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百三個目

 店を開くと、代わる代わるに冒険者さんたちを筆頭にお客様がきた。

 良かった。少し離れていても経営状況に問題はなさそうだ。問題があるとしたら……。


 店の隅に椅子を設置して、まったりしているヴァーマとセレネナルさんくらいだろう。


「二人とも、なにをしているんですか?」

「いやなに、忙しいだろうから様子を見にな」

「そうそう。別にお茶を飲んで、まったりしているわけじゃないんだよ?」


 どう考えても冷やかしだ。

 まぁでも王都では護衛をしてくれて、お世話になっている。強く出るわけにもいかない。

 なにより、友達だし。



 その日、慌ただしく俺たちは仕事をしていた。

 セトトルが一人あわあわと荷物を運んでいたことには気づいていたのだが、俺はあえて何も言わなかった。

 一人で頑張り続ける彼女を見ていたのに、人を回すこともせず見ていたのだ。

 そして……セトトルは荷物を運ぼうとして、グラリと態勢を崩す。そして荷物が落ち……る前に、キューンがキャッチする。先にキューンへ言っておいて良かった。


「あわわわ……、ごめんなさい!」

「セトトル、ちょっとこっちに来てくれるかい?」

「ご、ごめんなさいボス! オレ気を付けるから!」


 俺は彼女の頭を指先で撫でた。彼女は半泣きだったが、少し落ち着きを取り戻す。

 今のセトトルは、まるで昔の俺を見ているようだ。一人でなんでもやろうとしている。


「セトトル、たくさんの荷物を一人で運ぶのは大変だね?」

「う、うん。でもみんな忙しそうだったし、俺が頑張らないとって……」

「違うよ。無理をしたらいけない。なんでも一人でやろうとすることは、偉い。でも一人でやれないときもあるんだ。そういうときは、ちゃんと周りに助けを求めなくちゃいけない」

「でも、みんな忙しそうだったから……」

「それでも、だよ。言わないと伝わらないからね。セトトルが言えば、みんな喜んで手伝ってくれるよ」


 俺が他の面々を見ると、キューンとフーさんが頷いた。

 セトトルはそれを見て、申し訳なさそうな顔をして笑ってくれる。


「ごめんね。オレちゃんと手伝ってって言うよ!」

「そういうときは、ごめんねじゃないよ? ありがとうって言うんだ」

「うん! みんなありがとう!」


 今度こそ、セトトルは笑顔を取り戻した。人に手伝ってくれるよう言うのって、申し訳ない気持ちになっちゃうからね。

 でも、そんなことを気にしないで頼められる職場にしたいな。

 ちなみにガブちゃんは不思議そうな顔をしていた。犬だし、しょうがないね。


 それにしても今日は久々の開店で忙しいとはいえ、王都からの荷物が着始めたら人手が足りないかもしれない。

 ここは俺がなんとかしないといけない問題だ。人を雇うか……? というか、あそこでまったりしている二人に手伝ってもらえば、解決するんじゃないだろうか。

 俺がゆっくりしている二人を見ると、二人も気付いたようで頷いてくれた。

 頷いてはくれたのだが、俺は二人を手で静止した。二人に荷物運びをさせていいものだろうか。悩ましい。

 すると、俺の足にまとわりついてくるもふもふがいた。


『ボス、我が手伝おうではないか』

「ガブちゃん……。ガブちゃんは、怪しい人がきたら対応をお願いするね? 番犬だし」

『犬ではないと言っているであろう! ぬぐぐ……少し我を見くびっているな? 見ているが良い!』


 ガブちゃんがそう言い、一鳴きした。すると……小さい人型をした茶色の土塊が現れたのだ。

 これなに? サンドバック? こんなところに数体のサンドバックを並べられても、すごく邪魔なんだけど……。

 だが、その考えは間違っていた。サンドバックどもは動き出したのだ。


「おいおい、ゴーレムか。土魔法を扱う犬型生物……? いや、まさかな」

「魔獣ダイアウルフかい? あんな危険生物が、倉庫業務をすると思うかい?」

「ちげぇねぇな」

『我はダイアウルフだが?』


 ガブちゃんの言葉で、ヴァーマとセレネナルさんが吹き出した。ちゃんと拭いておいてほしい。

 ところで、ダイアウルフってなんだろう? 魔獣って響きがかっこいい。


「お前、本当にダイアウルフなのか!?」

『相違ない』

「せ、世界でも五本の指に入る魔獣が、こんなところでなにをしているんだい!?」

『見聞を広めようと思ってな』


 二人は唖然としていた。正直なところ、俺も唖然としている。

 ガブちゃんが……犬じゃない!? 衝撃の新事実だ。


『その様な些事は良い。荷物を運ぶ人手が足りないのであろう?』


 ガブちゃんはそう言うと、数体のゴーレムたちに荷物を運ばせだした……おぉ……いや、待って?

