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外伝8 ウルマー

「はぁ……」


 ぼんやりと、外を眺める。

 外は曇り空で、私の気持ちとぴったり一致しているようだった。

 最近、ブルーとまではいかないが、なんとなく気持ちが沈んでいる気がする。

 取り立てて何かがあったわけではないのに、東通りを歩く人を見たり、店へ入って来る人が気になってしまう。

 お客さんには笑顔を見せているが、どうしてもこんな気持ちが無くせない。


「はぁ……」


 私が何度目かの溜息を無意識についたときだった。肩を掴まれて揺さぶられたのだ。


「おい、どうした。客に料理を持って行ってくれ」

「え?」


 私の目の前には、料理が置かれていた。

 明らかに見て分かる場所に置いてあるにも関わらず、私はまるで気づいていなかったのだ。


「ご、ごめん父ちゃん! 今持ってくね!」

「おう。もう少ししたら客も引けるだろうから、それまではしっかり頼むぞ」

「はーい!」


 私は慌てて、置かれた料理をお客さんへ届けるのであった。

 もう……今までこんなこと無かったんだけどな……。



 昼の慌ただしさも終わり、私と父ちゃんは遅めの昼食を取り始めた。

 ぼんやりと料理を食べていると、父ちゃんが私を見ていることに気付く。どうかしたのだろうか?


「ウルマー、お前最近ぼーっとしてるな。具合でも悪いのか?」

「え!? そんなことないって! 元気いっぱいだよ!」


 私は腕を曲げ、力こぶを作るようなポーズをとり元気なことをアピールした。

 だがそれを見た父ちゃんは、にやにやと笑っている。一体なんだというのだろう。


「具合は悪くないみたいだな。なら……お前、寂しいんだろ」


 その言葉を聞き、私は一瞬固まった。

 そして全身へ一気に血が回ったかのように、慌てて言い訳をする。


「ちょっと待って! 勘違いだってば! べ、別にボスがいないからって、寂しくなんてないから! ……そう! セトトルたちは大丈夫かなって心配していたの! ボスは巻き込まれやすいからね! それにセトトルたちも巻き込まれているんじゃないかなって、心配していただけだから!」


 私が一気に捲し立てると、やっぱり父ちゃんはにやにやと笑っていた。

 むぅ、なんか感じが悪いなぁ……。


「俺はボスがいなくて寂しいだなんて、一言も言ってないんだがな」

「うぐっ……」


 謀られた! これは誘導尋問だったのだ。

 いつもならすぐに気付くのに、つい言い訳をしてしまった。

 うぐぐぐ……。


「べ、別に私だってボスのことを言ったわけじゃ……」


 すぐにボスの名前を出したのに、苦しい言い訳だ。自分でも分かっている。

 だが、他に言いようが無かった。そんなことはないと、否定したかったのだ。


「……まぁ、俺は少し寂しいぞ。短い付き合いなのに、あいつらが来てから色々とあったからな」

「確かに、色々あったよね。東倉庫で暗い顔をしていたセトトルを助けたと思ったら、スライムを連れてきたり、シルフを連れてきたり……」

「冒険者を店の常連にしたりな。あれで東倉庫から近いうちの店にも、随分冒険者の客が増えたからな」


 確かにその通りだ。

 ボスが来てから、うちの売り上げは上がりっぱなしである。

 元からお客さんが少なかったわけではないが、どんどんと増えているのは間違いない。


「で、でもそれは父ちゃんの料理がおいしいのと、私の歌をみんなが気に入ってくれてるからで……」

「そりゃそうだ。だが、ボスが理由の一つなのも間違いないだろ?」

「まぁ……」


 要因であることは間違いないが、どうしても素直に納得できない。

 私からすると、ボスは変なやつだ。

 どこから来たのかも分からないし、変な格好をしているし、なよなよとしている。怪しさしかない。

 だけどその反面、東倉庫を立て直し、冒険者となり、町に受け入れられ、オークの件で町まで救ってしまった。

 それだけの偉業を成したのにも関わらず、本人は平然としているのも腹立たしい。

 もっと自信を持ったり自慢をしても……いや、ボスはそういうタイプではない。

 ちょっと腕を組んだりしてからかうと、困った顔をしてするりと離れていく。

 ……お客さんには人気がある自信があったのだが、少し自信を無くしてしまう。

 看板娘としてのプライドというか……。

 そう! それにいっつも色んな女を引っかけている! 特にあの鬼姫が問題だ。

 最近見ないと思ったら、王都に行っているらしい。明らかにボスに付いて行ったとしか思えない。


「……はぁ」


 私は、また無意識に溜息をつく。

 私は結局のところ、あのよく分からない男に興味があるのだ。

 好きなわけではないし、気になるわけでもない。ちょっと興味があるだけ!

