百個目
オークの護衛? いえいえ、まるで囚人が護送されているような心境です。
このままオークの集落に連れて行かれて、そのままバラされてパックンチョされそうだ……。
もちろん、そんなことは無かった。俺たちは無事にアキの町へ辿り着く。
あの後も、ちらちらとモンスターがいたという報告が、なぜか俺に上がってきた。
ちなみに事後報告ばかりで、その全てが滅ぼしたという報告だ。オーク恐ろしい。
「ブヒ、ブヒィ(デハ、仕事戻ル)」
「あ、はい。お疲れ様です。ありがとうございます」
「ブヒィ(テッシュウ!)」
寿命が縮んだ気持ちでした。白髪とかが増えてても、俺は驚かないよ。
なにはともあれ、俺たちはアキの町の北門へと帰ってきたのだ。
「……オレたち、帰ってきたんだね」
『うむ。長い旅路だった』
ガブちゃんは途中参加だよね!? 全然長くなかったでしょ!?
この犬っころ、慣れてくると凄く面白い。とてもマイペースな犬だ。
まぁガブちゃんのことはいいだろう。俺は辺りをキョロキョロと確認する。
……誰もいない。
「ボス? どうしたのかしらぁ?」
「いや、うん。なんでもないよ?」
見送りのときに人が凄かったから、ちょっとだけ期待していた。いや、ほんのちょっとだけね?
出迎えの人が誰もいなくて、寂しいわけじゃないよ?
そんな俺たちの所へ、門番さんが近寄って来た。
「失礼します。ハーデトリ様はいらっしゃいますか?」
「私でしたら、ここにいますわ」
「お戻りになられたら急ぎ渡すようにと、お手紙をお預かりしています」
「あら、ありがとうございますわ」
ハーデトリさんは手紙を受け取り、開いて内容を確認している。
西倉庫でなにかあったのかな? 今さらだけど、この人は自分の倉庫を長いこと放置して大丈夫だったの?
彼女は手紙を確認し、ふむふむと頷いた。
「ボス。私はお土産などを商人組合に渡して戻ることにしますわ。ボスたちは新しくなった東倉庫へ、徒歩で戻ってくださいませ。ほら、降りて」
「いえ、あの……歩くのはいいんですが」
「男がつべこべ言うものではありませんわ」
なぜか彼女は、少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら俺たちを馬車から叩き出した。
あの手紙に起因する事情がありそうだ。だが、手紙を見たわけではないので、さっぱり分からない。
まぁ少し酔ってるし、歩いて帰る方が気持ちいいから丁度いいかな。
ハーデトリさんと馬車を見送り、倉庫へ帰ろうかと思ったときだった。
「悪いなボス。俺とセナルも冒険者組合に顔を出さないといけないらしい」
「そういうことなんでね。またね」
「はい、本当にありがとうございました」
俺は丁寧に頭を下げ、ヴァーマとセレネナルさんを見送った。
なんか、あっさりとみんな去って行ってしまう。少しだけ物悲しい。
そう思っていると、フーさんが袖を引っ張った。
「ね、ねぇボス? ちょっといいかしらぁ?」
「フーさん? どうかしたの?」
「私たちの荷物……馬車の中よぉ?」
「……何か事情がありそうだったし、後で連絡しておくよ」
俺たちの日用品までもが、お土産にされていないといいな。
心の底からそう思いつつ、俺たちは東倉庫への帰路を歩きだしたのだった。
久々のアキの町、なぜかとても懐かしい。
だがなによりも……足元を歩いているガブちゃんの背に乗っているキューンの上に乗っているセトトル。
なにこれやばい。超可愛い。トントントンと、鏡餅みたいだ。
そしてそれを嬉しそうに見ているフーさんも……ごめん、着ぐるみがマッチョだから、そんなに可愛くない。雰囲気可愛い。
……はっ。もしかして、そんな四人をにやにや見ている俺が一番怪しいのではないだろうか?
いかんいかん、気をつけないとね。
自分を戒めつつ、俺たちは東倉庫へ……戻って来た。
外から見る東倉庫は、メタリックで、屋根には荷物を運ぶ巨大アームが手のようについており、いざとなれば今すぐに変型して戦える。そんな佇まいだ。
……などという超変化は遂げておらず、前と変わっていなかった。
扉が両開きになっていることと、雨用の屋根が大きくなっているくらいだろうか?
そう、この屋根……。前は有効活用する前に、壊れたんだよ。あっ、やばい。ブルーになってきた。
うん、壊れたときのことを思い出してブルーになるのはやめよう。
壁とかだって、とても綺麗になっているし文句なしだ!
