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かすかな抵抗

「いや、俺はやっぱり納得が出来ねぇ。カレンの時は悲しかったけど、我慢したんだ。アイツが幸せになるのならってな。でもそんな事情を知って、俺は黙って見過ごす事は出来ねえ!」


 沸々と怒りがこみあがって来た。それは愛する娘を失い、更にその孫をも失おうとしている理不尽な事実にでもあるが、先ほどアイオーンを目の当たりにした時、何も出来なかった自分の不甲斐なさに対してでもあった。


 抑え切れない怒りが全身を支配した次の瞬間、気がつけばゲイリーは自分の右隣にいたSPの腕をひねり上げ、それを盾にしながら出口に向かっていた。


「おいっ! ケガしたくないヤツは下がっていろ!」

「馬鹿なマネはよせっ! お主一人で何が出来る!?」


 通常の元老院内は厳戒体制を敷いているが、首相の部屋だけは事実を必要最小限に留めたい事もあって警備は最小限で、中にいたSPの数ではアドレナリンの分泌が最高潮に達したゲイリーを、止める事は出来なかった。


ゲイリーは元海兵隊員の経験から、連れて来られる時に建物内の案内図を確認していたため、SP一人を盾にしながら、迷うことなく15歳が集まる会場のドアを開けると、そこには既に質疑応答を終え、船に乗り込もうとしているケンジたちの姿が見えた。


「ケンジ! それに乗るんじゃねぇ! お前らみんな食われるぞ! 今すぐ出ろ!」

 いち早く事態の異変に気づいた智也が、ケンジの肩を叩いた。


「おい、あれお前んトコのじいさんじゃないか? なんか叫んでいるぞ。食われるとか言って」


 振り返ると目の前には口から泡を吹いたSPを小脇に抱えたゲイリーが立っていて、勢いよくケンジの腕をつかんだ。


「それに乗るな! カレンもお前の父ちゃんもこれに乗ってアイオーンに食われたんだっ!」


言っている事はさっぱり理解できなかったが、その目を見ると、もう何を言っても無駄な事だけはすぐに理解できた。


「行くぞっ!」

 ゲイリーは猛スピードで駆けだした。


「お、なにか面白そうだ」

 智也は後を追った。


「え? 智也、何処行くの?」

「おい、どこいくんだよ、智也、綾音!」

「ん、龍次、どうした?」

 訳もわからず智也の幼馴染みである綾音、修一、龍次の3人も続いた。その後ゲイリーは45歳の会場に向かい、入り口のドアを蹴破った。初めは驚いていた入り口付近の人々も、それがゲイリーだとわかると、にわかに色めき立った。


「それに乗っちゃダメだ!」

 ゲイリーは必死に叫んだが、ほとんどの人たちは元老院側が用意したパフォーマンスだと思い込み、大いに盛り上がった。


「なんだ、最近は審判の日もエンターテイメントに力を入れているんだな」

 またゲイリーコールが沸き起こり、諦めたゲイリーが出口のほうに向かおうとすると、まるで現役時代の退場シーンのように、まわりの人々にもみくちゃにされながら出て行った。盛り上がった会場は皆が逃げるまで、追いかけてくるSPや警備員に足止めを食らわせるには十分だった。


 会場を抜け出したゲイリーたちがとにかく全力で走り続けていると、一緒についてきた野次馬は全て脱落し、残ったのはケンジと智也、そして綾音、修一、龍次だけだった。


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