 そんな溜息をついている私を見て、父ちゃんはにやにやと笑ったままこう言った。


「ウルマー。お前は、もう少し素直になった方がいいぞ。後で気づいたって、遅いこともあるからな」

「……父ちゃんの方が素直じゃないと思うんだけど」

「うるせぇ! 男ってのは少し分かりにくいくらいでいいんだ!」


 確かに、私もそう思う。

 少しミステリアスなくらいな方が、男も女も魅力的だろう。そう母ちゃんにも教えてもらった。

 でも、ボスはミステリアス過ぎないだろうか? なにを考えているのか分からないことが多い。

 そもそも私の好みは、父ちゃんみたいにごつごつしていて、がっちりした男性だ。あのなよなよした男は、私の好みとは真逆。

 ボスは誰にでも優しい(特に女性に甘い)し、仕事は真面目だし、セトトルたちに優しいところを見ても、子供にも優しい人だろう。

 この強面の父ちゃんと、話せるところもすごい。まるで動じた様子無く普通に話す。

 ヴァーマや冒険者にしたってそうだ。ボスは平然と対応している。たまに困った顔をするくらいのものだ。

 それと女性に深入りしないところも、逆にこちらから追いたく……。

 そこまで考えて、私はバンッと机を叩いた。

 なぜ私はボスの良いところばかりを考えているのだろう。それに、追いたくなるなんて気持ちは全然ない!


「お、おい、どうした?」

「ごめん、なんでもない。食器を洗って夜の仕込みをするね」


 私は逃げるように、空になった食器を持って洗い場へと移動した。

 食器を洗いながら、もう一度ゆっくりと考える。

 ボスは私の好みではないが、いい男なのではないだろうか?

 何人も男が私に声をかけてきたが、彼は積極的に私へ声をかけない。

 普段は笑顔を崩さずに私を見ている。だが、こちらから少しからかおうとすると困った顔をする。

 今までの男なら、みんなやらしい顔をして顔や胸や足を見たものだ。

 だけどボスは、一瞬胸を見たりもするが、すぐに目線を逸らして絶対に見ないようにする。

 紳士だともいえるが、そういうことを避けているというか……逃げている?

 そう、逃げているのだ。この言葉が一番しっくりくる。

 よく考えれば、彼は女性を誘ったりは絶対しない。無理矢理引っ張られているところは見たことがあるが、自分から引っ張り回したりはしていない。

 その最たる相手が、鬼姫なのが妙に気に入らない。なんなのあいつは! ハーデトリにデレデレデレデレ……。

 して、ないんだよね。ボスはデレデレしていない。

 本心ではそういう気持ちもあるかもしれないが、それ以上に困った顔をしている。


 ……待って。よく考えたら男性と話しているときの方が、少し楽そうにしていた。

 もしかしてボスって……そっちの人!?

 いや、ありえない話じゃない。だから父ちゃんも怖くないのかもしれない。

 そういう趣味の人は、ガッチリとした男性が好きな人もいると聞いたことがある。

 父ちゃん、ヴァーマ、冒険者……思い当たる節はたくさんあった。十分ありえそうだ。

 あれ? でも待って? 寝起きの私と会ったとき、必死に目線を逸らして赤い顔をしていた。

 つまり……どっちもいける?


 駄目だ、変な方向へ思考がいってしまった。

 セトトルやフレイリス、アグドラと仲が良いことを考えれば小さい子が好きな可能性の方が……。いや、あれは子供を見る親のような温かい目だ。そうではない。


「あー! もう!」

「ん? どうした?」

「なんでもない!」


 父ちゃんは何を考えたのか分からないが、面白そうに笑っていた。腹立たしい。

 結局、私はボスのことが気になるのだろう。これだけずっと考えているのだ、それは認めなければいけない。

 だけど、絶対にこれだけは否定させてもらう!

 別に、ボスのことが好きなわけではないんだからね!


 はぁ……早くみんな無事に帰って来ないかな……。

 私は窓から曇り空を見つつ、早く晴れることを願ったのだった。

お待たせしました。

ウルマーさんの外伝となります!


体調はまだいまいちですが、更新を再開してみました!

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