 俺は最初こそ驚いていたが、じっと見ていて気付いた。


「ガブちゃん、一度荷物を降ろしてくれるかい?」

『ふむ、分かった』


 そして降ろしてもらった荷物を見ると、土で汚れていた。

 そりゃそうだよね、ゴーレムだもん。ありがたいけど、これじゃ駄目だ。

 俺は箱をキューンに頼んでピカピカにしてもらい、ガブちゃんに話しかけた。


「ガブちゃん、箱を汚したら駄目なんだよ?」

『なぜだ?』

「……ガブちゃんだって、体が汚れていたら嫌でしょ?」

『問題ないな』


 困った。根本的な考え方が違う。

 どう例えればいいのだろうか……。俺が悩んでいると、フーさんが進み出た。おぉ、なにかいい例があるのかな?


「ガブちゃんだって、食事に土がついていたら嫌でしょ?」

『ふむ、確かに少し気分が損なわれるな。なるほど、では汚れないようなゴーレムを作り出そう』


 ガブちゃんはそう言うと、茶色いゴーレムを消し、灰色のゴーレムを今度は呼び出した。

 素材が違うのかな? 俺には色の違いくらいしか分からないけど。

 そしてガブちゃんは、今度はそのゴーレムに荷物を持たせ、俺の前で降ろさせた。


『これでどうだ?』

「うん……? 汚れていないね。これなら問題ないよ! ガブちゃんすごいね!」

『ふふん、偉大なるダイアウルフである我ならば、この程度のことは造作もない』


 俺はガブちゃんの体をわしゃわしゃと撫でてやった。

 教えてあげれば学習するし、可愛いなぁこいつ! わしゃわしゃ……。


「ボス! いつまで撫でてるのさ! お仕事しないと!」

「はい! すみませんでした! じゃ、じゃあガブちゃんはセトトルの指示に従って荷物を運んでくれるかな?」

『我が妖精の言うことを……?』


 ガブちゃんは不機嫌そうだ。種族的に偉そうだし、抵抗があるのかな?

 だが、俺が思っている以上にそれはひどいものだった。


『ずっと気になっていた。妖精? シルフ? スライム? 我が、なぜ大した力もない存在の言うことを聞かねばならぬのだ!』


 その言葉に、全員騒然とした。

 しかし、一番ショックを受けていたのは……俺だ。


「で、でもガブちゃんは……」

『力は貸してやる。だが妖精に従うつもりはない!』

「ガブちゃん……」


『どうしたボス。お前も我の言うことを否定するのか?』

「その理論だと……俺が一番下ってことかな? 妖精でもシルフでもスライムでもないし、力もないよね……?」

『……い、いやそのようなことはないぞ?』


 ガブちゃんは自分の失言に気付いたのか、急に慌てだした。

 そうか、俺は最底辺生物だったのか……。確かに、俺がいなくても倉庫回るんじゃないか? とかたまに思っていたんだけどね。

 そうか……そうだったのか……はぁ。

 俺がしょんぼりしていると、キューンがやれやれと前へ出た。


「キューンキューン! キューン!(ちょっとこの犬っころには躾が必要ッスね! ちょっと来るッス!)」

『ほう? スライム如きが我を説き伏せると? 面白い、付き合ってやろう』


 そして二人……二匹?は、二階へと登って行った。

 俺たちは仕事をしつつも、階段の方をちらちらと見る。キューンがビシッと注意をしているのだろうか?

 とても先輩っぽいが、へこんでいないで俺が言うべきことだった。反省しよう。

 もしキューンが言っても駄目だったら、俺がちゃんと言い聞かせないといけないな。

 俺が気持ちを新たにしていると、そして数分で二匹は戻ってきた。


『ワレガ、間違ッテイタ。上下関係ハ、大事ナコトダ。我ハ新人。敬意ヲ払ッテ、接シヨウデハナイカ』


 めっちゃカタコトになっていた。というか、尻尾が丸まりガタガタと震えている。

 俺は慌てて、キューンを抱きかかえて部屋の隅へと連れて行った。


「キューン、なにをしたの? あれはちょっと尋常じゃないよ?」

「キューン! キュン、キューン!(常識を教えただけッス! 子供だって、話せば分かるッス!)」


 一体どんな話し合いをすれば、一瞬で考えが変わるのだろうか……。

 その後、ガブちゃんは仕事を忠実にこなすようになった。

 正に忠犬ガブちゃん誕生である。

ゴーレムという人足を手に入れたでござるの巻。

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