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九十五個目

 次の日。

 朝から俺はハーデトリさんの父親であるホセイン=オーガスさんと、護衛であるヴァーマさんと一緒に商人組合の本部へ向かう運びとなる。

 朝から妙に機嫌が良かったハーデトリさんに手を振られたのが印象的だった。

 夜は夜で……。

 俺の部屋に侵入をしようとしたセトトルたちが、廊下で待ち構えていたメイドさんに捕まる。

 そしてハーデトリさんの部屋へ連れて行かれた。あれも中々衝撃的なことだった。

 恐らくセトトル・キューン・フーさんの三人を独占して眠ることで、ハーデトリさんの機嫌が最高潮なのだろう。



 ぐったりとしていた三人のことはともかく、俺に会わせたい人がいるということで連れて来られたのだが、誰に会うかは教えてもらっていない。

 商人組合の本部へ着くと、入口のところでエーオさんとダリナさんが待っていた。


「ホセイン様、ナガレさん、おはようございます。先にいらっしゃっておりますので、どうぞこちらへ」


 俺は挨拶もそこそこに、商人組合の最上階へと通される。

 そこには、大きな扉が一つ。他に扉が無いことから、部屋も一つらしい。

 ただ扉の前には、明らかに武装されている強面の人が数人立っていた。


「あの……一体誰に会うんですか?」

「会えば分かります。どうぞ部屋の中へ」


 ホセインさんが扉を開き、俺を中へ入るよう促す。

 悪い感じではないのだが、プレッシャーを感じてしまう。

 しかしいつまでもそのまま立っているわけにも行かず、俺は室内へと恐る恐る入った。


「失礼します」

「ん? あぁ、ナガレ殿。よく来てくれたね」


 中にいたのは、銀髪の美しい男性。そしてその隣には、昨日俺がハンカチを貸した少年がいた。

 親子、かな? どことなく二人は似ている顔立ちをしているし、恐らく親子だろう。

 この人たちが俺を呼びだしたのかな? もしかして、ハンカチのお礼? 商人組合の本部で?

 どことなく、しっくりと来ないが俺は室内へと入った。


「どうぞ、かけてくれたまえ」

「はい、失礼させて頂きます」


 上座に銀髪の男性が座り、その隣にちょこんと美少年が立っている。

 ヴァーマさんはなぜか座らずに、緊張した面持ちで俺の後ろに立っていた。

 ホセインさんとエーオさんは、俺の正面の椅子へと座る。

 ダリナさんは全員のお茶を持ってきた後、少し離れた場所に立っていた。

 そして全員にお茶が出された頃合いを見計らい、銀髪の男性が話し始めたのだ。


「久しぶりだな、ナガレ殿。元気そうでなによりだ」

「久しぶり……? すみません、以前にお会いしたことが?」

「そうか、あのときは顔を隠していたからな……。私の名前はウォルフ=フェルナンデス。商人組合本部の会長をしている」

「これは失礼をしました。会長の名前を知らないとは、自分の勉強不足です」


 この人が、本部の会長。つまり商人組合のトップだと思う。

 呼び出されたのか、エーオさんたちが会わせてくれたのかは分からない。

 そして名前を聞いても、いつ会ったことがあるのかも思い出せない。

 悩んでいる俺の後ろにいたヴァーマさんが、ダンッと音を立てて跪いた。


「やはりフェルナンデス王国の第一王子、ウォルフ様でしたか。一冒険者である俺が、この場に立ち会わせて頂き光栄です」

「王子……?」


 ヴァーマさんの言葉を聞き、俺は自分が失敗したことに気付く。

 自分がいる王国名すら調べていなかったこと。そして王子の顔も知らないこと。

 これはまずい……。


「ヴァーマと言ったかな? 気を楽にしてくれたまえ。ナガレ殿とは、ワイバーンの卵のとき以来だな」

「ワイバーンの卵……。あのときのフードの男性ですか? 顔を見ていなかったので、気づきませんでした。申し訳ありません」


 はっきり言って、非常にまずい状況だ。

 この王国の人間で、王子の顔を知らない人はいるだろうか? 全員が知っているとは言わないが、知っている人間の方が多いのではないだろうか。

 ……もしかしたら、俺が何者か調べるために呼び出したのかもしれない。

 すぐに決めつけるわけにはいかないので、話を聞きながら相手の考えを読まないとまずいことになる。

 俺は思考を纏めながら、ネクタイをキュッと締め直す。

 まさか気を抜けない話をすることになるとは思わなかった。


「この間、この子が世話になったと聞いた。父親として礼を言わせてもらいたい」

「いえ、ハンカチを渡しただけです。大したことではないので、どうぞ気にしないでください」

「ミシェル。自分で挨拶とお礼をしなさい」

「はい、父上。ミシェル=フェルナンデスと言います。先日はありがとうございました。ハンカチですが、新しいものをご用意させて頂きました。本当にありがとうございます」

「わざわざ新しいハンカチをありがとうございます。怪我は大丈夫ですか?」

「はい!」


 美少年は緊張しているのか、少し頬を染めながら俺へ真新しい触り心地の良いハンカチを渡した。これ、シルクじゃないか? つやつやしてるもの。

 あんなボロいハンカチが、シルクになってしまった。まるでわらしべ長者のようだ。

 さて、話も終わったしこの辺で帰りたいな。もうアキの町まで帰りたい。早く帰ろう。ボロが出る前に。


「さて、それでは本題に入りたいと思う」


 もちろん帰してもらえなかった。当然ここからが本題か……。

 聞かれたくないことは、考えるまでもなくある。

 出身地のこと、スライムやオークと話せること。この辺りは特に聞かれたくない。

 たぶん俺は少し青ざめながら、ウォルフさんを見ているだろう。だが彼は、ほんの少し微笑みを残した顔のままだ。一体なにを考えているかが、想像つかない。


「私が王子でありながら、商人組合の会長であるというのは、不思議に思うことだろう。一応、隠している事柄だ」

「そう、ですね。王子が会長をするというのは……」


 どうなんだろう。そういうものなのかな? 個人的な王族のイメージというと、国民に手を振ったりするイメージだ。

 後はこう……鷹狩りをしていたりとか?


