篠宮 道源
「えー、それでは第105回東アジア州の審判の日を、今回はここ日本にて開催いたします。まずは開会に先立ちまして、東アジア州元老院首相、篠宮道源様より、ご挨拶を賜ります。それでは篠宮様、どうぞよろしくお願い致します」
所々に設置してあるスピーカーから、開会のアナウンスが聞こえてきた。
「皆さん、こんにちは。今回は12年ぶりに私の祖国日本で開催出来た事を、光栄に思います。もう皆さんご存知の通り、この審判の日に選ばれ、天上界に招かれると言うことは、とても名誉であり、喜ばしい事であります。
もちろん天上界がどれほど素晴らしいかを説く術は、私にはありません。今日、ここに集まって頂いた皆さん、特に15歳の皆さんは、幼い時期にご両親が選ばれ、寂しい思いをした人も大勢おられるでしょう。
15歳で迎える審判の日は、非常に狭き門です。今日選ばれなかった人たちも、日々精進することで、30歳の時に選ばれる人へと成長できるのです。45歳を迎えた人は、45年間ものあいだ現世に貢献したことが既に賞賛に値するため、ほとんどの方々がここに来られている事と思います。
我々元老院は選ばれなかった者の集まりであり、現世を平定に導く事が我々の使命です。もちろんそれもやりがいのある仕事には違いありませんが、我々は一人でも多くの方が天上界に導かれるよう望んでおります。
本日はどうもおめでとうございました」
集まった人々の多くは、まるで同窓会のように旧友との再会を喜んでいたり、昔話に花を咲かせたりしていたので、道源の話はほとんどがそれらの声でかき消された。
「チェッ、60歳にはねぎらいの一言もねぇのかよ」
ゲイリーが呟くと、隣の老人も静かに頷いていた。
「えー、それではこれより各年齢別の説明会を行ないます。15歳は青、30歳は黄、45歳は赤の用紙が貼ってある部屋に入り、しばらくお待ちください」
ほとんどの人々が動こうとしなかったが、懸命なスタッフや警備員の誘導もあり、少しずつではあるがゾロゾロと会場に入っていった。
「ほらケンジ、こっちだよ」
智也に促され、ケンジも仕方なく後に続いた。
「えー、皆さん入られたようですので、それでは今後のスケジュールをお伝えします。
こちらは15歳のグループですが、基本的に30歳や45歳も流れはほぼ同じです。まず天上界がどのような場所なのかを説明する映像を見て頂いて、その後は現世との違いや注意点などの説明致します。皆さんからの質疑応答の後、それぞれ天上界での役割や住所などが書かれたカルテを受け取り、順番にあちらの乗り物に乗って下さい。
中に入ると、人が一人ずつ入られるサイズのカプセルがありますので、そちらに入ると目の前に酔い止め薬が備え付けられています。これは超高速で移動するため、飲まないと非常に危険ですので、必ず服用して下さい。
飲み終わりましたら、アイマスクを着用して横になってください。ほどなくして到着しますので、到着しましたら現地の係員の指示に従ってください」
その頃、ゲイリーと老人が45歳のグループの後について歩いていると、先ほどゲイリーが締め上げた警備員が慌てて駆け寄ってきた。
「も、申し訳ありませんが、60歳の方はこちらではありません。直接元老院首相に謁見して頂きます。彼らが案内しますので、ついて行ってください」
ゲイリーと老人は屈強なSPに連れられ、2階にある大広間に通された。壁には一面に彫刻が施され、ドーム型の天井は高く、モザイク画が描かれていた。中央には大きなイスがあり、その周りを無数のロウソクがゆらゆらと炎を揺らしていた。