そして・・・
数年後、ワインレッドのSR400が、シングルの乾いた排気音を響かせながら走ってきて、真新しい楽器店の前で止まった。
「いらっしゃい」
店に入ると、ケンジは辺りを見渡した。
「ここは、おじさんの店?」
「そうだよ。とは言っても最近趣味で始めたばかりだから、ほとんどが売れていないけどな! がはははっ! 何か探しものかい?」
「腕を怪我していたからずっとギターが弾けなかったんだけど、やっと少し動くようになってきたから、また始めようかと思って」
「そりゃめでたい話だな! よし、お祝いだ! 好きなギターをやるよ! 持って行け」
「え? そんなのいいよ」
「そうはいくか! 俺は一度決めたら引かねえ男だ! しかも、何となくお前は他人とは思えねえ。この黒のレスポールなんかどうだ? あ、こっちのストラトキャスターもいいな。色はちと派手目のライトブルーだけど。
そういや、何年か前に同じようなギターを誰かにあげたな。飲み屋で知り合ってさあ、いい年こいてギターを始めたいって言うから、俺のコレクションから一本やったんだよ。そしたら、すげえ喜びやがって。
息子が大きくなったら、くれてやるんだって、大事そうに持って帰りやがった。それからさ、楽器店をやろうと思ったのは。あいつ、なんて名前だったかなあ。ま、いいか。で、どっちにする?」
「やっぱいいや。大切なストラトキャスターが家にあるんだ」
「じゃあ、このレスポールをやるよ。音が違うから面白いぜ。持っていけ!」
「有難う、佐原さん」
「ん? なんで俺の名前を知っているんだ? 前にどこかで会ったか?」
「あ、いや、表に看板があったから」
ケンジの顔を佐原がジーっと覗き込むと、慌てたケンジは顔を背けて、話題を変えた。
「ところで、おじさんは結婚しているの?」
「嫁も子供もいるぜ! それがどうした?」
「家族を養わないといけないのに、売り物をくれちゃっていいのかなと思ってさ」
「お前に心配される筋合いはねえ! いいから持って帰れよ」
「ありがとう。おじさん、息子さんとその奥さん、そして、お孫さんによろしく」
「何だ、お前。俺の息子はまだ1歳だぞ! そんなに俺は老けて見えるのか?」
「そういうわけじゃないけど、ただ……」
「変わったヤツだな。とっとと帰って練習しやがれ!」
店を出たケンジはしばらく傷跡の残る左手を見つめ、空を見上げた。済んだ青空をしばらく眺めたあと、もらったギターを抱えながら、来た道を帰っていった。