俺は浮かれた気持ちで扉を開いた。
「へい! 東倉庫へようこそ!」
「らっしゃーせー!」
俺は、そっと扉を閉じた。
え? 誰、今の? 筋肉もりもりな人が、たくさんいたんだけど……。
もう一度、場所を確認する。間違いない、東倉庫だ。
俺は悩んだ。悩んだが、入るしかない。そう諦めて、扉を再度開こうとしたときだった。
「ただいまー」
「ただいまぁ、疲れたわぁ」
「キュン、キューン(おぉ、綺麗になってるッス)」
『ほう、これが新しい我が拠点か。悪くないな』
平然と、他の面々は中へと入っていたのだ。
全く動じないんだね……。仕方なく、俺も恐る恐る中へと入った。
「おぉ、お帰りなさいやせ!」
「どうも、ただいま帰りました」
彼らは見た目とは裏腹に、とても丁寧?に挨拶を返してくれる。
でも誰なの? ほぼ同じ作りのはずなのに、筋肉たちのせいで別空間にきたように感じた。
「ボス、帰ってきたのか!」
「……ダグザムさん?」
「今日は俺の番でな! ここで仕事をしていた!」
「もしかして、持ち回りで仕事を?」
「といっても、俺とアトクールの二人でだけどな。自分の倉庫のやつを連れてきて仕事をしていたんだ」
仕事を押し付けていたようで、少し悪い気持ちがしてしまう。
しかし俺も王都で仕事をしていたわけだし、そこは許してもらおう。
それにしても、ダグザムさんの倉庫の人たちだったのか。妙に納得してしまった。
良かった、うちの倉庫が筋肉に占領されていなくて……。
後、アトクールさんにもお礼を言っておかないとね。
「じゃあ、俺らはこれで帰るぞ。お前らも疲れてるだろうし、店は閉めておく」
「ありがとうございます。今度改めてお礼をさせて頂きます」
「気にするな。……いや、そうだな。なら後で、おやっさんの店で飯でもしようぜ。アトクールも呼んでおく。それなら丁度いいだろう? 俺は先に店で飲んで待ってらぁ」
「分かりました。それでは少し休んだ後に、伺わせて頂きます」
「全員で来いよ? いいな、全員で来るんだぞ?」
「……? 最初から全員で行くつもりでしたが……」
「ならいい! じゃあな!」
ダグザムさんは後片付けを済ませると、野郎どもを引き連れて立ち去って行った。
えーっと……とりあえず、新しい倉庫を見て行こうかな。こういうのって楽しいよね。
「ボス! 入口で靴を履き替えるようになってるよ!」
「うん、外履きと内履きがこれで分けれるね。下駄箱もあるね」
「倉庫の扉が大きくなってるわぁ! 両開きで、荷物を入れやすくなってるわぁ!」
「うんうん、これくらいないとやっぱり困っちゃうからね」
「キュン、キューン。キューン(洗面所が、綺麗になってるッス。明るくもなってるッス)」
「うんうんうん、薄暗いと危ないし、これだと助かるね」
『我の寝床はどこだ?』
「うんうんうん……うん? ガブちゃん動かない!」
『む、どうした?』
俺は靴を履き替え、洗面所から雑巾を持って来る。
そしてガブちゃんの足跡を、綺麗に拭く。土足厳禁だと言っておくべきだった。
「ガブちゃん、土足厳禁だからね。今後は足拭きを置いておくから、足は綺麗にしてあがるように頼むよ」
『面倒だな……』
「面倒でもやるように!」
『わ、分かった分かった。言われた通りにしようではないか』
倉庫内なども確認したいが、おやっさんの店で食事に誘われている。確認は明日することにして、早く荷物を置いてこよう。
俺たちは手荷物を二階へと持ってあがった。
二階は……うん、特に変わりはなかった。でも新築だから綺麗になっている。
なんか、とても嬉しい。本当に俺の店なんだと、段々実感が湧いてくるようだ。
「ボス! 見て! 全員分部屋があるよ!」
「本当かい!? これでみんな自分の部屋で寝れるね! 空いている部屋もあるし、ガブちゃんにも部屋があるよ」
『ほう、我の部屋もあるのか? それはありがたいな』
「「「……」」」
この三人は、親離れをしようという気はないのだろうか……。
とりあえず俺たちは各々の部屋に荷物を……と思っていたのに、全員俺の部屋に荷物を置いて行った。
言いたいことはあるが、ダグザムさんも待たせているし後にするか。
俺たちは食事をするために、おやっさんの店へと向かったのだ。