「私は、この王国を豊かにしたいと思っている。そのために商業を学び、商人組合のトップとなった」

「国のことを考えてのその行動、ご立派だと思います」


 えーっと、一体なんの話をしているのだろう? 本題はどこにいったのだろうか。

 当たり障りのないことしか答えられないのだが、大丈夫かな?


「他国と繋がりがあり、悪企みをしていたアキの町の前町長一党」

「……はい?」

「私たちの調査が済む前に、そこの管理人となったナガレ殿のことを最初は疑っていた」


 待って? すみません、さすがに思考が追い付きません。

 他国から嫌がらせか何か知らないが、そういう理由で前町長たちや、オルフェンスさんがアキの町に入り込んでいた。そういうことなのかな? 初耳だけど。


「だが、ナガレ殿は東倉庫を立て直した。そしてアキの町にも多大な貢献をしている。オークの件については、私も聞いているよ」

「ありがとうございます。ですが自分だけの力ではなく、周囲の方々の助けあってこそです」

「その謙虚な姿勢。ワイバーンの卵のときも思った。君は商人にしては珍しいタイプだ」


 商人じゃないですからね。

 ただの倉庫の管理人です。大それたことはできませんし、他のことはできません。

 いや、倉庫の管理人は商人なのだろうか? 大きなくくりでみれば、商人……?


「今回、王都の倉庫での指導も素晴らしいものだったと聞いている。それだけでなく、街道整備などにも着手しているとか」

「指導もまだまだだったと、反省をしています。街道の整備は町のため、そしてオークのためになればと思い提案をさせて頂きました。それが実現できましたのも、周囲の力あってこそでして……」

「君のその姿勢、素晴らしくもあり問題もあるな。自分に対する評価が低すぎる」


 当たり前だ。評価というのは、自分で決めてはいけない。周囲が決めるものだ。

 つまりどれだけ仕事ができても周囲の評価が低ければ、仕事ができないのと同じこととなる。

 嫌というほど、そのことは知っている。だから、自分で評価はつけない。


「私が言いたいのは、君が思っている以上に私たちのナガレ殿への評価は高いということだ。今回の指導の件も踏まえ、お礼をしたい」

「お礼、ですか?」

「そう固くならないでいい。正当な報酬だ。本題というのは、そのことだよ」


 ウォルフさんは俺の目の前に、一枚の書状を置いた。

 手に取り内容を読むと……んん? なんだこれは?


「あの……」

「見ての通りだ。ナガレ殿は十二分に働いてくれている。そして借金などに関しても、君が背負うべき問題ではない。よって、残りはこちらで受け持とう」

「……なにか条件が?」

「疑り深いのは悪いことではない。最初はナガレ殿に、国を大きくするための手伝いをしてもらおうかと思っていた。能力もあり、信用できる人物。理想的だったのでね」


 今は違うということだろうか?

 それとも別の条件が……?


「様々なことを話し合ったが、ナガレ殿は今のままが一番だと判断をした。余計な責務を背負わされても困るだろう?」

「はい。自分の倉庫だけで手一杯です」

「なら、今のままやってもらえればいい。……そうそう、これはただの独り言なのだがね」

「独り言、ですか?」


 借金もなくなるようだが、独り言?

 今のまま倉庫業務をしてくれればいいと言っていたし、独り言と銘打ってなにを伝えようとしているのだろうか。


「王都は王国の北側に位置する。そしてアキの町は南側」

「……」

「我々は、南側の拠点となる町を選出していた。選出している中で、街道整備などを進めている町があった。我々はそこを南側の拠点とし、連携をとっていこうと思っている」

「つまり……忙しくなると?」

「話が早い、そういうことだ。……おっと独り言だったね。聞き流してくれたまえ。それと東倉庫の改装が先日終わったらしい。連絡がきていたよ」

「倉庫が完成したんですか! 早かったですね……」


 倉庫の完成は嬉しいが、この人は……ずるい! すごくずるい!

 東倉庫の仕事を増やすとか、引き抜きなら反論ができた。

 アグドラさんと話し合って決める、と言えたからだ。

 でもアキの町が忙しくなり東倉庫が忙しくなることは、俺が反論する事柄じゃない。

 借金とかも帳消しだが、これからも国の発展のために、アキの町を大きくしてくださいね。こういうことだろう。

 急いで帰って対策を練らないと、大変なことになってしまう。


「いつごろから計画は動き出すのでしょうか?」

「ナガレ殿たちがアキの町へ到着した一ヶ月後くらいにしようと、話し合っている」

「分かりました。では、自分はこれで失礼させて頂きます」

「なにか困ったことがあれば、いつでも私宛に連絡をしてくれたまえ」

「ありがとうございます」


 にこやかな顔のウォルフ王子、ホセインさん、エーオさん。

 ちょっとよく分かっていないミシェルさん。

 気の毒そうな顔のダリナさんを尻目に、俺はヴァーマさんと商人組合を後にした。


 借金は無くなったが、忙しくなってしまいそうだ……。

明日で王都編を終わらせれるかな、と思っております。

妙に長々となってしまいました。

色々と反省をしつつ、頑張りたいと思います。

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