世界征服するの? 帰ったら聞いてみようね!」


 全く関係ない質問ばかりだ。特に最後のやつ。帰ったら、尻尾をまた握ってやるからな。

 そしてさすがのアグドラさんも、うんざりといった顔をしていた。


「えぇい! 仕事のことはないのか! ないんだな!? なら、次の質問で最後だ! ただし、次の質問はどんな質問でも本人たちに聞いてやる! 終わったら、管理人たちの自己アピールだ! セトトル、誰か選べ!」

「え? えーっと……じゃあセレネナルにしようかな」


 名指しで指定しちゃったよ。いいのかそれ?

 ……いや、もういいか。早くこの質問コーナーは終わらせよう。


「おや、私かい? なら一つ聞こうかね。四倉庫の管理人は仲があまり良くないと聞くけど、そこら辺はどうなんだい? 町全部が関わるわけだし、仲違いをされても困るよ」

「ふむ。確かにそこは、はっきりとさせておいたほうがいいな。セトトル、一人ずつ聞いていってくれ」

「了解! じゃあオレが順番に聞いていくよ。まずはアトクールからだね」


 セトトルは羽をぱたぱたと動かし、アトクールさんの前で止まった。

 最後の最後でまともな質問が来た。

 ……いや、まともかな? 今後の方針とかは聞かないで……いいのか。自己アピールで言うんだろうし。


「はい、アトクールお願いね! 管理人は仲が良くないんですか?」

「……そんなことはありません。私たちは、なんだかんだで認め合っています。特に私とある倉庫は懇意にしております。問題はありません」

「ある倉庫? とりあえず大丈夫ってことかな!」


 アトクールさんが、ちらりと俺を見た。

 他とも仲良くすると言ってくださいよ。みんなが聞きたいのは、そこだと思いますよ?


「じゃあ、ダグザムはどうかな!」

「まぁうちも同じだな。他の倉庫とだって、しっかりやっている。それに一つ頭が上がらない倉庫があってな。そことうまく連携をとってやっていきたいと思っているぞ」

「うんうん、ダグザムも大丈夫そうだね!」


 だから、ダグザムさんも俺をちらりと見ないでください。

 俺以外とも、仲良くしてくれるんですよね!? 信じていますよ!?


「ハーデトリは、どうかな?」

「私は……」


 なぜか、ハーデトリさんはそこで言葉を止めた。

 そして、俺をちらりと見る。みんな俺を見るのはやめましょう。

 ハーデトリさんを見ていると、彼女は一つ頷き、再度口を開いた


「私は今ではなく、自己アピールで言わせて頂きますわ」

「んん……? えっと、自己アピールのときにその内容にも触れるってことかな?」

「そうなりますわね。後、セトトルちゃん撫でてもいいですかしら?」

「駄目だよ! それじゃあ、最後はボスだね! 管理人は仲良しじゃないのかな?」


 本音を言えば、仲は悪くないが仲が悪いと言いたい。

 だが、ここは建前でも仲の良さをアピールしよう。そうすれば見ている人たちも安心するはずだ。

 俺はセトトルへ笑顔で答えた。


「管理人は四人とも仲がいいですよ。一緒に食事をしたり、飲みに行ったりもしています」

「え? でもボス帰ってきたとき……」

「仲良しだよ、すっごく仲良し。もう仲が良すぎて困るレベルだね。いいね、セトトル? 管理人は仲良しなんだよ!」

「そ、そっか。うん! オレの勘違いだね!」


 あ、危なかった。ギリギリの攻防をセトトルと繰り広げたが、俺はなんとか管理人は仲良し理論を押し通すことへ成功した。


 こうして、よく分からないままで質問コーナーが終わる。

 次は、問題の自己アピールか……。

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