潜入
「ヤツらが来ました!」
「予定通りだな」
真実の目による元老院への侵攻が始まった。同日に各国軍が共同声明を発表し、真実の目に対する掃討作戦が展開された。また周到な情報操作もあり、元老院の周りにマスコミは一切来ていなかった。
「もっとお年寄りばかりかと思ったら、結構若い子たちも多いのね。ちょっと楽しみ」
「マギーは潜入していたから、よく知っているだろう? 年寄りは幹部だけさ。だてに布教活動を長年行っていたわけじゃないって事だ。それに竹やぶの連中はみんな若いだろ」
正面玄関から乗り込んだ先発隊と、元老院の警備員とのもみ合いが始まった。
「私は先頭の男と一度手を合わせた事がありますが、彼は厄介です。あとこの中にはいませんが、ゲイリー・ユングというかなり腕の立つ老人もいるそうです」
「その老人なら知っている。ちょっとは楽しめそうだな」
格闘の訓練を受けた元老院の警備員に比べ、ほとんどが戦いの素人である真実の目は、当初は苦戦を強いられた。それでもミゲルや修一、龍次の活躍もあって巻き返し、次第に形勢が逆転していった。
「よし、かなり減ったな。後は皆に任せて、俺たちは中に入るぞ」
「瀬戸っち、今日は隊長、すごく楽しそうだね」
ユンファが瀬戸に耳打ちをすると、瀬戸は小さく頷いた。
「気持ちが高ぶっているんだよ。今までの任務は暗殺ばかりでまともな実戦はなかったし、隊長と五分に渡りあえるヤツなんていなかったから」
「瀬戸っちでも?」
「僕も多少は腕に自信があるけれど、隊長は別格だ」
「さあ、先頭が建物に侵入して来たぞ。みんな、配置につけ」
「はいっ!」
外の喧騒とは裏腹に、大理石が張り巡らされた元老院の中は、突き抜ける様に高い天井と相まって、ピリピリと刺すような緊張感と静寂につつまれていた。
ミゲル、修一、龍次の3人が警戒しながら階段に差し掛かると、カツカツとハイヒールが床を打つ音が聞こえてきた。中央の広い大理石の階段を、黒の革ツナギを身にまとったマギーがしなやかに体をくねらせ、ゆっくりと下りてきた。お揃いのツナギを着たユンファも、マギーを真似て体をくねらせてはみたものの、細いピンヒールのマギーに対し、底の厚いワークブーツを履いていた事もあって、明らかにぎこちなく見えた。
「こんにちは、ようこそ元老院へ」
「マギー、やっぱこの格好は恥ずかしいよぉ。体のラインがモロに出てんじゃん」
「あら、似合っているわよ。自慢の胸も強調されているし」
「えーっ! それ嫌味!? あんたの方がめちゃ大きいじゃん!」
見とれていた修一にミゲルの蹴りが入り、我に帰った。隣を見ると、龍次は固まったまま、直立していた。
「あの~、お取り込み中に申し訳ないスが、そこ通してもらっていいスか?」
「ごめんなさい、貴方たちを通す訳にいかないわ」
「ッスよねーっ! でも困った事に俺たち、女性には手を出せないスよ」
両手を広げお手上げのポーズをした修一に、ユンファはしなやかな側転から一気に間合いを詰めて蹴りを繰り出した。修一は慌ててよけたが、かかとが鼻先をかすめ、鮮血が飛び散った。
「そんな事を言ってると、あんた死ぬよぉ」
「テコンドーか。修一、彼女の言う通りだ。全力で挑まないと容赦なく殺されるぞ」
「あんたがミゲルって人? なら行っていいよ。奥で瀬戸っちが待ってるから」
「じゃあ私のお相手はこっちの子ね。うん、そのワイルドな感じ、嫌いじゃないわ」
「俺は容赦なんかしないぜ、おばさん」
不敵な笑みを浮かべたマギーはゆっくりと体をくねらして型を構え、左手を前に出すと、人差し指と中指で手招きし、龍次を挑発した。
「あなた、いま禁句を言ったわよ。残念だけど、死ぬしかないわね」
「蟷螂拳か。北派だな。しかも、かなりの使い手だ。気をつけろよ、龍次」
横を通り過ぎるミゲルにウィンクをした後、マギーは龍次に襲いかかった。ミゲルは後ろを振り向かず、そのまま階段を上がっていった。




